表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/53

ゴブリンの巣穴退治

「ジャスティスさん、ゴブリンの巣穴退治やってみませんか?」


 ギルド受付嬢のエレーナさんから提案を受けたのは初めての薬草採取から1ヶ月経過してのことだった。

 僕もモラルもサウレア森林での散策に慣れてきた頃だ。

 薬草を採り、ゴブリンを駆逐し、森に迷い込んだ人を助けて村に送り帰す。そんな日々を過ごしていた。


「ゴブリンの巣穴ですか……」

「そうです」


 ゴブリンの巣穴討伐は、Fランククエストの中で最も危険なクエストとされている。

 ───当然だ。

 ゴブリンの巣穴には20匹以上のゴブリンが生息しており、そんな巣穴の中に冒険者が突っ込むのだ。安全なわけがない。数も地の利も全てがゴブリンに味方している。そんな中で冒険者は討伐するわけだ。


 だからこそ熟練冒険者であっても油断すれば命を落とす恐れがある。

 野良ゴブリンを倒すのと、ゴブリンの巣穴退治は似て非なるもの。

 冒険者ガイドブックにはそう書かれていた……。


 ちなみに前月エレーナさんに啖呵たんかを切っていた戦士達3人とは、その後に顔を合わせていない。

 ……つまりそういうことなんだろう。

 敢えて確認することではないと思い、僕はエレーナさんに彼らの所在を訊ねていない。


「僕達二人でゴブリンの巣穴退治をするんですか? 流石に荷が重いと思うのですが……」

「安心してください。別パーティと共同でクエストを行って欲しいのです。今回の冒険者ギルドからの依頼は、生還を重視してゴブリンの巣穴を退治することです」


 エレーナさんの冒険者重視の配慮にホッとするのも束の間、モラルが物凄い勢いで食い付いてきた。


「私、ゴブリンの巣穴退治やりたいです! ゴブリンは皆殺しです!!!」


 モラルの目は一点の曇りもなく正義感に燃えていた。


 モラルのクエストホリック(冒険中毒)には訳がある。モラルはゴブリンが大嫌いだ。

 薬草採取を通してゴブリンの邪悪さを僕達は学んだ。

 ゴブリンは自分より弱いと思った生き物に対して幾らでも残忍になれる。女子供を攫ったり、いたぶって殺すわけだ。

 救えた命もあれば、その痕跡だけを目撃することもあった。地面に散らばる血糊とボロ布。

 その度にモラルは憤り、ゴブリンを憎んだ。


「我々冒険者ギルドは、人々をモンスターの脅威から守るためにもあります。分かっているとは思いますがゴブリンはネズミの如く数を増やします。増えすぎたゴブリンは女子供だけでなく村をそのものを襲い出します。あなた達なら出来ると考えているのですが・・・。どうでしょうか?」


 チラリとモラルを見やる。言うまでもなくモラルはやる気満々。今すぐ突撃しそうな勢いだ。

 そして僕の答えは……決まっている。


「やります。エレーナさんが無謀なクエストを紹介されると思いませんし」

「ありがとうございます」


 僕は早速、エレーナさんに質問した。


「それで、ゴブリンの巣穴はどう攻略すればいいんですか?1回の突入で倒さなくちゃいけないとか縛りはあるんですか?」


 理想論で言えば、ゴブリンをおびき寄せて各個撃破が望ましい。わざわざ身構えている暗所にわざわざ突っ込む必要はないと思う。

 厳密に言うとゴブリンの巣穴には一般的に20〜50匹のゴブリンが住み着いているらしい。

 当然、子供や負傷しているゴブリンもいるわけで実際に戦闘力を有するゴブリンは2/3位。15匹〜35匹位ということになる。

 1対1なら負けるつもりはないが、多勢に無勢というやつだ。1匹倒す間に4匹のゴブリンから攻撃されたらたまったものではない。相手の有利な条件っで戦ってやる道理はないだろう。


「勿論、1回の突入で倒す必要はありません。冒険者ギルドからのお願いは、安全第一とゴブリンの全匹駆除です。確実に駆逐してください。経験豊富なゴブリンは厄介ですからね」

「分かりました」


 エレーナさんの回答にホッとする。

 経験豊富なゴブリンはゴブリンコマンダー(指揮官)やゴブリンキング(王様)となってより大きな群れを率いる逸材になる可能性がある。邪悪なモンスターを侮るつもりは毛頭ない。


「もう暫くしたら、組んでもらう予定の人達が来ますので、すこし待っ───」


 エレーナさんが喋っている最中に後ろから声があった。


「エレーナさん、来たわよ!」


 僕は後ろを振り返ると二人の女剣士がいた。

 小さな女の子と、大きな女の子だ。

 具体的に言うと、モラルより小さくて勝ち気な子と、僕より大きくて知的な子だ。


 小さな女の子はレザーアーマーにレイピア(突剣)を帯剣し、大きな女の子はプレートアーマーにバスタードソード(長剣)を帯剣していた。

 僕達と同じFランクの認識票を首にぶら下げている。つまり二人とも冒険者だ。


「よく来てくれました」


 エレーナさんが返事をする。


「それで、私達とゴブリンの巣穴退治をする奴はどいつなの? せいぜい足を引っ張らない位の実力がありゃいいけどね」


 小さな女の子は、無い胸をそらしながらエレーナさんのいるカウンターに近づく。……僕達は眼中に入っていないようだ。


「───こちらの二人ですよ。実力は私が保証します」

「えっ、この子達……?」


 小さな女の子は、品定めするように無遠慮に僕達を見る。

 エレーナさんは言葉を続ける。


「とても仕事熱心な二人ですよ。二人のお陰で店頭に薬草が並ぶようになりましたから」

「いっときの品薄は酷かったからな……。それを立て直すとはやるではないか。私はムートレラだ。よろしく頼む」

「私はユーナ。モンスター退治は草むしりと訳が違うのよ。そこんとこ分かってるのかしら?」


 エレーナさんの評価に二者二様の反応を示す。

 大きな女の子、ムートレラさんは好意的に接してくれた。女性にしてはやや低音ボイスで耳にも優しい。

 小さな女の子、ユーナさんの高圧的な態度をしてきてちょっと驚く。声も甲高くせわしない感じがする。でも、確かにモンスター退治は薬草採取と勝手が違うのは事実だ。気を引き締めてやってゆきたい所存だ。


 ……しかし、モラルは違ったらしい。


「初対面でその態度はなんですか? 失礼ではありませんか? ジャスティスさんは私にとって最高の剣士です。もしも貴女よりジャスティスさんが優れていたらどうするつもりですか?」

「きゅ、急に何よ。その時は裸踊りでも何でもしてあげるわよ。そんだけデカイ啖呵をきった以上は分かっているわよね?ジャスティスが私より無能だった場合はどうするつもり? ……そうね、あなた達二人は私の下働きにでもなってもらおうかしら」

「いいですよ。ジャスティスさんは絶対に負けませんからね!!」


 売り言葉に買い言葉。自分の知らない所でどんどん話が過激になってゆく。

 モラルとユーナさんは猫みたいにフーフーしながら威嚇している。


 僕は困り顔をムートレラさんに向けると、苦笑された。

 ムートレラさんが口を開く。


「私達がいがみあっていても仕方なかろう。我々の目的は優劣を競うことではなく、ゴブリンの巣穴退治ではないか? 目的を完遂しつつ全員生還する。これが目指すべき目標ではないか?」

「僕もそう思います」


 ムートレラさんの正論に僕は同意する。よかった、この人はまともな人だ。

 モラルとユーナさんは、ハッとした後に次第に大人しくなった。

 モラルは心優しいが、何故か僕とモンスターに関することになると急に沸点が下がってしまう。それが彼女の唯一の欠点だろう。別に僕の評判なんて低くてもいいんだけどさ……。


「それで、この二人は本当に私達とパーティを組むに値するの? まぁ僧侶は分かるわよ。僧侶は。回復魔法があればパーティの生存率が格段に上昇するんだから。でも、私達前衛が二人いるのに、更に前衛を追加する意味あるの? 私達は冒険者ギルド公認の特待生よ」


 ユーナさんは薄い胸をもう一度逸して威張る(ドヤる)。

 何でそんなにマウントを取りたがるのか理由は分からないけど、主張そのものは僕も正しいと思う。臨時であったとしても、パーティを組むのであれば相手の力量を知ることは極めて重要なことだ。後、冒険者ギルド公認の特待生って何だ? 響きがカッコイイ。

 ユーナさんの質問に対して、エレーナさんが答えた。


「本日付で彼らも冒険者ギルド公認の特待生になりました」

「「「え!?」」」


 エレーナさんの特待生発言に僕とモラル、ユーナさんが驚いた。ムートレラさんは、さもありなんと頷いている。

 エレーナさんが僕達に向けて特待生制度について説明を始めた。


「特待生制度とは、優良冒険者を冒険者ギルドが支援する制度です。冒険者ギルドがスキルアップのため教育訓練や一般には流通しない特殊クエストの回したりします。その代わり今回のような単一パーティでは危険なクエストを特待生同士でパーティを組んで挑んでもらったりします。報酬については通常の3倍お支払いしますので安心して専念してください」


 突然の特待生になったことに驚いた。

 そういえば、先日、スキルアップのための教育訓練を受けたいかとか、特殊クエストを受けてみたいかとかエレーナさんから質問されてたな。

 エレーナさんからの好意を無碍むげにするのも忍びなかったので首を縦に振っていた。ちなみにモラルも同意見だ。

 しかし僕でいいのだろうか? 自然と気持ちが言葉となって吐き出される。


「僕でいいんですか? 前にエレーナさんは言ってましたよね。僕は冒険者としては大成出来ないかも知れないって。スマッシュしか出来ない冒険者にいったい何を期待しているんですか?」

「もちろん冒険者は強いに越したことはありませんがクエストに真面目に取り組んでくれる冒険者もまたギルドにとって得難い人材です。世の中はドラゴンや悪魔退治だけで成り立っているわけはありませんからね。ゴブリンを確実に退治出来る人材もまた必要なわけです」

「なるほど……」


 確かにゴブリンを倒せぬ者にとってドラゴンとゴブリンの危険性に大差ないだろう。助けが間に合った人達の表情は誰もが地獄に仏を見たように僕達を見て、僕達は救えたことを神に感謝している。


「それに貴方達は実績も抜群ですからね。30日間休まず薬草採取を行い、野良ゴブリンの討伐数も100匹を越えました。薬草採取におけるゴブリン討伐の新記録です」

「うそっ!?」

「継続は力なりってやつですね。ハハハッ……」


 エレーナさんが下した僕達に対する評価に、ユーナさんが口を開けて驚く。

 数字だけ聞くと確かに凄いことのような気がしないでもない。


 僕だって毎日は薬草採取をするつもりはなかった。本当は途中で休みを挟むつもりでいた。

 しかし、薬草が手に入らず困り、ゴブリンの脅威に怯える村人たちの助けになりたいとモラルの熱意に付き合ったわけだ。僕はモラルほどは正義感はないけど、モラルが望んだことに共感するところはあった。だから付き合ったまでだ。


 慣れというのは恐ろしいもので薬草採取のコツを掴むと、より短時間でクエストをこなせるようになった。最終的に12時くらいにはクエストを終えることが出来るようになった。だからバランスの良い暮らしを送れたと思う。早寝早起き、健康的な食事、薬草採取に野良ゴブリンの駆除。その後に

モラルの助手ということで教会の手伝いを行ったり剣の訓練をしていた。


 その成果がこれだ。


───

スマッシュ (LV.31/100,000)

筋力向上  (LV.11/100,000)

体力向上  (LV.10/100,000)

素速さ向上 (LV.10/100,000)

───


 <スキル爆速強化>のお陰でスキルポイントをどんどん取得出来る。

 取得したスキルポイントをパッシブスキル(身体向上)に割り振ることで体がどんどん軽くなる。

 防具は衣服のように軽くなり、大剣もやすやす振るえるようになった。

 確かな成長レベルアップに満足感がある。


「これなら、文句はありませんよね?」

「あ、あなた達にしてはやるじゃない。でも、ワタシがこれであなたを認めたわけじゃないんだからね!」


 エレーナさんが確認すると、ユーナさんも認めてくれた。

 これで無事に臨時パーティが成立したわけだ。


 こうして僕達は村々の安全を脅かすゴブリンの巣穴退治に向かうことになった。

メスガキを分からせたい方はブクマお願いします。

メスガキを分かりたい方は☆5お願いします。


大変申し訳無いですが、作者都合により更新頻度が6話以降は週1程度になると思われます。

なるべく投稿頻度をあげてやってゆけるように善処しますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ