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2.ライアスゲーム

 ユーロスギニカ宮殿の玉座にはアリアやヘリオスの父でもある国王カイルスが鎮座していた。


 この日、慌ただしく使いの者から伝書を受け取ったユースティアの父でもあるレアフォー宰相が、焦ったような顔でカイルスに耳打ちをした。それを聞いた途端カイルスも同じ表情になった。


「···おのれ···アイオンの夜明けめ······」


 アイオンの夜明けとは魔術師至上主義の闇組織である。騎士の誉れが高いユーロスギニカ王国は、アイオンの夜明けの標的にされていた。


 学院の生徒たちにも危険な団体として注意喚起されている。この日もアイオンの夜明けからのテロ予告があった。予告だけを出して何もない事が、ここ数日繰り返されていた。


「一度、戒厳令を出すべきでは?」


「それこそ奴らの思う壺、こちらの過剰反応は敵をつけ上がらせる」


「しかし、この神経戦いつまで続くのか」


「どうしたものか······」


 玉座の前では高官たちによる答えの出ない議論が繰り返されていた。カイルスの見飽きた光景だった。


「良家師弟の通う学院には私服の兵と魔術師が配備されているが、カバーできる範囲にも限りがある。一旦は様子見だ」


 宰相は現実的な判断をし議論の幕引きを図った。


「うむ···」


 カイルスはただ頷いた。



✶✶✶




―――魔術には第一階梯から第百階梯まであり、十階梯づつを一次として区切ります。


 例えば七十階梯の能力は七次、七十一階梯であれば八次として定義されます。戦力として互角なのは精々五階梯差までで、六階梯差からは明確な戦力差が生まれます。


 現在は平和な時代が続いており、平均魔術階梯は低下傾向にあります。九次以上の能力者は八百年前の初代ライアス王の国土統一時代に集中しており、現代までほとんど出現していません。


 一般人の平均は一〜二次、学院生徒の平均は三〜四次、学院教師の平均が五〜六次、王国軍兵士の平均が六〜七次とされています。


 現在九次の能力者は不在であり、八次の能力者は王国軍に十一名、学院に一名存在しています。


 王国の最高階梯者は八十階梯のアレキサンダー准将です。学院の一名とは皆さんご存知の通り、七十九階梯のヘリオス王子です



 魔術タブレットは色んな事を教えてくれる。

 アリアはテキストに載っている兄の名前を見ながら、自身の階梯を思い出していた。アリアの魔術階梯は六十五だった。これは国軍でも普通に通用するレベルだが、アリアはこの数値に劣等感を持っていた。


 同級生のユースティアは七十階梯、兄のヘリオスは既出の通りだ。国軍に行けば、アリアは真ん中より上くらいの強さになるだろう。比較対象が最強格のヘリオスだったので、今まで自分の階梯に大して自尊心など持っていなかった。


 自分は兄のような選ばれし者ではないと、近頃は諦めに近い心境になっている。兄があまりにも有望なので、女の自分は気楽にやろうと思っていた。鍛練にはうるさい父もアリアの将来の婚姻関係には何も言ってこない。


 ユーロスギニカは男が圧倒的に強い国なので、母も家庭の方針には口を出さない方だった。貴族の娘ならユースティアのように学生のうちに許婚がいたりするものだが、アリアは今まで一度もそんな話をされた事がなかった。


 アリアは度々その自由な立ち位置を同世代の貴族の娘たちから羨まれる事があったが、お転婆王女のようなイメージからか仕方がないようにも思われていた。これはアリア的には女のプライドが傷付く話でもあった。



「あ〜あ、今日も走らなきゃ」


 アリアはチョコスフィアを今日も食べてしまったのでまた庭園外周路をランニングする事にした。


「ヘリオスのケーキは我慢できるんだけど、学院に来るとなぜかチョコスフィアは我慢できないんだよね」


 学院の建築は庭園の北半分を囲むように林立していた。アリアは庭園を周回しながら毎日これらを見ている。建物自体は魔術で少し浮いており地震などの災害にも強かった。


 庭園の南半分の外側には競技用のフィールドと転送機群が設置されていた。転送機とは空間魔術によって起動する移動または輸送手段である。


 この世界は交通網の代わりに魔術転送システムが非常に発達していた。学院の建物を建設する時も、別の場所で造られた建物の部品を大型転送機で輸送して組立てられたのだった。


 そしてちょうど、アリアが南側の外周路を走り抜けている時だった。

 外周路外側南端に設置にされていた超大型転送機が起動し始めた。


「え、何?」


 超大型転送機は八次以上の空間魔術"ゲート"でしか起動できなかった。


「緊急事態です。学院の超大型転送機が何者かにハッキングを受けています」


 学院の管理室から宮殿の魔術官房へ即座に緊急連絡が届いた。


 続くように複数のワームホールが学院中に開かれた。

 ワームホールは比較的短距離で小規模の通り抜けに使用される空間魔術だ。

 ホールからはクリムゾン色のローブと骸骨の仮面を被った魔術師たちが、列をなして学院に乗り込んできた。


「こちらアレキサンダー准将、現在アイオンの夜明けとみられるテロリストの一団がワームホールによって多数学院内に侵入している。至急本軍による緊急出動を要請する。

 又、学院南端の超大型転送機が起動している模様、早急に魔術転送局への事態確認を頼む。俺は即座に保護対象の元へと向かう」


 学院内に私服潜伏していたアレキサンダー准将はヘリオス王子の元へと走り出した。そこに侵入したアイオンの魔術師数名が一斉に襲いかかった。


 アレキサンダーは手に嵌められた鋭い魔装ナックルに魔力を溜めると強力な風の刃を放った。


「ソニックエアー!」


「―――うぐっ!?」


 魔術師たちはバラバラに引き裂かれた。


 アレキサンダーが到着すると、ヘリオス王子は学生棟から飛び出して自ら応戦していた。


「何をしているんだ、ヘリオス!建物内に戻れ」


「アレさんっ!」


 ヘリオスは自分よりも強いアレキサンダーに非常に懐いていた。アレキサンダーもヘリオスを弟のように可愛がっており、近しい者たちだけの時にはヘリオスと呼び捨てにしていた。


「こんな時に王子の俺が隠れてなんていられません!」


「手が震えてるぜ、強ぇくせによ」


「じ、実戦は初めてですからね···」


「まぁいい。その代わり俺からは離れるなよ」


「分かりました」




 しかし事態は芳しくなかった。私服兵や教員たちによる抗戦は続いていたが、すぐに逃げられた学院生たちは全体の半数程度だった。

 一方、庭園の南端では超大型転送機の魔術フレームが電流を放ちながら轟音を立てて回転していた。そして遂に、ゲートから構造物が姿を露わにした。


 浮遊する闘技場のような構造物には、五人の魔術師たちが立ち並んでいた。それは南端から進み庭園の中央上空へ来ると停止した。


 庭園の上空には巨大な魔術モニターと音声反響魔術が展開された。首謀者とみられる五人の中央の男が声明を出した。


「我々はアイオンの夜明けだ。一時停戦としようか、我々はもうすでに十分な数の人質を手に入れた。我々の要求通りの方法で我々を退けられたのなら、人質たちを開放する事を約束しよう」


 アレキサンダーは上空を睨め付けた。


「―――我々は、ライアスゲームに基づいた五対五の勝ち抜き戦を要求する」


 ライアスゲームとは騎士王ライアスが国土統一時に、部族間抗争において用いた代表者五名同士の決闘の事である。


「ライアスゲームだと···?ならば、王国軍の精鋭で」


 アレキサンダーは息巻いた。


「ただし、ヘリオス王子、アリア王女、ユースティア公爵令嬢の三名には必ず出場してもらおう」


「な、何だとっ!?」


「これはユーロスギニカ王族、貴様らに対する報いなのだ」


「そんな要求受けられるか!」


「くくくっ、いいのか?」


 学院内の人質たちの姿が空中の魔術モニターに映し出された。


「く、くそっ······」


「俺は別に構わない、だが一つ聞きたい。お前たちの目的はいったい何だ?」


 ヘリオスは上空の首謀者に尋ねた。





「我々、アイオンの夜明けの目的···、それは······真実の歴史の公開だ······!」


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