救出作戦
ほぼほぼ無傷でサラディン達を撃退することは出来たが、妖精達は暗い。
ルビーを連れ去られたためだ。勝利を喜ぶものが誰一人としていない。
「ジャスティス、これからどうするんだ?」
一番最初に会った門番の妖精が尋ねてきた。
他の妖精達からの視線も集中する。そわそわしている。落ち着きがない。中には懐疑的な目を向けるものもいる。
「勿論、ルビーを救出に向かう」
意識的に堂々と、胸を張って宣言すると妖精達の表情を明るくなる。
具体的にどうするのか続きを聞きたい。
「分かった。じゃあすぐ行こう」
門番の妖精が力強く頷く。
すぐ支度を開始しようとした門番の妖精を慌てて呼び止めた。
「あー、それなんだけど、君達には里を守っていて欲しい」
「なんでだよ」
門番の妖精がひどく驚いたようで声を荒らげている。そりゃ寝耳に水だろうさ。
「理由は聞かせてもらえるよな?」
「もちろん」
軽く咳払いをした後に理由を説明する。
「君達がルビーを助けたいと思う気持ちは分かるけど、もしも君達がルビーを助けに向かったら結界の貼られていない里はどうなるんだ? 誰が守るんだ? 僕とモラルに任せて欲しい」
現状、まどわしの森には結界が貼られていない。入ろうと思えば誰でも入れる状態だ。
また誰かが入ってくる可能性は否めない。里を守るためにも誰かが残る必要がある。
「だったら半分里に残して救出に向かえばいいのではないか?」
「君達妖精は僕達人間の世界では目立つ。人間の中で活動するのは僕達人間の方が都合いいんだ」
「モラル、準備出来たら早速行くよ」
「分かったわ」
「待ってください!」
呼びかけられたので後ろを振り向くとカチューシャが呼び止めたようだ。少し慌てている。
「どうしたの?」
「あ、あのっ、私も連れてってください!」
「急にどうしたんんだい? 話は聞いてたよね」
「そうだよカチューシャ。自分だけワガママよくないよ」
妖精の一人がカチューシャを非難した。それに続く形でそうだそうだと他の妖精たちも続く。
「だって、その……」
周りからバッシングを受けて、カチューシャは涙目になる。
何か言いたいことがあるようだが、言えずにまごついている。
「カチューシャどうしたの? ゆっくりでいいから教えてくれないか?」
周りを手で制しながらカチューシャに続きの言葉を促す。他の妖精達は不満げではあるが、とりあえず静かにしてくれた。カチューシャも冷静さを取り戻したようでおずおずと喋りだした。
「私のソウルリンクを使えば、お姉ちゃんの場所が分かるの」
「ソウルリンク?」
ソウルリンクと言われてもさっぱり分からない。場所が分かると言ってもどの水準で分かるのかで話が変わってくる。サラディンから場所は聞き出しているから大体の場所が分かるだけなら連れてく理由にはならない。
「なるほどな。ソウルリンクだったら連れてく理由になるだろうな」
門番の妖精が合点がいったように頷く。
「どういうこと?」
「ルビーとカチューシャは魂で繋がってるんだ。だからあの二人は何となく自分達がどこら辺にいるのか分かってしまう。だから鬼ごっことかやらせると遊びにならないんだけど、こういう形で役に立つとはな」
「じゃあ、リアルタイムでルビーがどこにいるのか分かるということ?」
「そういうことだ」
そういえばカチューシャとファーストコンタクトした際に、ルビーが突然現れたよな。
あれもソウルリンクだったんか。
だったら話は変わってくる。カチューシャを連れてゆくメリットは十二分にある。
「私を連れてった方が役に立つよね? だからお願い、連れてって」
「カチューシャにも危険が及ぶ恐れがある。その覚悟はあるのかい?」
自分都合で考えるなら、はっきり言ってカチューシャを連れていかない理由はない。
ルビーが屋敷のどこに幽閉されているのか初めから分かっている方が上手くゆくに決まってる。
それに屋敷には僕の知らない魔法使いがいるかも知れない。そいつが鳥カゴなり結界壊しのアーティファクトを提供したのではないだろうか。そいつの魔法を無効化するためにもカチューシャは有効なはずだ。同行したいなら覚悟を見せて欲しい。
「私だけ安全な場所にいるなんてありえないよ。そんなに危険なら尚更お姉ちゃんを早く助けにいかないと。お願い、協力させて!」
先程までオドオドしていたカチューシャに迷いはない。決意に満ちた凛々しさがある。
そんなカチューシャに頼もしさを感じる。これだったら同行させて問題ないだろう。
「分かった。よろしく頼む。頼りにしてる」
同行を許可すると、カチューシャは花開いたように明るい表情を浮かべる。
「うん、任せて!」
「カチューシャ、私達の分まで頑張ってくれ」
門番の妖精をはじめ、他の妖精達も口々にカチューシャにエールを送る。
「必ずルビーお姉ちゃんを助けてくるよ」
OK、話は丸く収まった。
救出に向かう前に立ち寄りたい所があるから早めに出発しよう。
「それじゃあ、僕達は出発するけど、守りはしっかり固めてね。砦の補強、罠の拡充は忘れずに。今度は倒すつもりで魔法を唱えていいから」
「任せてくれ。ルビーのこと任せたぞ」
「任せて。必ず助け出してくる」
こうして望まぬ形で実家へ向かうのであった。




