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少女救出

 微かに風にのって聞こえてきた女性───少女の声。後退の判断が難しくなる。

 モラル、仲間達を危険に犯して進むべきか。それとも大事をとって後退すべきか。後退した場合、少女が無事でいる保障はない。

 僕は少女を助けたい。


 逡巡しているとモラルと目線が合い、微笑む。


「ゴブリンは皆殺しです!」

「えっ……」

「ははっ!」


 モラルの発言に、ユーナさんはちょっと引き、ムートレラさんは快活に笑う。

 僕はモラルの頼もしい発言に踏ん切りがついた。


「僕はこの先で捕らわれている女の子を助けたい。一緒に戦ってくれないですか?」


 本心からの言葉を伝えた。


「ちょっと格好いいこと言ったからって調子に乗らないことね! ……まぁ、今回だけ手伝ってやるわ」

「人助けも重要な仕事だ。気にすることはない」


 ユーナさんとムートレラさんも快諾してくれた。


 その後に隊形は変わらず進むことになった。洞窟の横幅が短くなり、剣を振り回すには2人の方が都合がよかったためだ。

 散発的に表れるゴブリンをユーナさんの突剣とムートレラさんの長剣が屠ってゆく。

 こちらが夜目がきくことを想定していなかったためか動きは緩慢だった。暗闇の中、いたぶるつもりだったのかも知れない。悪意と嘲りだけは


「ふふん、ゴブリンなんてやっぱり余裕ね!」


 ゴブリンの力量が分かってきたためか、ユーナさんの口が軽くなる。


「ゴブリンというモンスターは散発的な攻撃を仕掛けてくるだけなのか?」


 ムートレラさんは警戒を怠らない。

 僕の背後でカラカラと岩がかける音と、僅かに漂うゴブリンの匂い。違和感を感じて後ろを振り向く。

 その直後に崩れる横壁。ゴブリンが3匹現れた。


「「「えっ!?」」」


 咄嗟のことで 僕以外は誰も対応出来ない。

 ゴブリンが突進してくる。僕が抜けられたらモラルに危険が及ぶ恐れがある。

 今必要なのは威力よりも疾さ。ユーナさんのような鋭い刺突。


「シィィッッ!!!」

「グエッ!?」


 手首のスナップを利かせてスマッシュ(クイック)する。

 蛇のようにしなり、鋭いスマッシュでゴブリンを瞬殺できた。

 後ろを振り返ると事態を飲み込めずに3人は立ち尽くしていた。


「後ろにいて役に立てたでしょ」


 何もないに越したことはないけど、後方警戒の役割を果たせてよかったとと思う。


「その技はなんなのよ……」


 幽霊でも見るような表情でユーナさんが僕に訊ねてきた。


「スマッシュだよ。ユーナさんの刺突を真似してみたんだ」

「そんなスマッシュがあってたまるか! ぅぅ刺突は自信あったのに……」


 ユーナさんが涙目になりながら抗議の声を上げてきた。後半はゴニョゴニョしていてよく聞き取れなかった。


「ジャスティス、助かりました。私じゃ危なかったですね……」

「前衛職として当たり前のことをしただけだ。モラルが無事でよかったよ」


 神妙な顔で礼をつげてきたモラルに、僕は軽く笑い返す。少しは役に立てたかな。

 モラルから支援をもらい、僕達がモラルを守る。

 いくら神聖魔法が使えたってモラルは普通の女の子だ。可能な限りは危ない目に遭わせたくない。


「しかしジャスティス殿は剣術もそうだが、状況判断にも目を瞠るものがありまするな」

「いやいや、そんなことは……」


 ムートレラさんに褒められて、ちょっと気恥ずかしい気持ちになる。この人の方が僕より物腰が大人な人だ。年長者の方に褒められたように錯覚する。

 ムートレラさんは言葉を続ける。


「ゴブリンに翻弄されるのは面白くありませんな。何か良い策はありますか?」

「そうですね……」


 暫し思案する。

 勿論、女の子を助けるために更に奥を進むしかない。でもさっきは対応出来たからよいけど、そう何度も不意打ちを食らっては本当に手傷を負う恐れがある。繰り返すがゴブリンには沢山の命があるけど僕達の命は一つしかない。

 チラリとゴブリン達が通ってきた横穴をみやる。人が通れるほどのスペースはある。奇襲のために穴をわざと塞いでいたのだろう。


「このまま正面に進むのは危険です。ゴブリンが待ち伏せしていることでしょう」

「じゃあ、女の子を見捨てるの?」


 ユーナさんのクレームに僕は首を横に降る。そして横穴を指差す。


「横穴を通ってみませんか? 僕達がゴブリンに奇襲をかけるんです」

「ハハッ、面白いな」


 ムートレラさんがにんまりと笑う。


「あっ、私も提案があります」


 モラルが控え目に手を上げて、僕はその続きを促す。


「どうしたの?」

「大広間にはたくさんのゴブリンがいるはずなんですよね? でしたらホーリーライト(破邪の光)で一時的であれば無力化することが出来るかも知れません。そこを一網打尽するのはどうでしょうか?」

「いいね! それ採用。ユーナさんもムートレラさんもそれでいいですよね?」

「勿論いいわ」

「ああ、異論ないな」


 トントン拍子で制圧の段取りが決まってゆく。

 ホーリーライトは、下級アンデッドを浄化するための魔法だ。名前の通り聖なる光を照らして浄化する魔法だ。光を放つ魔法だから眩しい。人間には無害だが、モンスターでかつ夜行性であるゴブリンには目潰しを食らったようなものだろう。そこを一網打尽することが出来れば僕達にも勝算見えてくるというものだ。


 こうして僕達は横穴へと突入した。


◆ ◆ ◆ ◆


「ビンゴ! やるじゃない」


 ユーナさんの声が弾む。

 予感的中。横穴は大広間に直結していて、何故か大広間には明かりが灯されている。

 横穴に身を隠しつつ大広間を覗き込むと、松明がパチパチと音を立てながら灯っている。

 ゴブリン達のほとんどは正面入口に集中し、そこから現れるはずだった僕達に対して身構えていた。数は15匹程度。さすがにその人数を一気に相手にしていればこちらも無傷ではいられなかっただろう。


 視線を周囲に移す。

 更に大広間奥には人間と同じ背丈を持つ巨大ゴブリンがいる。他のゴブリンと頭2つ飛び抜けている。───ホブゴブリンがいた。

 人間から略奪したであろう、プレートアーマーとバトルアックスで武装している。その姿はゴブリンではなく山賊の親分だ。

 更にその傍で鎖で繋がれた15歳位の少女が力なく項垂れて(うなだ)いる。

 そんな少女の顎をグイとホブゴブリンが左手で掴み、顔を上げさせる。そして空いている右手で少女の頬を叩く。


 パチン! 乾いた音が大広間に響く。

 痛みと恐怖で少女の顔が歪み、喘ぐ。


「痛い。もうやだ! 誰か助けて!!」

「……グフフッ」


 そんな少女を見てホブゴブリンはくぐもった声で笑う。

 僕は無意味に松明が照らされている意味を悟る。娯楽のために松明を照らしているのだろう。少女に自身の姿を見せて怖がらせるためだ。

 無言の内にパーティの温度が下がった。元々ゴブリン共に容赦するつもりはなかったが、一欠片の慈悲も与えるわけにはいかない。モラルなんて目が据わり、今にも飛びかからんばかりだ。

 僕は自制の意味も兼ねて努めて冷静に最終点検を行う。


「手順は手はず通りに。モラルがホーリーライトで敵を無力化する。その間に僕達(前衛3人)がゴブリンを鏖殺おうさつする。いいね?」

「「「分かった」」」


 3人が手持ちの武器を片手に頷く。


 まず精神統一したモラルが大広間に躍り出る。

 ゴブリン達はギョッとしたように突如現れたモラルを振り向く。


「ホーリーライト(破邪の光)!」


 大広間が純白の光で満たされる。

 僕達は光に背を向けて直視を避ける。ゴブリン達は光を直視し、両手で目を押さえ地面をのたうち回る。

 続いて僕達(前衛3人)が突入。ユーナさんがホブゴブリン(親分)を目指し、僕とムートレラさんはゴブリン達にトドメを刺してゆく。


 トドメを刺し終えて、周囲を見渡すとユーナさんとホブゴブリンが戦っている。

 ホーリーライトから比較的離れた場所にいたためか、魔法耐性が備わっていなのかは分からない。ホブゴブリンは早々に行動不可から立ち直っていた。

 ユーナはホブゴブリンに大小の手傷を追わせることに成功しているが、急所はプレートアーマーでしっかり守られているせいで決定打を入れられずにいた。ホブゴブリンはユーナさんに勢いよくバトルアックスを振り回す。その勢いは暴風だ。もしも当たればタダではすまないだろう。


 そしてホブゴブリンから見て真後ろの位置にいる僕。

 やることは一つだ。オークを倒した時に放ったスマッシュ。小細工抜きで渾身のスマッシュをホブゴブリンに叩き込む!


「スマッシュ<ヘヴィ(強撃)>!」


 ユーナさんと相対していたせいで、ホブゴブリンは僕に対する反応が半歩遅れる。僕の大剣をバトルアックスで防ごうとするとが、バトルアックスごとホブゴブリンを断ち切る。血煙を上げながらホブゴブリンが倒れた。


「えっ、嘘、でしょ……」


 僕とホブゴブリンを見比べるユーナさん。口をポカンと開けたままだ。


「そっちも終わったようだな。無事で何よりだ」


 ムートレラさんは、長剣を振るい血糊をはらう。この広間に生きているゴブリンはいない。

 一息つけると思った所で遅れて腕が痛みです。


「ッッ」


 オークの時程ではないけど痛いのものは痛い。痺れるような痛みが右手に走る。

 まだまだスマッシュのスキルレベルに対して身体能力が追い付いていないということだろう。


「大丈夫ですか!? 今癒します」


 モラルが僕の傍に駆け寄ってくる。


「僕よりこの子を先に診てくれないか? 僕は後でいいから」

「分かりました」


 モラルはヘタリ込んでいた少女に目線を合わせて微笑む。


「もう大丈夫です。安心してください」


 モラルは少女の頬に優しく手を添えてヒールを唱える。

 すると、少女の顔にあった青アザがみるみる消えてゆく。

 傷が癒えるにつれて、徐々に少女の意識、理性が戻ってくる。


 続いて、モラルは僕の負傷も癒やしてくれた。

 手の痺れが引いてゆく。手をグーパーして握力が戻ってきていることを確認する。

 

「モラル、ありがとう」

「どういたしまして」


 モラルは僕の傷の具合を確かめると引き続き少女の介抱を再開した。


 僕は改めて少女を確認する。

 その手首に填められている手錠が痛々しい。手錠には鎖が付けられ、鎖の伸びた先には人の頭程ある鉄球が付けられている。

 鍵穴があるということはどこかに鍵があるはず……。───貴重品は親分ホブゴブリンが持っているのが相場だ。

 ホブゴブリンの持ち物を確認すると鍵束がすぐ出てきた。これで手錠を外せないだろうか。


「もう安心だよ」


 努めて穏やかに僕は少女に微笑えむ。

 鍵穴にハマりそうな鍵を突っ込んでみるとカチャリと手錠が外れて地面に落ちる。

 少女は自分の手首との表情がクシャリと歪む。


「う、うわぁぁぁ!!!!」


 急に少女が抱きついてきた。落ち着くまで少女の頭を撫でた。


 <スキル爆速強化によりスキルポイントを10取得しました>

字数的な都合で一旦分割させてもらいました。

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