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撹乱

 とりあえずまどわしの森の中域まで進んでストップする。

 このあたりにはまだ敵は侵攻していないことを確認し、右手の人差し指を口元に近づける。

 人差し指にはクローバーの茎で編まれた指輪がはめられている。


「テステス。聞こえる?」

「聞こえます。敵は森の外縁部に侵入しました」

「分かった。これから現場に向かう。ナビゲートをよろしく頼む」

「任せてください」


 妖精にしては珍しく普通のテンションの彼女のナビゲートに従い現場に急行するのだが極めて順調に進んでゆく。彼女のナビゲートが優秀なためだ。予め前方で何が起きているか分かって進めることに頼もしさを覚える。


「ジャスティスさん止まってください」

「どうしたの?」


 妖精の指示に従い、移動を止める。


「そろそろ敵と接触します」

「OK、分かった」

「距離300m、そのまま真っすぐ先に敵がいます。単独ですね」

「そりゃありがたい。誘導ありがとう」

「当たり前のことですから気にしないでください。ご武運を」


 教えてもらった情報を基に敵から見て死角になる木の茂みに隠れ気配を殺す。

 暫くしてガサコソと音を立てながら父上の私兵が現れる。

 敵から見て死角に隠れたことを確認してからスマッシュ<ブースト(加速)>で肉薄する。こちらに気付いた頃にはもう襲い。峰打ちを叩き込む。


「うっ!?」


 バタリと倒れる私兵。

 倒れた私兵に妖精達からもらった毒蛾の粉を振りまく。

 これで3時間程度は気を失う。

 サラディンの本隊が現れる前にサッと隠れる。


 妖精のナビゲートの元、突出した敵兵に対して強襲を繰り返す。

 ヒットアンドアウェイ。

 敵の死角で待ち伏せして、スマッシュ<ブースト(加速)>で強襲する。 

 作戦は見事にハマリ敵兵を倒してゆく。


 こちらが撤収した後に後ろから声が聞こえてくる。


「またやられている!」

「まだ近くに潜んでいるかも知れない。警戒は怠るなよ」


 潜むつもりはありません。安全第一でやらせていただきます。

 一度距離をとり安全圏に退避する。


 そんなやりとりを4回程繰り返す。

 これで敵の10%は無力化出来ただろうか。

 敵兵と十分に距離をとった後に妖精と交信する。 


「次はどこから強襲すればいい?」

「次はですね……ん? ちょっと待ってください」

「どうしたの?」


 戦いが始まってから初めて妖精の歯切れが悪くなる。


「敵の動きが変わりました。二人一組で動き始めました」

「了解。分かった」


 流石サラディン。もう作戦を変えてきたか。

 今までみたいに余裕のある戦いは出来そうにないな。


「これからどうしますか?」


 こちらに判断を仰ぐように、やや困惑混じりで妖精が尋ねてきた。


「そりゃ戦うよ。但し今までみたいに気付かれずに倒すのは難しいだろうね」

「じゃあ、どうするんですか?」

「相手を傷つけずに倒すのは難しいだろうね。敵の数を減らせるうちに減らしておくさ」

「気をつけてください」

「任せて」


 妖精にナビゲートしてもらいながら、敵の脆弱な部分を襲撃をかけに向かう。


 ツーマンセルになってからも作戦自体は変わらない。

 敵の死角を突いて攻撃。樹木の影に隠れてからのスマッシュ<ブースト(加速)>で強襲をしかける。

 強襲は成功する。

 体ごとぶつかるような勢いで敵兵に肉薄し、腕に手傷を負わせる。


「グワッ!」


 手傷を負った敵兵は剣を取り落とす。

 もう片方のペアは突然のことで対応出来ない。

 バッチリ目線が合う。驚き戸惑っている。知らない顔だ。

 

「う、裏切り者の息子だ!」


 敵兵が叫ぶ。声が周囲に響き渡る。

 周囲からガサゴソと音が聞こえてくる。


「悪に堕ちるよりはマシだ!」


 裏切り者扱いに反論する。

 残りも倒したいのも山々だが倒してる間に囲まれる恐れがある。

 足を止めて戦うタイミングではない。さっさと撤収する。

 スマッシュ<ブースト(加速)>でその場から離脱する。


 正体がバレて、サラディン達からより警戒されるようになる。

 こちらが強撃をしかけても最初の頃のように慌てたりしない。

 一人がやられる間に、もう一人が反撃しかけてくる。それを剣で受けたり、回避する。

 気を抜くとやられる恐れがある。


 或いは二人を囮にして、周りに潜んで僕たちを罠に嵌めようとしてきたりする。

 しかし、情報は筒抜けなので、こちらは更に裏をかいて攻撃をしかける。


「何でこちらの作戦がバレてるんだ!?」


 悲鳴じみた声を上げる敵兵。

 人数では劣るが、情報戦ではこちらの方が圧倒的に有利。

 向こうに付き合う理由はないので、こちらはさっさと撤収する。


「敵の動き方が変わりました。3人一組で動いてます」

「分かった。僕で削るのは厳しそうだね」

「えっ?」


 僕の発言が以外だったのか妖精が驚きの声を上げる。


「僕が一人倒す間に二人から攻撃されるからね。無傷で倒すのは厳しいと思うよ」


 だからこそ格下のゴブリンを倒す時ですら1対多にならないように気をつけてきた。

 ゴブリンより強い人間を相手にして1対多をやるつもり毛頭からない。


「確かにその通りですね。じゃあどうするんですか?」

「強襲から陽動に作戦を切り替えるよ。敵を減らすんじゃなくて、敵を誘導する」

「あっ、そうか。そうですよね。私達の目的は敵を倒すんじゃなくて誘導するのが目的ですよね」

「その通り。本来の目的に戻るだけだよ」


 僕達の目的は敵を誘導することであって、敵を倒すことではない。

 今までは僕単独でも敵を削ることが出来たからそうした。

 敵の数が増えて敵を削ることが出来ないなら、しなければいい。


「敵はスリーマンセルになってより面倒になる。君のナビゲートが重要になる。僕は君を信じている」

「ジャスティスさん、任せてください!」


 妖精の意気込みが伝わってくる。

 やる気があって何よりだ。

 彼女のナビゲートは極めて優秀だ。厳しい戦いになるがやってやれないことはないはずだ。気を引き締めて仕上げといこうじゃないか。


「いたぞっ、かかれ!」


 敵兵達から弓を射掛けられる。

 飛んできた矢を大剣で打ち払う。幾本かの矢が直撃せずに通り過ぎてゆく。

 今のは危なかった。


 作戦に基づいて陽動を行っているが、スリーマンセルを相手にした陽動は辛い。当初の予定以上に辛い。


 スリーマンセルが始まる前に10人位は削ることが出来たと思う。

 最初に頃に感じられた侮りのような感情が向こうから無くなっている。その表れがスリーマンセルでの行動だろう。人数が増えて的の索敵能力も向上している。こちらに情報的優位はあるが、接近が困難になっている。


 接敵したら接敵したらで相手はこちらの3倍手数がある。

 こちらが1回動く間に向こうは3回動ける。結果、先程のように常に攻撃に晒され続けている。


「くそっ、何で攻撃が当たらないんだよ!」


 敵兵が毒つく。

 そりゃ、攻撃を避けることに専念してるからね。攻勢に出るタイミングではない。

 単体攻撃ならある程度対応出来る自信はあるが、この手の飽和攻撃にはめっぽう弱い。結果的に僕の弱点を突かれる形となった。攻撃と素早さ上がったけど、防御力は普通の人間と変わらないから攻撃はなるべく受けたくない。


 サラディン達を一網打尽するために砦へ誘導を続ける。結果、誘導が上手くいけばいくほど僕の移動出来る範囲が狭まってゆく。結果、サラディン達との接触頻度も増え、先程のように攻撃に晒される機会も増えた。はっきり言って辛い。

 一旦、スマッシュ<ブースト(加速)>で大きく後退する。


「後もう少しです。頑張ってください」

「分かってる」


 そう、後もう少しなのだ。

 敵の攻撃が激しくなったということは、それだけ目的地である砦に近づいているこことを示している。だからこそ、苦しいけど頑張ろうって気になる。妖精達のために作戦を成功させたい。


 自身の身を危険に晒しながら、陽動を続行する。

 僕に向かって矢がビュンビュン飛んできてヒヤヒヤするけど作戦自体は順調に進む。


「ここから先、危険地帯です」


 サラディン達を誘導中に妖精から割り込み通信が入ってくる。


「ああ、あそこか」


 誘導も最終地点に差し掛かる。

 妖精達が構える砦近隣に三角形のような空き地あり、追跡してくるサラディン達が横一列に隊を伸ばせる。要するに今まで以上に矢を一斉射撃できる。事前の打ち合わせでも避けて通れない危険地帯としてマークしていた。


 感慨を抱く間もなくサラディン達の集団が表れる。合流したらしい。

 地形を把握した後のサラディンの行動は迅速だった。


「弓隊、射掛けろ!」


 サラディンの指示で横一列に隊を伸ばし弓で射掛けてきた。


 その内、5本の矢が直撃コース。2本は切り落とせるけど、3本は躱せない。

 妖精が声にならない悲鳴を上げている。


「スマッシュ<ワイドプレス(圧縮壁)>!」


 薄い琥珀色した圧縮空気の壁を生成する。

 圧縮された空気の壁に5本の矢が当たるが弾き返す。


「なにぃ!」

「マジかよ……」


 サラディン達がどよめく。僕が攻撃を躱せたことが意外だったらしい。そういう僕だってヒヤヒヤしてたわけだが。そのままさっさと森の奥へ後退する。


「ジャスティスさん、お見事です! もう駄目かと思っちゃいました」


 妖精の声が弾んでいる。嬉しそう。


「ありがと、最後の仕上げをするよ」


 実は僕も自信がなかったんだとは言えないよな。

 練習はしてたけど実践でワイドプレスを使うのは初めて。上手くいって内心でホッとする。

 

「はい! 精一杯支援します」


 暫くして後ろから足音が聞こえてくる。サラディン達は追跡を諦めていないようだ。諦めてもらっても困るわけだが。

 そのまま散発的な攻撃を受けるが無事に砦前まで誘導を継続する。


「そろそろ到着する。任せたよ」

「任せてください」


 砦到着前に最後の交信を妖精と行う。

 景色の切れ目。

 木々を抜けると、ぽっかりと台形の形をした空き地に出る。

 先程の三角形の空き地より更に二回り程大きい。

 空き地の中央に妖精達が築いた砦が出現する。


 土や岩石で出来た高さは5mほどの無骨な砦。

 妖精達が召喚したノームに作らせた力作だ。

 木材ではないので火矢で燃えることもない。

 20cm程の大きさの彼女達が作ったことを考えると、50m相当の砦を作ったようなものだろう。

 一晩でこれほどの建築物を作れるのだから彼女達のポテンシャルは計り知れない。


 ガチャガチャと音を立てながらサラディン達も到着する。

 そして目の前に突如出現した砦に驚く。


「何でこんなとこに砦があるんだよ!」

「嵌められたのか!?」


 驚愕。どよめきがわき起こる。

 サラディンの部隊の統率が乱れる。


「撤退するぞ」


 サラディンが大きな声で命令する。


「散々コケにされてこのまま帰れるか!」

「言う事を聞け!」


 敵兵の中で一部、命令に反発するものが出てくる。

 その者達が僕に向けて弓を射掛けてくる。


「モラル!」

「任せて!」


 モラルに声をかけ、サラディン達に背を向けたまま砦へと向かう。

 モラルがプロテクションの魔法で半円球の防御壁を展開し、弓が弾かれる。


 スマッシュ<ブースト(加速)>を用いて水平ジャンプ。

 空を舞い、砦の着地する。

 ルビーが砦の最上階で待機していた。


「無事か?」

「うん、何とか。ルビー頼むよ」

「任せてくれ。みんなやるぞー!」

「「「はーい」」」


 ルビーの掛け声に中にいる妖精達が応える。

 妖精達が呪文詠唱を始めると、砦の前方に半透明の妖精と酷似した小さな女の子、シルフが10体以上出現する。

 彼女達が手をサラディン達に突きつけ得ると強風が吹き荒れる。 


「うわぁぁっ!!!」


 シルフが生み出した強風でサラディン達の部隊が、文字通り吹き飛ばされる。

 悲鳴を上げなら木々に落下していった。

 辛うじてサラディンだけがその場で踏みとどまっているが消耗している。


 「大成功だな」


 ルビーが満足げにドヤ顔しながらニコニコしている。

 砦の中からも嬉しそうな歓声が聞こえてくる。


「う、うん、そうだね」


 目的は達成出来た。が、正直、ここまで強力な魔法を彼女達が行使するとは思ってなかった。

 まさかこれ程までとは……。

 思う所は多数あるが、ひとまず本題に専念する。サラディン達の処遇についてだ。


「サラディン、勝敗は決した。大人しく投稿しろ。命は保証する」


 周囲の状況を確認するサラディン。両手を上げる。


「坊っちゃん、分かりました。降伏しましょう。それで我々の処遇はどうなりますかな?」

「父上に森の妖精に手を出すなと伝えてくれ。全員を引き連れて屋敷に戻るように」

「要求はそれだけで、よろしいのですか?」


 サラディンが意外そうに尋ね返してくる。捕縛、拘束などを想定していたのだろうか。


「ああ、それだけだよ。妖精に手を出すことは王国の法によって禁じられているはずではなかったか? これ以上強硬な手段に出ると言うなら僕にも考えがあるよ」

「……分かりました。坊っちゃんの意見を旦那様にお伝えしましょう」


「ジャスティス、どういうこなの!? 駄目に決まってるでしょ」


 信じられないというような表情をしながら、ルビーが厳しい表情をしている。まぁ、こうなると分かっていたから事前に話はしていなかったんだが。


「ルビー、落ち着いて。この人間達を懲らしめても問題は解決しないんだ。元凶を取り除く必要があるんだ」

「話が分からないわ。もっと分かりやすく教えて」

「僕が元凶である父上と話をつけてくる。そのためにサラディン達を見逃してやる必要がある」


 父上に対して有利に交渉を行うために、こちらも誠意を示す必要がある。こちらがサラディン達を見逃したら、父上だって無下には出来ないはずだ。それとサラディンの部隊の中には、追放される前に世話になった臣下も何人かいた。可能であるなら無傷で帰らせてやりたい。

 それに現実問題として、妖精の里で30人もの捕虜を扱うのは不可能だ。彼らを拘束する施設、食料を用意出来るだろうか?不意を突かれた時に不測の事態が起きないとは言い切れない。見逃してやることが一概に悪いは言いきれない。

 

「断る。こいつらは私達を害そうとした。カチューシャに危害を加えた。逃したから反省するとは考えられない。そもそも反省するような奴らが襲いかかってくるわけないだろう。こいつらは結界を壊し土足で侵入してきた。そんな奴らを見逃す道理がどこにある? こいつらは全員縛り首だ!」

「ルビー、待って!」

「離せ!」


 呪文詠唱を始めそうなルビーを慌てて拘束する。ルビーが僕の手の中でジタバタと暴れる。


「どうやら交渉決裂のようですな」


 サラディンは肩をすくめ、手にした指輪に向かって何かブツブツと呟く。すると指輪が金属製の格子で出来た鳥カゴに変化する。それが何なのかよく分からないが、嫌な予感がする。

 

「サラディン、馬鹿なことは止めろ!」

「ルビー、来い!」


 鳥かごを掲げてサラディンが叫んだ。


「はっ? 何言ってんの。嫌よ!───えっ?」


 サラディンの妄言を拒絶すると、ルビーが鳥かごの中に吸い込まれた。鳥カゴの扉が閉まるのが見える。


 サラディンを除き、その場にいた一同が驚く。

 ルビーは一瞬ポカーンとした後に鳥カゴの中でジタバタしている。抜け出せそうには見えない。

 この状況どうするよ!?


「お姉ちゃんを返せ!」


 カチューシャが怒りに任せて砦の中から飛び出し、サラディンの元に向かおうとする。それを慌ててふんわりキャッチする。


「カチューシャ、落ち着いて」

「でも、お姉ちゃんが!」


 手の中でカチューシャが暴れる。こういう所、姉妹なんだなと思いつつも状況を打開する妙手が思い浮かばない。


「大人しくしてもらおうか」


 サラディンが目を据わらせながら口を開いた。

お待たせしてすみません。

執筆の仕方で迷走してました。

しっくり来るやり方が見つかったので、もうちょいサクサク書けるように精進してきます。

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