週1パーティー結成
少女が泣き疲れて大人しくなると、手ぬぐいで汚れを拭ってやり、簡易的ではあるが水と食料を与えた。
すると一息つけたのか少女は冷静さをとりもどした。すると事の顛末をポツリポツリと語りだした。
少女が誘拐されたのは昨日のことだった。森の中で山菜を採りに夢中になっていたら日が暮れてしまったらしい。慌てて村へ帰ろうした矢先にゴブリン共に攫われたようだ。
幸いなことに少女の村、ペバライス村はこの洞窟からそこまで離れていない。
「討伐が一段落したら一緒に村へ帰りましょう」
「何から何まで……ありがとうございます」
ペコリと頭を下げてきた少女に、なるべく何でもないと笑った。
それにしても恐ろしのは、比較的村の傍にゴブリンの脅威が存在することだ。もしもだが、今回討伐したホブゴブリンと20匹近くのゴブリンが闇に乗じて村を襲っていたら……。想像するだけでゾッとする話だ。もしかしたら少女は村へ偵察がてらに向かっている最中に遭遇して攫われたのかも知れない。
もしも討伐が後1日遅れていたら少女もそうだし、近くの村が地図から消えていたのかも知れない……。
少女とのやりとりが一区切りついた所で、ユーナが話しかけてきた。顔を少し赤くして、何だかちょっと気恥しそうにしている。
「ジャスティス、あんたやるじゃない。優柔不断っぽく見えてイライラしたけど、周りのことをちゃんと見てるし、剣の腕もたつわね。少しだけ見直したわ。───少しだけどね!」
「ははっ……。ありがとう。僕もユーナさんの剣は鋭くて凄いと思いました」
「ふ、ふーん……。まあ私だから当然ね! それとね、私のことは、と、特別にユーナって呼んでいいわよ。ユーナって呼びなさい!」
ユーナさん───、ユーナがそわそわしながら上目遣いでこちらの返答を待っている。心変わりした原因はちょっと分からないけど仲良く出来るならそれに越したことはない。彼女の剣技はとても鋭かったし、フェンサー(羽のように軽い)の早期警戒、斥候としての技能はとても役立つと思う。罠解除や鍵開けは出来ないけど、戦闘力を持ったシーフのような働きが出来るだろう。
「分かった。ユーナ、よろしくな」
「ええ、ジャスティス、よろしく」
差し出してきたユーナの小さな手を握った。するとユーナは年相応の笑顔を浮かべた。うん、可愛いと思う。
「ジャスティス殿、私からもよろしく頼む。根は悪くないのだが見栄っ張りだからな。友達として付き合ってもらえると嬉しい。後、私もムートレラでいいぞ」
「ムートレラ!」
「あー、よろしく。ムートレラ」
ユーナが涙目になりながらムートレラに抗議しているが、ムートレラは気にした様子はない。僕はそんな二人を笑いながら眺めていた。
気持ちがほぐれた所で本題に入った。
「それじゃ、残りのゴブリンを討伐しよう。奴らを見逃す道理はない」
異論を唱える者は誰もいなかった。
囚われていた少女も深く首を縦に降った。
───洞窟内を隈なく探索し、隠れ潜んでいた10匹のゴブリンを討伐した。
<スキル爆速強化によりスキルポイントを2取得しました>
◇ ◇ ◇ ◇
ゴブリンの巣穴の討伐を終えた後に、ペバライス村へ少女を送り届けると村が歓喜で湧き返った。
性懲りもせずにユーナが舞い上がり、ムートレラに小言をもらっているのが印象的だった。
村長から話を聞くと、ペバライス村にもゴブリン出没したらしく牛や豚が襲われたらしい。
そして少女は行方不明となっていた。村は冒険者ギルドにゴブリン討伐の嘆願を出しに行っていたらしい。
以前読んだ冒険者チュートリアルに従うなら、ゴブリンが家畜に手を出すのは村を襲う一歩手前の状態だ。……過ぎた話なので僕は村長に敢えて黙っていた。
「以上がゴブリンの巣穴討伐に関するあらましです」
「なるほど、皆様お疲れ様です。無事でよかったです」
冒険者ギルドに戻り、受付嬢のエレーナさんに報告を終えた。
初の別パーティとの合同クエスト、討伐クエストであったためか、いつも以上にエレーナさんは僕達を労ってくれた。
「やはり貴方達は見込んだだけのことはありますね。30匹のゴブリンに武装したホブゴブリンが1匹。本来であれば8人編成で挑むべき規模です。……喜ばしいことではありますが、安全第一でお願いします。退くことも大切なことですから。貴方達が死んだら助けられる命が助けられなくなります」
エレーナさんが眉に力を入れながら僕達に言い聞かせるように語る。
「エレーナ嬢の言うことももっともだ。今回の討伐はジャスティス殿の作戦が見事噛み合ったから上手くいったようなものだ。モラル殿のブレッシング(暗視の加護)とホーリーライト(破邪の光)もなければ討伐そのものを諦める必要があっただろうな」
ムートレラが神妙な顔で頷く。
「そうです。あなた達が生きていれば救える命が存在することを忘れないでくださいね」
エレーナさんの言葉を噛みしめるように僕は聞き入った。忠告は正論だ。……ただ、それでも助けられる命があるなら助けたいと思う。そのためにもっと強くなりたいな。
全容は掴めないが、『ヒーロー』と<スキル爆速強化>は外れスキルではない───ような気がする。それが子供の頃に読んだ正義の味方だった。自惚れるつもりはないが、そんな人になれたらいいな。
「今回の報酬は一人金貨6枚です。頑張りましたね」
「嘘!? そんなにもらえるの!!」
エレーナさんが提示した金額にユーナが驚く。
薬草採取の平均報酬は銀貨2〜3枚。僕達は平均の3倍採ってきているらしく銀貨6枚貰っている。僕達の相場と比較しても金貨6枚ということは普段の10倍貰えたことになる。
「ええ、指定クエスト報酬でベースが3倍になってますからね。更にこれだけの魔石を回収すればそれなりの値段がつきます。ホブゴブリンはゴブリン10匹相当の値段が付きますからね。───あなた達はそれだけの活躍をしたんです。胸を張ってください。でも先程の小言は忘れないでくださいね」
「分かったわ!」
元気よくユーナが相槌をうった。その後に、僕をチラチラと見ている。何かソワソワしてる。
「ユーナ、どうしたの?」
「え、えっとね、あんた達はゴブリンの巣穴討伐をこれからもやるの?」
ユーナ問いを確認した後に、念の為モラルに確認する。すると、モラルはコクリと頷く。うん、殺る気マンマンだね。
「そのつもりだよ」
「だっ、だったらさ、あたし達を一緒にやろうよ! ねっ!」
「うん、よろしく。一緒に頑張ろう」
「そこまで言われたら仕方ないわね! 大船に乗ったつもりで任せなさい!」
僕がそう答えると、ユーナの表情はパッと明るくなる。ユーナってコロコロと表情が変わって面白いよなぁ。
「ジャスティス殿、今後ともよろしく頼む。ダイレクトボアを駆除するよりもゴブリンを鏖殺する方が有意義そうだ。貴殿の方が我々よりもゴブリンに関して造詣が深そうだ。色々と教えてもらえると嬉しい」
「ムートレラ、こちからこそよろしくお願いします。長剣さばきが見事でした。もしよければ今度手合わせいただけると嬉しいです」
「ああ、よろしく頼む」
「あっ、ズルい! 私も!!」
やった。ユーナもムートレラも一緒に稽古に付き合ってくれることになったぞ。楽しみだ。
「ふふ、冒険者ギルドとしても、冒険者同士で親睦を深めてもらえるのは嬉しい限りです。仲良くしてくださいね」
エレーナさんは機嫌良さそうに微笑を浮かべた。
やっぱり主人公よりも突っかかってくるキャラクターの方が重要だなぁ。