作戦会議
エンジェルクッキーが功を奏し、妖精達は僕達に対して歓迎ムードになった。
ルビーと見張りの妖精から警戒心は拭えないが、態度は幾分柔らかくなったような気がする。
場の雰囲気がほぐれた所でルビーが森の外縁部で何があったか説明した。
内容としては、人間がアーティファクトを用いてまどわしの森の結界を壊したと思われる。侵入した男がカチューシャを攫おうとした。そこに僕とモラルが現れ、男を撃退しカチューシャを助けた。その後にルビーが合流した。侵入した男は僕の実家の関係者である旨も伝えてもらった。戦闘中にいらぬ誤解をさせないためだ。
「じゃあ、ジャスティスは敵なの?」
案の定、里の妖精達が戸惑い僕に疑いの目を向けてくる。
「私はジャスティスを味方だと思っている。本人が関わっていないと言っているからな。その言葉が偽りだった場合はギアス(誓約)で猫の手に変える」
「私もジャスティスは味方だと思う。うん、味方だよ! だっていい人だもん!」
妖精達が晴れ晴れとした表情で答える。
「ありがとう。信じてくれて嬉しいよ」
「カチューシャを助けたし、ルビーも認めてるし、クッキーくれたから私は信じるよ」
「じゃあ、作戦会議でいいな?」
「いいよー」
妖精達の合意を得て、ルビーが会議を開始する。
「人間達の戦力は未知数だ。我々の結界を破れるほどの強力な魔法使いがいるかも知れない。気を引き締めて戦う必要がある」
「それについてだけど、一点補足がある」
ルビーの発言に僕は声をはさんだ。
「なんだ?」
「強力な魔法使いがいる可能性はあるけど、だったらサラディン、人間が単独で現れないはずなんだ。僕が実家にいた頃は戦士中心だったから強力な魔法使いがいる可能性は低い。勿論僕が実家を離れた後に加わったのかも知れないけど」
「結局強い魔法使いはいるのか、いないのか、どっちなんだ?」
「可能性は低い。但し覚悟はした方がいいと思う」
「分かった。どの道我々は敵を撃退するだけだ」
「それでいいと思う。ちなみ敵の目的って何か分かる?」
やぶ蛇を突きそうだけど、念の為確認する。
父上の性格を考えると金のためなんじゃないかと考えている。鹿狩りの延長で考えてそう。見世物として好事家に売り払うつもりじゃないかな……。
「どうせ私達の生き血が目的だろ」
「だよねー。人間って下品だよねぇ」
ルビーの発言に妖精達が同調する。
「えっ?」
「聞いたことないのか? 我々の生き血を飲むと不老長寿になれるという話を」
「いや、聞いたことはあるけどさ。それっておとぎ話じゃないの?」
「本当の話だ。どこまで寿命が伸びるのかは我々も知らないけどな。お前も我々の生き血を欲しくなったか?」
ルビーがこちらを試すように質問してくる。
「そんなのいらないよ。君達が嫌がるようなことしてまで欲しくないよ」
欲しい人間の気持ちも分からないでもないけど、誰かに貧乏くじを引かせてまで自分が得したいとは思わない。僕はそこまで落ちぶれてないよ。
「口ではなく行動で示してもらいたいものだな」
「言われなくてもそうしますよ」
ちょっとムカッときた。
もうちょい言い方あるんじゃないかな。
そう思って口を開きかけたところでカチューシャが会話に割って入ってきた。
「姉さん! ジャスティスはそんな人じゃないもん!」
「急にどうしたんだよ」
カチューシャの剣幕に驚くルビー。
「ジャスティスは善良な人よ」
「いや、分かってるって。だからこの話はお仕舞い」
「だったらそんなこと言わないでよ」
まだ納得いかないとプンスカするカチューシャ。
「あー、二人共、僕達がいがみ合っててもしょうがないよね。信じてくれて嬉しいよ」
「私、ジャスティスのこと信じてるからね」
「僕もカチューシャのこと信じてるよ」
「会議を続けるぞ」
ムスッとした表情をするルビー。
「分かった」
「守りを固めてみんなで里を守る。それでよいな?」
「賛成。私達で里を守ろう!」
妖精達が息巻きながら同意する。
士気が高いのは良いことだと思う。
但し、作戦と呼ぶには少々ざっくりすぎやしないか?
「ルビー、具体的にどう戦うの?」
「なんだ、人の話を聞いてなかったのか?みんなで戦って人間を追い払うんだよ」
「えっ……」
シンプルすぎないか。マズイでしょ。
「お前には最前線で戦ってもらうぞ」
「それはいいけどさ、確実に勝つために、被害を減らすために作戦をもうちょっと考えようよ」
魔法の腕はどんなもんなのか分からないけど、カチューシャとルビーの身体能力を見る限りでは非力。流れ矢が当たったら死んでしまう恐れがある。戦うとしたら一網打尽。奇襲一択だろう。
「私の作戦が気に入らないのか?」
「そんなことはないよ。ルビーだって仲間が死ぬの嫌でしょ。だからより安全に勝つ方法を考えようよ」
「具体的にどうすればいいんだ?」
「防御を固めるか、奴らの注目を僕が引き付けるのがいいと思う」
「それはお前が囮になるということか?」
「そういうこと。ちょっと見てて」
スマッシュ<ブースト(加速)>を使って狼以上の俊敏さで動き回る。
手始めに前後左右。続いて上下に。
ブーストがかかっているせいで、地面から20cm程度浮いたような状態で高速移動を繰り返す。最後に木の幹を足場にして急反転。元いた位置に戻る。
「なにあれ!」
「凄い!」
「狼よりずっとはやい!!」
妖精達が驚く。
ルビーがポカンとした表情をする。
「スピードには結構自信あるつもりなんだけどどうかな。これで敵をかき回す。敵の注意を引き付けるから君達の魔法をぶつける作戦は」
「それだったら撹乱を任せるのも悪くないな」
ルビーが唸る。
「それは良かった。じゃあ君達の特技も見せてくれないかな。みんなで良い作戦を考えよう」
OK、これなら作戦の方針を見直してくれそうだ。
反対する妖精もいなさそうだし。
「分かった。じゃあ私の特技は───」
妖精達の特技紹介が終わった。
僕は驚きで驚きで黙り込む。この子達、優秀すぎるんだが。
「どうだ? 少しは役に立てそうか?」
ルビーが少し自信なさそうに尋ねてきた。
他の妖精達も期待と不安が入り混じったような感じで上目遣いで様子を窺っている。
「うん、とっても役に立つよ。君達と僕達が力を合わせれば里は守れる」
「そうだよな!」
妖精達の表情がパッと明るさを取り戻す。
またワイワイ騒ぎ出す。
妖精達のご機嫌とりで役に立つと言ったわけではない。
実際彼女達は極めて優秀だ。
役に立ちそうなスキルが何か1つでもあれば良いと思っていた。
蓋を開けてみると彼女達は役立ちそうなスキルを3つも持っていた。
妖精達が使える魔法は大きく分けて3系統あった。
精霊魔法、結界魔法、使役魔法。
精霊魔法。
これは精霊を召喚して術者の望んだ行動をさせる。
ルビーが僕にノームをけしかけたように、攻撃に用いることが出来る。
ノーム以外にもシルフ(風の精霊)、ウンディーネ(水の精霊)がサラマンダー(火の精霊)使用が使用可能。サラマンダーは森を燃やす恐れがあるため使用は忌避しているようだ。
結界魔法。
これも名前の通り結界を構築する魔法だ。
まどわしの森全体に張り巡らせていたアレだ。
結界魔法のせいで僕達は酩酊感に襲われていたようだ。
次の戦いまでに結界を貼り直すのは難しいが、結界の応用で遠くに離れていても近くにいるように話をすることが出来る。通信と呼ばれる技能らしい。これは使わない手はない。
使役魔法。
鳥や獣、或いは虫などを使い魔として使役する。
使い魔の視点からその場状況を見聞きすることが出来る。
この3つの魔法と僕のスマッシュ<ブースト(加速)>があれば、敵に対して一方的に強襲をしかけることが出来る。
こちらは使役魔法で相手の動向を把握して、それを通信で即時共有することが出来る。
勝つこと自体は決して不可能ではないはずだ。
後、その他魔法として契約魔法と呼ばれるものがあるが、今回はそれは使わないだろう。
ルビーが僕に対して用いた魔法。
精霊魔法の応用らしく、術者と対象者にパスを用いて魔力循環を可能にする。
結果、何かしらの効能をもたらすことが出来るらしい。
次の戦いに向けて作戦を考えていると風が吹き木々が揺れる。
ドングリが妖精の頭上に落ちる。
「あ痛!?」
痛みで悶絶する妖精。
モラルが駆け寄りヒールをかける。
「モラル、ありがとう!」
「どういたしまして」
モラルは妖精にニッコリ微笑む。
今回の作戦で不安があるとすれば妖精の脆さだ。
彼女達の身体は極めて脆い。
流れ矢が1発でも直撃すれば恐らく即死してしまうだろう。
どんなに優秀でも死んだらおしまいだ。
僕が敵の注意をどれだけ引き付けられるかがポイントだと思う。
「それじゃあ、使役魔法で敵の補足。結界魔法の通信で情報共有。その上で僕が陽動する」
「そして浮足立った所を精霊魔法で一網打尽にすればいいんだな」
「そういうこと」
「分かった。ジャスティスの作戦に従おう。皆もそれでいいな」
「「「いいよー」」」
各自解散となり、それぞれが準備に取り掛かる。
使役魔法で使い魔を配置したり、自在に通信を行うための準備を開始する。
「なぁ、何でそこまで私達によくしてくれるんだ?」
「最前線に立つのが冒険者の役割だからね。多少の危険はいつものことさ」
「怖くないのか?死ぬかもしれないんだぞ」
「その時はその時だよ。ちなみに、無駄死するつもりはないから、撹乱が厳しい場合は後退するからね」
「無理だと思ったら下がるんだぞ。絶対だぞ! 後、それとな」
「何?」
ちょっと気まずそうな表情をした後に神妙な表情をするルビー。
それにつられて僕も神妙な表情をする。
「我々が里のために命を懸けるのは当然だが、どうしてお前とモラルは私達のために命を懸けられるんだ?」
「最初に話した通りだよ。君達に協力するのは水銀のためだよ。それと今回は実家が迷惑かけてるんだから僕が尻拭いするのは当然でしょ。乗りかかった船だから最後まで付き合うさ」
「分かった。私もお前のことを信じるぞ」
「信じてくれて嬉しいよ。あと、これってなに?」
改めてルビーに信用してもらった後、ルビー達に教えてもらって地面に描いた地図を指差す。
「神様の安息所だよ」
「神様の安息所?」
ルビー、一拍間が空いた。逡巡してから答えた。
「時折あそこに神様が立ち寄るんだ」
「えっ、神様がいるの?」
「我々の守護神がな」
どんな存在なのかは興味がある。
人間が信奉する神様みたいに人型をしてるだろうか。妖精の神様だから妖精の姿してるのかな。
「神様の力は借りられないのですか? 守護神を名乗るなら助けてくれて良いように思うのですが」
モラルが、言葉に選びながらルビーに質問する。
「守護神は今はご不在だ。我々で何とかしなければならない。この話はこれで終わりだ」
「分かりました」
言葉とは裏腹にモラルは納得いっていない表情をしている。
「後、安息所の周りで戦いもNGだからな。絶対だぞ!」
「分かった」
ルビーに返事をしつつ、作戦を少し切り替えることとした。
出来れば、いざという時の撤退先として安息所を抑えておきたかった。但し、駄目なら諦めるしかない。
いざという時は別の場所に撤退しよう。
取り急ぎルビーとの確認したいことは確認できた。
そろそろ僕も戦いの準備をしよう。
「それじゃ周囲を散策してくるね」
「ああ、気をつけてな」
サラディン達を迎え撃つために撹乱するわけだが、役割を全うするために周囲の地形を頭に入れる必要がある。縦横無尽に駆け回るために必要な準備だ。
「それじゃカチューシャ、よろしく頼むよ」
「うん、任せて!」
カチューシャが嬉しそうに力強い返事をした。
カチューシャに案内を頼んだ理由は、まどわしの森周辺の地理に詳しいこと。更にカチューシャの手が空いていたためだ。
作戦会議中は気落ちしている様子だったが、一転して明るくなっている。
里が大変な時に自分にも役割が与えられて嬉しいのかも知れない。先程の特技確認で分かったことだが、カチューシャは魔法を無効化する魔法、破邪の光しか使えないようだ。ルビーに抱きついてピカピカしたあれだ。
効能自体は極めて強力だと思うが妖精達は魔法主体の構成だから、カチューシャ破邪の光と相性が悪い。妖精達は魔法無効化の使い所を見つけられずにいる。
みんなが当たり前に出来ることがカチューシャは出来ない。そのことを気にしているようだ。
そんなカチューシャの姿が妹のエイルと重なる。
エイルも中々剣術が上達しないことを気にしていた。
僕も父上から追放された時は似たような心境だったと思う。
ちなみにカチューシャの破邪の光は、使い所が難しいだけで使えない魔法とは僕は考えていない。有効活用する方法が見つかれば大活躍するのではないだろうか。
「ねぇ、カチューシャ」
「どうしたの?」
「破邪の光についてなんだけどさ」
「なに?」
カチューシャの表情が露骨に強ばる。
「僕はカチューシャの破邪の光に期待している」
「えっ、どうして?」
「敵が魔法を使ってきたら破邪の光をぶつけて欲しい。敵の魔法を無効化して欲しいんだ。僕はいざという時にカチューシャは活躍すると思う」
「その時は私に任せて!」
カチューシャが物凄く嬉しそうにしている。
気を取り戻してくれたなら何よりだ。
今は閉塞感がつきまとっているかも知れないけど、きっかけがあればカチューシャは変われると思う。
自分のスキルと向き合う機会があれば良いけど。カチューシャの助けになれることがあったら協力したいと思う。あっ、でも魔法使いがいる方が戦いが厳しくなるからいない方が守る側として嬉しい。
課題は山積みだけど、大体は方針は決まったと思う。妖精、彼女達に関する問題についてだけど。
一つ、どうしても解決出来ない問題がある。
僕自身についての問題だ。
次の襲撃でエイル(妹)がいたらどうしよう。
僕はエイルと戦うことが出来るだろうか?
問題の発端であろう父上と戦う覚悟はとっくに出来てる。
しかし、エイルと戦う覚悟が出来ない。どうしても脳裏でエイルの笑顔をよぎってしまう。
どうしても戦わなければならない場合は、生かして倒したい。
剣聖であるエイルを生かして倒すことが出来るか不安だ。そもそも僕がエイルに勝てるのか?
この問題は実際に戦ってみないと判断出来ない。
そもそも推論に推論を重ねているようなものだ。今考えても仕方がないので不安を無理矢理の心の奥底にしまい込む。目の前の問題を、陽動を頑張ろう。
思ったより更新頻度が空いてしまってすみません。
必ず完結はさせますので長い目を見てお付き合いいただけると幸いです。
なるべく頻度で更新出来るように精進します。




