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潜入

 エドリックの判定語にエイルが起き上がる様子がない。エイルのもとに駆け寄る。


「エイル、大丈夫か!?」


 エイルを抱きかかる。暫くした後に眉をピクピクさせながら声を漏らす。

 多少汚れてはいるけど頭を打ったとかそういうことはなさそうだ。一安心だ。

 暫くするとエイルが目を覚ました。一瞬、ハッとしたような表情をした後、憑き物が落ちたかのように薄く笑う。


「負けるとは思わなかったよ。やっぱり兄さんは凄いや」

「偶々だよ。偶々」


 実際、ワイドプレスが上手くいかなかったら、地面に転がっていたのは僕の方だっただろう。作戦が上手くいっただけで実力で勝てたなんて微塵も思っちゃいない。


「そういう謙虚な所は変わってないね。兄さんを侮った私が負けるべくして負けたわけか。何をすればいい? 兄さんの言うことならなんだってするよ」

「救出作戦に協力してくれればそれでいい。僕は留守番しないからな」


 エイルに向かって拗ねたフリをする。


「それは悪かったって。だからそんな恨めしそうな表情しないでよ」


 エイルはおちゃらけたように笑う。


「OK。反省しているなら許そう。後もう一つ、何でも言うこと聞くって話だったよな。だったら一回しか言わないぞ。エイル仲直りしよう。兄ちゃんは弱くないし、お前も責任を感じる必要もない。だから今まで通りの関係だ。いいな?」


 エイルが目を大きく見開き、間髪入れず即答する。


「うん!」


 エイルが晴れ晴れとした表情で笑う。それに釣られて僕も笑った。


「二人とも大事ないですか?」


 モラルが小走りに駆け寄ってきた。カチューシャとエドリックもいる。


「うん、平気だよ」


 モラルに片手を上げて返事する。

 僕達の様子を見て、ちょっと驚いた後に穏やかな笑みを浮かべる。


「仲直り出来て良かったね」

「体で会話したからね」

「次からは生傷の絶えない会話はしないでね」


 モラルが小言を言いながら僕とエイルにヒールを唱える。たちまちに傷が癒える。

 傷が癒えた後、少しモラルを見つめてからエイルが口を開いた。


「モラルさんありがとう。後、兄を侮ったことを訂正します。弱くありません。私より強いです」

「ジャスティスが強いと分かっているなら私から言うことは何もないわ。ジャスティスと仲直りしたなら、私とも友達になってくれないかしら」

「勿論です!」


 モラルとエイルが笑いあっている。

 二人共仲良くなれてよかったと思う。何気にエイルにとって初めての友達なんじゃなかろうか。妹に友達が出来たことを兄として喜ばしく思う。


「どうやら丸く収まったようだな。じゃあ、これからの話をしよう。どうやってカチューシャちゃんのお姉さんを助けるかい?」


 エドリックが今日の夕飯を尋ねるような気軽さで問いかけてきた。


「それについてだけど……」


 エイルとの口論で言いそびれた情報を共有する。仮にエイルが納得してないまま話しても丸く収まらないと思ったからこそ話さなかったわけだが。

 情報共有を終えると、エドリックは満足げに頷き、エイルは恥じ入りように頭を下げた。


「兄さん、ごめんなさい。兄さんの作戦のほうが成功確率高いと思う」

「エイルの作戦も悪くないと思うけど僕達にはカチューシャがいるからね。カチューシャ、頼りにしている」


 カチューシャに笑いかけると、カチューシャは力強く頷いた。


「任せて。今度は私が頑張るから! 早くルビーを助けに行こう」


 今にも飛び出さんカチューシャをエドリックが片手で制した。


「あー、それについてなんだがな。闇夜に乗じて助けにいかないか。俺達はカチューシャちゃんのお陰でルビーちゃんがどこに居るか分かるんだろ? だったら救出しやすいタイミングで動かないか?」

「えっ、すぐに助けに行かないの!?」


 カチューシャの顔に、驚きと非難がありありと浮かんでいる。

 エドリックはちょっと困ったように笑う。


「カチューシャ、僕も夜動くのがいいと思う。昼間にことをおこしても丸見えだからね。状況が分からないすぐに向かうけど僕達にはカチューシャがいる。ルビーの位置が動くならすぐ動く。今は動いてないんだよね?」


 カチューシャは何かを確認するように目を閉じる。


「うん、動いてない……」

「今すぐ動くよりもう少し待った方が上手くいくんだ。ルビーをすぐ助けにゆきたいのは分かるけど僕のこと信じてくれないか」

「ん、分かった。ジャスティスのこと信じる」


 カチューシャは頭では理解出来るが、感情的に納得出来ていないようだがひとまず了承してくれた。


*****


 僕達は夜になってからルビー救出を開始した。

 夜空に星が輝いている。

 辺りは真っ暗で明かりがないと先を見通すことが出来ない。当然人の出入りはない。これなら僕達が目撃される恐れはないだろう。

 本来であれば、完全に人が寝静まった時間帯、深夜に動くのが救出作戦としては最良と言える。しかし、深夜までルビーが無事である保証はないため多少のリスクは承知の上で活動を開始した。


「あの建物にルビー姉さんがいる」


 カチューシャが近隣の建物の中で最も大きな建物を指差す。

 その建物は石造りの立派な屋敷であり、周囲も石垣でしっかり囲われている。

 室内も明かりで照らされており窓越しに室内の様子が見える。

 ルビーは僕の実家、父上の屋敷で捕らわれていた。


「一旦近くのヤブに隠れよう。もう一度打ち合わせしよう」


 僕達はヤブの中に身を隠した。

 ヤブの中に見を隠すと、エイルが声を殺しながら怒っている。


「妖精を攫うなんて信じられない。家を潰す気なの」

「欲に目が眩んだんじゃないかな。父上ならやりかねないね。言ってやりたいことは山程あるけど今はルビーを救出することに専念しよう」

「分かってる」


 エイルは腹の虫が収まっていない様子だった。

 僕は僕で正直なんとも言えない気持ちになっている。

 まさかこんな形で実家に帰ってくるとは考えてなかった。父上が撒いた種は僕が刈り取らなければならない。


「手筈について確認だけど、屋敷にこっそり入ってルビーを助ける。最低でもルビーを助けるまではバレるわけにはいかない。ルビーを人質に取られたらこちらは手の出しようがないからね」

「じゃあ、屋敷にどうやって近づく?」


 モラルが早速議論に参加してくれた。

 屋敷を囲う石垣は人の背丈のほどある。


「気は進まないがバレないのを祈りつつ正面から侵入するか? 石垣を乗り越えようとしてるよりかはマシだと思うぜ」


 エドリックが意見を出す。


「それについてなんだけど、実は石垣に抜け穴があるんだ。子供の頃に掘ったやつなんだけどね。それを使えば何とかなると思う」

「外出する時に使っていた抜け穴だね。あの穴なら私が王都にゆく前まであったから使えるんじゃないかな。試す価値あるよ」


 エイルが嬉しそうに顔をほころばす。エイルと一緒にこっそり外へ遊びに出かけたりしてたから、そのことを思い出しているのかも知れない。


「そりゃ試す価値ありそうだな」

「私も賛成です」


 エドリックとモラルも乗り気だ。


「じゃあ、早速行こう」


 早速夜の闇に紛れながら、音を立てずに移動を開始する。周囲に誰もいないことを確認した後、抜け穴のある場所まで移動する。

 その後、カモフラージュ用の板を外すと人が通れるほどの穴が空いたままになっていた。


「これだったら通れるね」


 嬉しそうにモラルが笑う。


「うん、まだ使えてよかったよ」


 モラルに相槌しながら安堵の吐息を吐いた。これで敷地内にはバレずに侵入出来そうだ。


「じゃあ、お先に」


 早速抜け穴経由で敷地内に侵入する。他メンバーも全員抜け穴を通り侵入を果たした。 

 屋敷の窓越しから人影がときおり見える。今まで以上に慎重に足音を殺しながら裏口のドアへと近づく。

 エイルがドアに近付き懐から裏口の鍵を取り出す。鍵を回し施錠を解除する。

 ドアノブを回すとドアが開いた。


「ルビー姉さんは1階にいる。具体的な場所は中に入ってみないと分からない」


 カチューシャが囁くように皆に告げる。

 僕は首を振って相槌をした後、屋敷の中に侵入した。

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