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魔力過剰のせいで太りやすい体質だった王女の私が、倒れていたヒョロ男を助けてみたら学院創設以来の天才魔術師でした  作者: えびす


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1.アリア王女は庭園外周を走る

 チョコスフィアは、みんな大好き小さなボール状のチョコレートお菓子だ。

 女子生徒たちがおいしそうに食べるのを、獲物を狙う肉食魔獣のような目付きで瞬き一つせずに見つめる長身の王女が一人。


「アリア王女、ダメですよ」


「わ、わかってるって。見てるだけ」


 アリアは、憤怒したドラゴンのような血走った目でチョコスフィアを見据えていた。


「目が怖い···」


「アリア王女に悪いし向こうで食べよっか」


「いや、ここで食べて。私の前で食べて」


「え、そうですか。それなら」


 女子生徒がチョコスフィアを一粒お口の中に含むと。


「うわぁああ、おいしそぉおお······」


「それなら、王女様も一粒食べてくださいよ」


「それはできないのよ!」


「私たちは意地悪をしてるのではありませんからね、王女様の言う通りにしているだけですからね」


「そうよ、私が食べようとしたら阻止してね。でも、あなたたちが食べてるのも見たいからここで食べて」


 そしてまた女子生徒が口に一粒含んだ。


「うわぁああああ、おいしそぉおおおお······」


 アリアは座っていた椅子ごと飛び跳ねた。


「も、もういいわ!一粒ちょうだい!!!」


「え、でも阻止してって今···」


「もう前言撤回。一粒ちょうだい!」


「いいんですかアリア王女?後で怒らないでくださいよ」


「うん、怒らない怒らない。一粒食べさせて、アーン」


 女子生徒のか細い手によってチョコスフィアが一粒、アリアの口の中へと運ばれた。


「ハムハム·········。ぅうわぁああ!!!うんまぁあああ!!!」


 あまりの大声に皆、アリアの方を見た。

 アリアはチョコを食べた瞬間、身体中の肉が膨張するのが分かった。


「ちょっと、庭園の外周路を十周走ってくるわ」


 アリアは騒がしく庭園へと全力で走り始めた。




「やれやれ、我が妹は······」


 ヘリオス王子は円錐屋根の学生棟の一番高い窓から、夕暮れの庭園外周を走るアリアを見ていた。


 ユーロスギニカ王国はヘリオスやアリアの先祖である“騎士王”初代ライアス・ユーロスギニカによって建国された。部族集団が乱立する古代において、一介の騎士から国土統一を果たした伝説の王である。


 騎士の血が誉れ高いヘリオスやアリアは、ユーロスギニカ騎士・魔術師学院では騎士科に所属していた。騎士といっても魔術は当然使用する。身体強化、神経と第六感の活性化、魔装武具とのシンクロ率向上、斬撃や投擲に乗せる火炎、雷撃、氷結、etc···。


 ヘリオスは学生でありながら騎士として破格の強さだった。それはやはり遺伝の成せる技だったが、アリアはさらに遺伝が強すぎたのだった。純粋な戦闘力という点では、ヘリオスは兄としての面子は軽々と維持できている。


 だがアリアは一族の中でも類まれなる体質の持ち主だった。わずか少しの栄養から、莫大な量の魔力と身体増強エネルギーを引き出す事ができる能力を生まれながらにして持っていた。ヘリオスは妹のその力を羨み続けたが、当のアリアは年頃のためかこの体質を忌み嫌っている。


「どうしよう、私ムキムキになりたくないのに」


 アリアは燃えるような赤いポニーテールの髪をなびかせながら、もうすぐ十周を終えようとしていた。


「アリア大丈夫?」


 声の主はアリアと同級生で魔術科二年のユースティア・レアフォーだった。美しいピンクブロンドにトパーズのような黄金の眼をしていた。

 ユースティアはレアフォー公爵家の長女でヘリオスの許婚だった。二人の時には親しみを込めてアリアを呼び捨てにしていた。

 

「ユースティア!」


「いつもみたいに吸って、吸って早く」


「ドレインはかなりの高等魔術だから、少ししかできないけどね」


「いいから、いいから早く」


 ユースティアからドレインの手で触れられると身体の肉がわずかながら収縮していくのを感じた。ちなみにアリアにドレインを使う事は父である現国王が禁止にしていた。

 国王やヘリオスはアリアに屈強な騎士となる事を願っていた、だがアリアはそれ拒否し続けている。そしてほぼ毎日隠れながら、ユースティアからドレインを受けているのだった。


「ありがとう、ユースティア」


「もうそろそろ帰る時間?」


「そう言えば······」


 すっかり日が暮れていた。アリアは放課後からずっと走りっぱなしだった。チョコスフィア一粒で五十キロ以上走った事になる。ユースティアのドレインと合わせてやっと、今日一日の収支がマイナスになったぐらいだ。


「はぁ······」


 だがアリアにとっての本当の地獄は家に帰ってからだった。



「―――お帰りなさいませ、アリア様―――」


 宮殿に帰るとメイドや執事たちが斉唱のようにアリアを迎え入れた。

 そしてヘリオスはエプロン姿だった。


「お、アリア、いい時に帰ってきたな。今ビーフステーキのポークカツレツ添えチーズベーコンエッグポテトオニオン盛りパスタができたところだ。前菜のチキングリルのバターマヨネーズ掛けとデザートのティラミス·モンブラン·ガトーショコラ·ストロベリーショートの四層オペラケーキもあるぞ、ドリンクは超高濃縮ミルクセーキでよかったよな?」


「そんなもの食べたら、死んでしまうわ!」


 アリアは一目散に自分の部屋へと向かった。


「お、おい。アリア·······」





 アリアはシャワーを浴びるとベットに転がり込んだ。


「ヘリオス兄様はどうしてこんなに私の事をいじめるの···?」


 アリアは起き上がると机の一番上の鍵のかかった引き出しを開けた。アリアには辛くなるといつも決まって読む一冊の絵本があった。


『騎士王ライアスとお調子者のジ・ムー』


 表紙には、白馬に跨った騎士王ライアスと黒ローブを被ったチビでマヌケな顔の魔術師ジ・ムーが描かれている。

 父である国王や兄ヘリオスが理想としているのは当然ライアス王だ。だがアリアは実はお調子者のジ・ムーの方が好きだった。ジ・ムーとはライアス王の国土統一時に付き従ったとされる魔術師だ。

 絵本の中ではライアス王の軍勢がピンチの時に、魔術を使った一発芸などで兵士たちを笑わせ励ます道化役として描かれている。その時のマヌケ面がとても面白く、アリアは辛い事があるとジ・ムーに会うためにこの絵本を開くのだった。



「おいアリア、サラダぐらいは食べたらどうだ?部屋の前に置いておくからな」


 ヘリオスの声だった。

 扉の前からヘリオスの気配がなくなったのを確認すると、アリアは部屋の前の料理が乗せられたワゴンを招き入れた。


 大皿に被せられていたクローシュを開けるとタンパク質が山盛りになっていた。

 皿の横にはヘリオスの字でメモ書きがあった。


「―――ビーフステーキのポークカツレツ、チキングリル添えチーズベーコンエッグポテトオニオン盛りパスタサラダだ」


「サラダの原型ないじゃん」


 アリアは恐る恐るサラダの部分とパスタを数本食べた。食べた瞬間、身体が爆発するようなエネルギーを感じた。パスタにチーズエッグが絡んでいたようだ。


「うわぁ〜、ヤバイヤバイ」


「また走りに行かないと」


 アリアは着替えるとまた庭園外周へと向かった。これがアリアの毎日の食生活だった。




 アリアは順調に十五周を走り終えていた。

 

「あ、今日もいる」


 庭園外周のランニングコースから外れた芝生で、魔術科の黒ローブをぶかぶかに被った小柄な男子生徒が今日も月を見ていた。

 アリアはほぼ毎晩彼と会っている。

 話しかける気はないが何をしているのかは気になっていた。


 そしてアリアが十六周目の時、人影が消えていた。

 今日はもう帰ったのか、とアリアは思った。そして超視力でもう一度確認すると、彼が倒れているのが分かった。


「うわ、大変」


 アリアは即座に走り寄った。

 そこにはアリアより少し小柄な痩せ細った男子生徒が倒れていた。


「おーい、大丈夫?」


 ローブの下には青白く痩せてはいたが整った顔が見えた。実はアリアは痩せている男を見るとキュンとするタイプだった。これは人には言っていなかった。

 アリアは少しドキドキしながら彼を抱き起こした。その時、彼に触れた腕から魔力を吸い取られるのを感じた。


「···!」


 目を覚ました彼はすぐに立ち上がり、アリアに少し驚いた顔をみせた。


「もしかして気を失ってる俺に触れたのか?」


「そ、そうだけど、大丈夫なの?」


 彼は無表情で何も言わず、そのまま立ち去っていった。


「何よ、お礼ぐらい言いなさいよね」


 アリアしばらくそのまま突っ立っていた。そしてなぜかお腹が空いている事に驚いていた。

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