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決着


 父上が雄叫びを上げながら僕に殴りかかってきた。拳に黒いオーラのようなものを纏わせている。巨体とは裏腹に素早い。

 その攻撃を避けると父上の拳が棚を粉々にし、壁すらも砕いた。雷鳴が空を裂いたかのような轟音が部屋中に鳴り響き、埃が舞い上がり煙幕となる。煙幕がおさまると人が通れるほどの大穴が空いていた。驚くべきことに父上の拳は無傷で平然としている。見た目にたぐわぬフィジカルを持っている。


「グォォォッ!!!」


 再び父上が僕を視認すると、その威圧感を倍増させながら僕に襲いかかってくる。

 この狭い空間で父上と直接対峙するのは自殺行為に等しい。一撃でも受けたら僕の体に大穴が開きそうだ。幸い父上は僕しか見ていない。


「父上、僕はこっちだ」


 父上をわざと挑発しつつ壁に空いた大穴から屋敷の中庭に飛び出る。

 父上も壁の穴を押し広げながら僕を追いかけてきた。

 父上が屋敷から中庭へ出たことを確認してから説得を試みる。


「父上、正気に戻ってください! 貴方は戦いをお望みか!!」

「グォォォッ!!!」


 僕の問いを否定するかのように仁王立ちをした父上が雄叫びを上げた。父上の声が近隣一帯まで響き渡る。声に同調するかのように、全身から黒いオーラが吹き出て全身を覆う。  

 一連の騒動を聞きつけた屋敷の関係者や、近隣の住人までが野次馬となり集まってくる。野次馬の対処にサラディンとその部下が奔走している。周囲に被害が出る前に父上を止めなければならない。

 エイル達も壁の穴から中庭に移動する。ちょうど父上の背後をとる形で包囲している。カチューシャだけ僕と他のメンバーの中間地点で構えている。


「ノーム、あいつを薙ぎ払え!」


 ルビーがノームを召喚して父上を攻撃するよう命じる。ノームが人の頭程の石を何個も射出する。

 石つぶては全弾、肩・背中・腰に命中するが父上は微動だにしない。いや、黒いオーラが石を弾いている?


「うそっ!?」


 目の前の光景が信じられないためか、ルビーが目を見開いている。さっきの攻撃に自信があったのだろう。あの石つぶてを食らったなら、普通は無事でいられない。ルビーでなくても驚くことだ。

 続けざまにエイルが父上に向けて走り跳躍する。その無防備な背中へ剣を振り下ろす。


「ジャイアント・スレイ!」


 エイルが巨人族に特攻を持つ上位スキルを放つ。相手の弱点に合わせて使用する剣技を選べるのは剣聖の強みだ。その鋭い一撃が父上の背中に命中する。だがエイルの攻撃もまた、黒いオーラに阻まれ父上はまるで何事もなかったかのように立ち続ける。


「そんな、ありえない…」


 エイルが驚きに呻く。無傷は予想していなかったのだろう。

 そんなエイルを嘲笑うかの如く黒いオーラがエイルに向けて吹きかかってきた。


「くっ」


 予想外の攻撃にエイルが黒いオーラをモロに浴びる。黒いオーラに炙られたエイルは苦悶の声を上げてその場で片膝をつく。

 父上は後ろを振り向き、無造作に右手でエイルの胴体を掴み上げ軽々と持ち上げた。


「ぐぁぁぁ」


 エイルが苦痛に声を上げる。着ている鎧に父上の手形がくっきりと浮かび上がっている。それは父上の握力がエイルに強烈な痛みを与えている証だった。


「やめろぉぉ!」


 父上に向かって駆け出した。このままじゃ不味い。

 父上がこちらに振り返ると、おもむろにエイルを投げつけてきた。それは先ほどのルビーの石つぶてに匹敵する勢いでエイルが僕に迫る。避けるのは簡単だが、避けた場合エイルが無事で済む保証はない。エイルはぐったりとしている。


「クソッ!」


 覚悟を決める。大剣を放り投げ、重心を低くする。かかってこいや。

 渾身の力でエイルを受け止める。その瞬間、身体は攻城兵器を受け止めたかのような衝撃が走った。飛ばされないように歯を食いしばり、耐える。そのままの姿勢で5メートルほど後ろにズレるが、何とかエイルを受け止めることに成功する。


「大丈夫か!?」

「平気。兄さんありがとう」


 言う程元気そうではないが、エイルは無事だ。弱々しく微笑んできた。今のエイルは歩くことも難しそうな状態だった。

 そんな僕達に父上の手の平が突きつけられ、黒いオーラが僕達に向けて射出される。黒いオーラが迫ってくる。

 二人で避けるなんて無理だ。エイルは避けられないだろう。僕だけが逃げてエイルを見殺しにするのか?

 んなこと出来るか。思わずエイルを出来るだけ遠くへ放り投げる。


「兄さん!!」


 放り投げられたエイルが掠れた声で叫んでくる。

 その声が耳に届くと同時に、僕は両腕を頭上でクロスさせ衝撃に備える。それが命に関わる衝撃になることは間違いない。だが、どれだけ時間が経っても、覚悟した痛みはやってこない。

 手をほどき、前を見るとそこにはカチューシャの姿があった。彼女の全身からは金色の光が放たれ父上の黒いオーラを弾いていた。破邪の光だ。 


「カチューシャ!」

「イヤー!」


 カチューシャが掛け声とともに破邪の光を父上に向かって飛ばす。黒いオーラが破邪の光に押し戻され父上に直撃する。


「グォォォォ!?」


 先程までエイルとルビーの攻撃を受けても平然としていた父上が、カチューシャの破邪の光を受けた途端、苦痛の悲鳴をあげながら倒れる。まるで全身を火炎で焼かれたかのように地を転がり、悶え苦しみだす。

 それと同時に父上を覆っていた黒いオーラが消え霧散した。


「ツッ!」


 突然、右手の甲に熱湯をかけられたような痛みが生じる。慌てて確認するとルビーに付けられた紋章が桜色に輝いている。


「ルビー!」


 ルビーに向かって思わず叫ぶ。まさかこんな状況で猫の手にされたりしないよな。カチューシャを危険に晒した罰か? それは後にしてくれ。


「行け、お前が決着をつけろ!」


 ルビーが僕に叫び返す。

 先程までの痛みが消え去り、熱湯のような熱さが温泉のような心地よい温もりに変わる。その温もりが紋章を通じて全身に広がり、力が全身に満ちてくる。

 それと同時にカチューシャの破邪の光が消える。力を使い果たしたのか、彼女はヘロヘロしながら地に倒れ込んだ。


「後はお願い」

「分かった!」


 カチューシャの頑張りを無駄にするわけにはいかない。

 愛剣を拾いあげ、父親に向かってダッシュする。体が羽のように軽い。

 転げ回っていた父親も既に立ち上がっていた。戦意は衰えた様子はない。両腕を肩まで上げて僕を待ち構えている。

 父上が自身のリーチを活かして先制攻撃をしかけてくる。先程の黒いオーラこそないが、当たれば命に関わる。僕の顔より大きな拳が顔面めがけて迫ってくる。

 しかし、ルビーのお陰で全てが鮮明に見える。首を左に傾け、最小限の動きで拳をかわす。前髪が拳で弾かれる。さらに僕は踏み込む。

 父上の重心は前に落ちている。目が合う。父上の目には初めて驚きが浮かぶ。


「スマッシュ<ヘヴィ(強撃)>!」


 父上の頭上めがけて渾身の一撃を叩き込む。


「グォォォォォォ!!」


 一際大きな叫び声を上げた後、後ろに倒れる。ドシンとした地鳴りの音が響き渡る。

 父上の体がどんどん縮んでゆき、元のサイズに戻った。

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