敵襲
翌日。
即席ではあるが可能な限り準備を進めた。
妖精達は精力的に準備を進めてくれた。ノーム(土の精霊)を召喚して土木工事、防備を固めたり、森中に警報機能と罠、使い魔を配置した。即席とは思えない出来栄えだ。悪くないと思う。
カチューシャのお陰もあって、散策も上手くいった。
森の中の地理を熟知できたので動き回るのに支障はない。
「あっ、敵が来た!」
そんな矢先に使い魔を使役出来る監視役の妖精が甲高い声を上げた。
周りの妖精達も反応する。その場にいる全員が手を止め声を上げた妖精に注目する。一同に緊張が走る。
「敵人数は?」
僕は監視役の妖精に確認する。
「ちょっとまって。1…2…30人位!」
「えっ、そんなにいるの!」
人数を聞いて妖精達がざわつく。
人間の感覚からすると、30人は少なくはないが決して多い数字ではない。戦争ともなれば数千人数万人の規模で戦うのだから。
妖精達からしたら大人数と感じるのは無理もない話なのかも知れない。何しろ妖精達もまた30人位しかいないのだから。里の総人口の人数が攻めてきたと言われれば動揺するなと言う方が無理な話かも知れない。
「みんな落ち着いて」
努めて冷静に、周りに聞こえるように腹から声を出した。
妖精達の視線が僕に集まる。
「人間が沢山やってきたんだよ! 早く戦わなくちゃ!」
「そうだよ、早く戦わなくちゃ」
里の中でも慌てん坊の妖精が不安げに反応し、不安が伝播したかの如く他の妖精達も同調する。
「人間達は今どこら辺にいるの?」
監視役の妖精に尋ねる。
監視役の妖精は、最初こそ驚いているが実物を見れているから比較的落ち着いている。又聞きするしかない妖精達が慌てふためいてる状態だ。
「森の外。こっちに向かってきている」
「じゃあ里に到着するまで最低でも1時間はかかるということだね」
昨日、森の中を散策して分かったことだが、まどわしの森は広くて深い。結界が張り巡らされてなくても、地力で里を見つけるのはそれなりの時間がかかるはずだ。恐らく3時間はかかるのではないだろうか。
こちらは見つかるまで大人しくしている謂れはない。徹底的に撹乱してやろうじゃないか。
「それはそうだけど、敵はやってくるってことだよね?」
妖精達、落ち着きを少し取り戻すがそれでも不安そうだ。戦いと無縁の暮らしをしていたわけだから無理もないか。
「その通り。だから戦わないといけない。───敵の様子はどんな感じ? こちらには気付いてないよね」
監視役の妖精に敵の様子を尋ねた。
「うん、気付いてないね。このまま何も考えずに森の中に入ってくるんじゃないかな」
「分かった。ありがとう」
不安がっている妖精達に向き直り説明を続ける。
「人数は僕達は同数。敵は地形に詳しくないから僕達がどこにいる分かっていない。僕達は敵の位置を正確に把握している。だから先に攻撃をしかけることが出来るし、相手の攻撃を食らう前に後退することも出来る」
「そっか、私達の方が有利なんだね。慌てなくていいんだね」
妖精達、幾分安心する。思考を巡らす余裕が出てきたようだ。
「そうだよ。予め用意した罠だって活用出来るかも知れないし」
「罠におびき寄せるんだね!」
「そうそう」
最大の罠が、妖精達による精霊魔法の一斉射撃になるわけだけど。
そこに持ってくために敵の冷静さを削ぎ落とす必要がある。
「ジャスティスの言う通りだよ。みんなで一生懸命準備を進めたんだからきっと上手くいきますわ」
モラルが援護射撃してくれた。ナイス。
当然ながらモラルも動揺していない。
元々ゴブリンとの戦いで多人数戦に慣れている。当然人間だから人間の戦い方も分かっている。傍らにモラルがいてくれることに心強さを感じる。
「モラルの言う通りだ。自分達の頑張りを信じよう。後、私達も頑張ろう。問題を全部ジャスティスに丸投げするつもりか? 我々の問題は我々で解決しよう」
ルビーも妖精達に対してハッパをかける。
「そうだよね、ジャスティスに任せきりってよくないね」
「私達の問題なんだから、私達も頑張ろう」
「頑張ろう」
「頑張ろう」
妖精達から肯定的な言葉が漏れる。
緊張や、わだかまりが解けたためか、会話が多弁になる。ワイワイガヤガヤと騒いでいる。
妖精達のやる気スイッチが入っている。動くなら今だろう。
「敵の中に一番大きな人ってどんな姿してる?」
見張り約の妖精に尋ねる。
まずは状況把握の続きからだ。人数は30人前後と分かったけど、その中に誰がいるかで戦いの厳しさが大きく変わってくる。父親とエイルはいるのか?
「頭に何か被ってる。詳細はよく分かんない」
OK、父上はいない。兜を被らないから。
父上不在なら初戦を乗り切れる確率が上がった。父上は戦いを好む傾向がある。無駄な戦いはせずに済むかも知れない。
「黒髪の女の子は?」
「いない」
ヨシッ! これはツイてるぞ。
エイルとは戦いたくなかった。妹に剣を向けるなんてしたくなかったし、そもそも剣聖である妹が弱いわけがない。いつかは戦わなければならないと覚悟しているけど、先送り出来るなら先送りしたい。
「黒い肌をした男は?」
「いる」
これは順当だろう。サラディンはいて当然だ。
昨日手合わせして実力もある程度分かっている。手加減、慢心して良い相手ではないけど、全力で戦えば僕でも五分五分の戦いが出来るのではないだろうか。
「ありがとう。助かったよ。引き続き監視を続けてみんなに状況を伝えて欲しい」
「分かった!」
僕が実家に居た頃の記憶を頼りにするなら、30人の兵力は父上の軍団の半分に相当する。領地経営もやってるわけだから割ける自由戦力を全て投入したことになる。戦好きの父上が出陣してこなかったのは解せないが 今回動員してきた人数から推察するに、父上も本気のようだ。
当初の予定通り、元々の作戦で戦うことにする。僕が敵を撹乱して敵を引き付ける。妖精達が精霊魔法で一網打尽にする。
「それじゃ行ってくるよ」
出来ることは全部やった。緊張はしているけど後は自分の役割を果たすのみ。
「気をつけてね」
「危なくなったら戻ってこいよ」
「絶対戻ってきてよね」
モラル、ルビー、カチューシャが三者三様の励ましの言葉をかけてくれた。
里の妖精達も口々に『頑張って』とか『無事を祈っている』とか声援を頂戴する。彼女達の期待に応えたい。
スマッシュ<ブースト(加速)>で高速移動を開始する。戦闘開始だ。




