対面
父上が来た途端、さっきまで鳴り止む気配のなかった鳥カゴが先程のことが嘘みたいにピタリとなりやむ。父上の右手に長方形の板が握られている。板の材質は黒曜石でよく磨かれ光沢を放っている。表面には古代文字が刻まれおり、鳥カゴと同じ赤い光を放っている。文字の光が止むと鳥カゴの色が元の鉛色に戻った。
「ジャスティス、お前が何故ここにいる!?」
「ルビーを助けにきました。父上、そこを通してください」
狼狽している父上をよそに別のことを考えていた。
父上の隣にいる男についてだ。小柄な男で全身を黒いローブで覆っている。ローブには金色の刺繍で複雑な文様が描かれている。一見すると40代後半から50代前半に見え背中は曲がっていない。白髪にまじる黒い髪を肩まで伸ばして金色の紐で一纏めにしている。手には古代語が刻まれた杖を持ち、腕輪や指輪も多数身につけていた。見るからに魔術師風の男だった。
男は特に興味なさそうに父上の隣にいた。直感的に警戒する。
「こんなことをしてタダで済むと思うな。サラディン、ジャスティスをひっとらえろ!」
命じられたサラディンは動かない。ただ首を横に振るのみ。
「旦那様、もうやめましょう。今なら処罰は軽くすむはずです」
「貴様までワシを裏切るつもりか。この恩知らずめ。 娘がどうなっても良いのか!」
「悪事を働いてまで娘の病気を直したいとは思いません。他の方法を探します」
サラディンのキッパリとした態度に父上がたじろぐ。
「エイル、お前はワシを助けるよな!?」
「嫌です。この場に父様に手を貸す者などおりませんよ」
エイルが冷ややかに答えた。
「ええい、どいつもこいつも役立たずばかりめ。カルメロ、お前がこやつらの相手をしろ!」
「それは遠慮させていただきます。私は私の目的を達しましたので」
カルメロと呼ばれた男が笑う。
カラスが屋敷の中に入ってきて、器用カルメロの肩に止まる。口に巻物を咥えている。窓から入ってきたのだろうか。カラスに心当たりがある。まどわしの森でサラディンと戦闘中に見かけたカラスだ。
「くそっ、望むものなら何でもくれてやるぞ。だからワシに協力しろ」
「ほう、何でもいただけるのですね」
カルメロの食いつきに父上が大仰に頷く。
「ああ、褒美は望むままだ」
「では、新しい呪文に付き合っていただきましょう」
カルメロがカラスが咥えている巻物を掴み広げる。呪文詠唱を始める。
杖を父上に向けると杖から電撃がほとばしる。
「なっ、何をする。ぎゃぁぁぁぁ!!!」
父上が電撃に貫かれる。一瞬強い光で辺りが明滅する。
視力が戻ってくると父上がいた場所に巨大なオーガがいる。身長は天井に頭をぶつけそうなほどであり、肩幅は成人男性の5倍はある。発達した筋肉でずんぐりむっくりな見た目をしている。
「父上ですか……?」
「グルル」
オーガに尋ねても唸るのみ。言葉が通じているようには見えない。
「おおっ、実験は成功だ。では私はこれでお暇させていただく。ジャスティス君、まどわしの森での活躍は拝見させてもらった。素晴らしい働きだ。君の機転で父君の性能を十分に引き出して欲しい。なに、暫くすれば元に戻るから遠慮なく戦ってくれたまえ。ではさらばだ」
カルメロの足元に魔法陣が浮かび上がりカルメロが消えた。
「グォォォッ!」
時同じく、父上が雄叫びを上げて突っ込んできた。その目に理性の色はない。




