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試合

 僕はすり足でエイルに近づく。

 エイルの顔は自信で溢れていた。自分が負けるとは思っていないのだろう。勿論僕だって負けるつもりで戦っていないが。

 その自信の現れからか、エイルが先にしかけてきた。自信に違わぬ猛禽類のように鋭い一撃。

 条件反射的に体を動かし、対応する。

 『カンッ』という木剣がぶつかり音が響き渡る。

 鍔迫り合いになった後、体格差を活かしてそのまま押し返す。吹き飛ばしたエイルに上段から木剣を振るう。

 エイルは僕の一撃を木剣で受け止め、受けた勢いで後ろに下がった。野生の猫のような身のこなしだ。

 何事もなかったように着地し、元いた位置に戻った。


「驚いたよ兄さん。まさか対応されるとは思ってなかったよ」


 エイルが心底嬉しそうに笑いかけてきた。


「僕だって昔のままじゃないからな」


 あれがエイルの全力ということはないだろう。試合直前に素早さを上げておかなかったら対応することは出来なかった。

 それでもジョブ診断の時は手も足も出なかったエイルの一撃に対応出来たのは嬉しい。ここにきて初めて成長の実感を得られた。

 互角と言わなくても勝負は出来る。その事を念頭に自分自身を奮い立たさせる。


「どうやら甘く見ていたのは私のほうだね。じゃあこれはどうかな」


 エイルの目つきが変わり、雰囲気が変わる。

 さっきまでの好意的な表情がなり潜め、僕を倒そうと真剣な顔でこちらを睨む。

 エイルが先程のような侮りはなく勢いを殺さずにこちらに近づいてくる。

 助走をつけて苛烈な連撃を繰り出してきた。先程よりも素早く鋭い連撃だ。

 反応するのがやっとで、こちらに反撃する余力はない。初めて目にする速度に驚くばかりだ。

 こちらが1回防御する間に、エイルが3回攻撃を仕掛けてくる。結果、こちらの手数が足りず何発も被弾する。被弾箇所に鞭で叩かれるような鋭い痛みが襲う。


「はぁぁぁっ」


 エイルは好機と見てか、更に踏み込んでくる。その距離、互いの木剣が届きうる距離。僕の攻撃も届きうる距離だ。このまま防御を続けていてもダメージが蓄積して負けるのは目に見えている。被弾覚悟で攻撃を仕掛ける。


「スマッシュ<クイック(刺突)>!」


 こちらも連撃で応戦する。どれか一撃でもエイルに当たれば流れが変わるかも知れない。

 その期待とは裏腹に全て捌かれる。回避したり、剣の軌道をズラされたりして対応された。

 それでもこちらの攻撃は止まらない。止められない。攻撃を止めた瞬間にエイルがトドメの攻撃をしかけてくるだろう。体が肉薄するほど近づき鍔迫り合いの状態になる。木剣越しに力を込めてエイルを押すとエイルが吹き飛んだ。いや、後ろに下がったようだ。エイルは試合開始の位置まで下がっていた。


「どうして下がったんだ?」


 納得のゆく理由が思い浮かばず、思わずに疑問が口に出た。


「兄さんと戦うのが楽しくって。さっきので仕留めきれないなんて」


 欲しかったオモチャを見つけた時のようにウキウキとエイルは目を輝かせていた。


「さっきの技は誰かに習ったの?」

「自分で覚えた」

「凄い。あんな重い連撃、同期の奴らでも繰り出せるやついないよ。やっぱり兄さんはすごいや」

「そうかい」


 絶賛はしてくれるけど、全弾弾かれたんですが。こちらは喜んでいる暇はない。どうやったらエイルに勝てるか?正面切った戦いじゃ勝つのは難しいだろう。こちらはエイルの攻撃を避けることが出来ない。エイルにクイックを仕掛けたところで倒せる保証はない。同じ技をしかけても反撃をされて一方的に倒されるかも知れない。だから、エイルの土俵で戦うことをやめる。

 一度大きく深呼吸をして集中力を高める。チャンスは1回っきりだ。


「まだ諦めていないようだね。それでこそ兄さんだ」


 エイルも剣を構える。一拍置いてエイルが突っ込んでくる。


「スマッシュ<ワイドプレス(圧縮壁)>!」

「うわっ!?」


 エイルが驚きの声を上げる。前方に半透明の壁のが生じたためだ。

 エイルは壁を回避しようとするが勢いを殺せず両腕を前方に突き出す形で衝突する。

 壁が消失する。エイルはダメージこそ負っていないが姿勢を崩している。


「スマッシュ<ヘヴィ(強撃)>!」


 この一瞬に全てを懸ける。僕の最大火力をエイルに叩き込む。スキの大きい技ではあるけど体勢を崩している今なら必中だ。


「パリィ!」


 エイルが攻撃の回避スキルを発動させる。

 パリィは発動するが、僕の攻撃を弾けない。エイルに攻撃が命中し、エイルがバウンドしながら後方に吹き飛ぶ。

 やったか!? と一瞬期待するがやっていない。

 若干不自然ではあるがエイルは自力で立ち上がる。どっしりと重心を低くして立っている。木剣を両手で肩より後ろに構えている。

 あの構えは剣撃を前方に飛ばす技、ソニックブームだ。エイルの意図を悟り、こちらも応戦する。


「ソニックブーム!」

「スマッシュ<ジェットストリーム(真空砲)>!」


 エイルの放った新月のような鋭利な衝撃と、僕が放った砲弾のような衝撃がぶつかる。

 エイルの衝撃が霧散し、ジェットストリームがエイルに向かって真っ直ぐ進む。エイルに直撃する。

 エイルは倒れ、木剣を手放す。


「勝者、ジャスティス!」


 エドリックが判定を告げた。

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