3.明かされた真実
「我々、アイオンの夜明けの目的···、それは······真実の歴史の公開だ······!」
「真実の歴史だと···?」
「カイルス国王聞いているか?我々はユーロスギニカ王家の重大な秘密を知っている。お前たちが偽の王家だという秘密をな······!!!」
玉座の魔術モニターで重臣たちと事態を見ていたカイルス王は表情を曇らせた。
「何···?どういう事だ?」
ヘリオスは怒りと疑念で眉をひそめた。
「教えてやろうヘリオス王子、この国の真実を。この国は実は騎士王ライアスではなく、一人の魔術師によって作られたのだ。ライアス王の末裔たるユーロスギニカ家を表の王とし隠れ蓑として、その真の王が裏に隠れるためのな」
学院内が少しざわついた。
「悪いが全くデタラメな話にしか聞こえんな」
「くくく···、お前はまだ秘密の継承を行っていないだけなのだ。どうだカイルス国王よ、今からでも秘密の公開に踏み切ったらどうか。でなければ真実を知らぬままヘリオスが死ぬ事になるぞ」
「俺がお前たちごときを相手に死ぬ訳がないだろう!」
「―――そうだ、そうだー!」
「―――ヘリオス様が負けるはずが無い!」
「―――引っ込めアイオンの夜明けめ!」
「―――帰りやがれ!テロリスト共!」
ヘリオスの怒声に加勢して学院生たちが上空に向かって次々にヤジを飛ばした。
「どうやら説得の余地はなさそうだな。ヘリオス王子それにカイルス国王よ、後悔してももう遅いぞ。ライアスゲームの開始は一時間後とする。それまで精々偽りの歴史の中で生きるがいい、ユーロスギニカよ」
ヘリオスとアレキサンダーの元へ私服軍人に連れられたユースティアが合流した。
「ユースティア、無事だったか」
ヘリオスは人目を憚らずにユースティアを抱きしめた。
「ヒュー、···それにしてもアリア王女はどこにいるのか」
アレキサンダーは冷やかすように口笛を吹いた後、次の心配をした。
「現在、探索中です。准将たちはここで待機をお願い致します」
「分かった、任せるぞ」
するとそこに小型の魔術モニターを伴った国王の侍従が現れた。
「ヘリオス様、国王様より至急のご連絡に御座います」
ヘリオスはモニターの中の神妙な面持ちの父王をまじまじと見た。
「―――我が息子ヘリオスよ、このような形で我がユーロスギニカ家の真実と隠された歴史を継承させる事になったのを、どうか許して欲しい······」
「···!」
「―――かつてこの世界では支配者の魔術師と支配される存在であった騎士との間には決して埋められないほどの身分の差があった。真祖ジ・ムーは魔術師でありながらこの身分差に異を唱え反乱戦争を起こした。
その時ジ・ムーの元に付き従ったのが初代ライアス王を始めとした古代の英雄たちだったのだ。戦争はジ・ムーの強大な魔力により終結し、この国においては魔術師と騎士の平等が達成される事になった。
だがジ・ムーは未だ果たされない世界の救済を理由に別の戦地へと一人旅立って行ってしまった。自身を道化役にした物語を創作し、いつの日かこの国に帰ると言い残して。
それ以来、我がユーロスギニカ王家は真祖ジ・ムーの末裔の帰りを八百年間待ち続けている、
·········仮の王家なのである」
ヘリオスは驚嘆してすぐには言葉を吐き出す事ができなかった。
「···では、奴らの言っている事は·····」
「―――紛うことなき真実なのだ、我が息子ヘリオスよ」
✶✶✶
アリアはある人物のことが心配になって庭園外周路をぐるぐると探索していた。
「おい、何をしている」
声の主はあの痩せたぶかぶかローブの男子生徒だった。アリアは探していた人物を見つけると何故か緊張して、ムッと口を噤んで無表情になった。
「こんな所に一人でいたら危ないだろう、何をしているんだ」
「ちょっと···あなた。私が誰なのか知っているの?私はこの国の王女アリア・ユーロスギニカ、魔術階梯は六十五で国軍でも十分通用するレベルなの。それに私はいつもこの辺に一人でいるあなたが心配で探していた所よ」
「とにかくここからすぐに避難するぞ、アリア」
「いや、だからそれはこっちのセリフなんだって」
「そう言えばあなた名前は?」
「···ウルだ」
ローブの中から凜とした漆黒の眼がアリアのルビーの紅い眼を覗き込んでいた。
その刹那、爆発音と共にアイオンの魔術師が一人現れた。ウルは爆風に飛ばされて後方にへたり込んだ。
「ちょっと、大丈夫!?」
アリアは剣を抜くと強化のオーラを一身に纏った。
「フフフ、まさかこの様な場所でアリア王女を見付けるとは何たる幸運、···そう言えばアリア王女、あなたは七次能力者でしたか、果たしてこれに耐えられますかね······」
男は掌を突き出すと爆発する火炎弾を放った。
「第七十一階梯、フレイムバースト!」
「は···八次能力者···!?」
アリアは火炎武装の魔力を剣に流し込むと火炎弾を受け止め、つば迫り合いになった。剣の向こう側でアイオンの男の微かな笑いが聞こえた時、炎弾は爆発した。
耐えきれず吹き飛ばされるとアリアもウルの側へと倒れ込んだ。
「私はライアスゲームへの選抜には漏れてしまいましてね、···ですがここで王女を仕留めれば大手柄、ゆくゆくは幹部候補も視野に入ってくるでしょう、悪く思わないでください」
「うぅ······あなただけでも、逃げて」
「少し力を貰うぞ······」
ウルはアリアの肩に触れるとドレインで魔力を吸い取った。
「死になさいッ、フレイムバースト!」
「第七十七階梯、ミラーウォール!」
火炎弾はウルの繰り出した銀色の防壁に跳ね返された。
そしてアイオンの男に直撃して炸裂した。
「ぐぉおおおおおお、···まさか······この私がっ···!?」
敵は爆散した。
「···ドレインに加えてミラーウォールまで、あなた一体······」
「アリア王女!こんな所にいましたか―――」
輝かしいゴールドブロンドの髪にパライバトルマリンのようなライトブルーの眼をした国軍の魔弓兵が駆け寄ってきた。
「こちらアーチェ・マリノフスキー大佐、庭園外周においてアリア王女と学院生一名を保護しました」
アーチェはヘリオスと同じ七十九階梯の魔装弓使いだった。
「爆発音を聞いて駆けつけて参りました。親衛隊である私がここまで遅れて申し訳ありません。しかしどうやら······敵は倒したようですね、ヘリオス王子も学院生徒を護る為に交戦していたとか。うぅ···両殿下は誠に国の鏡でございます」
「·········」
アリアは今起きた事を話そうとしたが戦闘による消耗とドレインで吸収された分で喋る事ができなかった。
「では帰還しましょうか、さぁそこの男子生徒の君も大丈夫か、さぁ行きましょう、あれ···アリア王女、少しお痩せになりましたか···?まぁとにかく戻りましょうか」
「さて役者はそろったようだ―――」
アリア達はヘリオス達のいる待機衛へと無事に帰還していた。
「―――あのデカブツの転送を見たろ?相手の中には最低でも一人は八次の空間魔術師がいる。そいつは絶対に俺がやる」
アレキサンダーは空中の闘技場を顎で指して言った。
「戦闘は俺とアーチェで片付ける。王族方は見ているだけで大丈夫だ。だが万が一俺達二人がやられた場合は······ヘリオス、お前がアリア王女とユースティア公爵令嬢をお守りするんだぞ」
「えぇ、分かっています。アレさん」
「おい待て、ライアスゲームの選抜には俺を入れてくれ」
アリアの側にいたウルが突然話に割って入った。
「······何だお前は?」
アレキサンダーはウルを怪訝そうな顔で見た。
「ん?保護された生徒は院外の非難所に向かうように言ったはずだが」
アーチェは非難所へ行くのを促す為にウルの肩に触れた。その瞬間、体を崩して片膝を地面に着いた。
「······!?」
「何だ、どうしたアーチェ?」
「お···おそらく、この生徒が私にドレインを······」
「ドレインだと···?あんな一瞬で···?どういう事だ?」
ヘリオスやユースティアもこの異様な光景を不審そうな目で見ていた。
「さぁ、こいつはしばらく使い物にならないだろう。俺をゲームの選抜に入れてもらおうか」