昇格試験のお誘い F → Eランク
初めてのゴブリン討伐から2ヶ月が経過した。
2ヶ月の間に僕とモラルの行動様式が様変わりすることになる。
今まで薬草採取に用いていた時間が、ゴブリンを討伐するために変わったためだ。
薬草採取をしながら野良ゴブリンを抹殺する。
野良ゴブリンの痕跡を基にゴブリンの巣穴を探す。
ゴブリンの巣穴を見つけたら見つけたら、見張りのゴブリンを倒す。
その後にエーデルワイスと呼ばれる香草で巣穴を燻す。するとエーデルワイスを嫌うゴブリンは洞窟からあぶり出されることになる。
出てきたゴブリンは弓や投石で射かけて数を減らし、追いかけてきた下がって倒す。日中のゴブリンは動きが鈍い。
奴らからしてみれば、真夜中に叩き起こされて全力疾走するわけだから当然な話だ。
「スマッシュ<ヘヴィ(強撃)>!!」
「ガァァァッッ───!!!」
そして仕上げはユーナ、ムートレラとパーティを組み、巣穴を殲滅する。
スマッシュの一撃でホブゴブリンは真っ二つに割れる。
大広間にいた他ゴブリンは全匹、躯となり地に臥している。
「ジャスティス殿、流石の手腕だな。───しかし、いつ見ても惚れ惚れするほどのスマッシュですな。Fランク冒険者でこれ程の威力を出せる御仁は知りませぬぞ」
「ハハッ、一撃の威力だけが取り柄のようなものですから。それに僕一人じゃこうも上手くいきませんよ。みんなの協力あってこそです」
魔剣士ムートレラの称賛に対して、心からの気持ちで答える。
「そう、チームの結束あっての勝利よ!」
「そうだね、ユーナの哨戒は心強いよ」
「ふふん、分かってるじゃない」
僕がユーナを褒めると、得意そうに笑みを浮かべる。
初めてのゴブリンの巣穴討伐から2ヶ月が経つけど、この臨時パーティで一番成長したのはユーナではないだろうか。
褒められた話ではないが、パーティ内で最も協調性がなかったのはユーナだ。
そんな彼女は、何度も独断専行してその度にゴブリンに袋叩きにされ、分からされ───学習した。そして彼女もチームプレイを重んじるようになり、複数匹のゴブリンに突っ込むこと止めた。今では頼れる斥候としての役割を率先して果たし、ゴブリンの早期発見や、不意打ちを見破っている。
もちろん成長したのはユーナだけではない。僕達もまた成長した。
例えば僕の場合はこんな感じだ。
───
スマッシュ (LV.30/100,000)
筋力向上 (LV.40/100,000)
体力向上 (LV.40/100,000)
素速さ向上 (LV.40/100,000)
───
見ての通りパッシブスキル(身体能力)を優先的に上げた。
理由は先にスマッシュの威力を上げても、身体が技に追いつかないからだ。
身体能力を向上させたお陰で、スマッシュ<ヘヴィ(強撃)>を放っても反動ダメージ(バックダメージ)を負うことがなくなった。
非常に喜ばしいことなのだが、何故かモラルは残念そうな表情をしていた。
「気を抜かずに他の部屋もチェックしよう」
「ゴブリンは皆殺しです!」
僕の掛け声にモラルは力強く返事する。モンスター討伐になるとモラルはいつだって元気一杯だ。
◇ ◇ ◇ ◇
「ゴブリンの巣穴を週に3つ殲滅ですか……。素晴らしいです」
いつものように討伐報告すると、やや呆れを含みながら受付嬢エレーナさんは返事をした。
最近でこそ何も言われなくなったが、討伐のスピードがハイペースすぎると心配されていた。
言われてもいないのに巣穴を殲滅することは想定外であったようだ。
「なんたって私達は優秀だからね!」
「そこは否定しませんが……。あなた達には不要かも知れませんが、安全第一で依頼をこなしてください。あなた達が生きていれば救える命があることを忘れないでくださいね」
ユーナが得意げに胸を逸らし、エレーナさんがいつもの忠告し、更に言葉を続ける。
「皆さんは冒険者としての経験をしっかりと積みました。異例の昇格スピードとなりますが冒険者ランクの昇格試験を受けてみませんか?」
「ふふん、やっぱり私の時代が来てるわね」
ユーナの機嫌が更に良くなる。
ムートレラも好意的に捉えている。モラルはどこか他人事のように捉えている。理解が追いついていないような感じだ。
「エレーナさんが昇格を提案してくださったことは、非常にありがたいです。……ちなみに昇格するメリット・デメリットは?」
「そうですね……。メリットは受注できるクエストが増えます。具体的には遺跡やダンジョンといった危険地帯に入場可能です。後クエスト達成時の
報酬が底上げされます。およそ2割増くらいです。デメリットは下位ランクのクエスト受けづらくなります。Eランク冒険者はFランククエストを受注しづらくなります」
デメリットを聞いて、モラルの顔色が曇る。悲鳴のような声を上げた。
「えっ、Eランクになるとゴブリン討伐をさせてもらえないわけですか!?」
「安心してください。ゴブリン討伐も薬草採取も続けられますよ。どちらも人手不足ですからね。受注しづらくなるのは下位ランクの競争倍率の高いクエストですね。───例えばですが、貴族の子息に剣術や魔法の家庭教師などですね」
「よかったぁ……。ゴブリンに慈悲を与えるつもりはありませんよ!」
心底ホッとしたようにモラルが安堵する。ちなみに僕もそうだ。出来れば近隣の村々がゴブリンに怯えず過ごせるまでは続けたい。彼女の狂信───もとい信仰心は平常運行だ。
後、競争倍率の高いクエストをやってみたいというのはないかな。まさかスマッシュしか使えない自分が誰かに剣術を教えることなんてないだろう。ましてや貴族といった社会的地位が高い人なんかに。
「僕は昇格試験を受けたいと思うんだけど、モラルはどうかな?」
「受けます! 世の中にはゴブリン以外にも倒すべき悪は蔓延っていますから。一緒に正義の鉄槌を下しましょう!!」
「では、全員昇格試験を受けるということで手続き勧めますね」
エレーナさんが書類に書き込む。
「ちなみにですが、試験とは何をすれば良いのですか。採取依頼ですか? それとも模擬戦でしょうか?」
「両方です。厳密に言うと依頼採取を達成したら模擬戦を行う形式です。試験は元々のパーティ、2名ずつで受けてもらいます」
「分かりました。精一杯やらせてもらいます」
「期待してますよ」
僕の返事に、エレーナさんが微笑を浮かべた。
「ユーナ、ムートレラと別々になるけど二人共頑張って」
「あんた達も頑張りなさいよ。不合格だったら許さないからね!」
「ジャスティス殿、モラル殿なら問題ないと思うが、気を抜かずに頑張ってくだされ」
気にかけてくれた二人に微笑む。
隣りでモラルも笑いながら意思表明をした。
「みんなで昇格試験を合格しましょう」