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妖精の里

 ギアス(誓約)を了承した後に、差し出した右手の甲にチクリとした痛みが走る。そして熱湯のように熱いものが流れ込んでくる。ヤキゴテでもされたのか? 意外な感覚に思わず声を上げた。


「うわっ!?」


 慌てて自身の右手を確認する。

 右手の甲に白百合の花弁を象った白色の紋章が描かれていた。ギアスの影響だよな。


「ギアスは成立した」


 ルビーが僕に向かって告げる。


「私の魔力パスをお前に通した。これで約束を破ったらお前の両手を猫の手に変えるからな。約束は守れよ」

「約束は守るから安心してくれ」


 引き返すことが出来なくなったことを再認識しつつ、ルビーに返事をする。望む所だ。


◇ ◇ ◇ ◇


ルビーに案内され、妖精の里に到着した。

里と言う割には建物が見当たらないんだが……。


「ルビー! カチューシャ! その二人は誰だ」


 見張りとおぼしき妖精がこちらに近づいてくる。不審と戸惑いが半々といった表情をしている。 


「安心しろ。こいつらは敵じゃない。みんなに説明したいから広場に集まってくれ」

「私を助けてくれたの。だから通して、お願い」

「分かった」


 見張りに引率される形で更に奥に進むと、泉に到着した。


「ここだ」


 ルビーが到着を告げる。

 周囲の木々に目を向けると樹上の上に妖精サイズの草木で出来た建物がある。

 彼女達は空を飛べるわけだから地面に建てるよりも樹上の方が何かと便利なんだろう。そんな風に感心していると住居から妖精達が顔を出す。バッチリ目線が合った。


「あっ、人間だ!」

「こんにちわ」


 とりあえず挨拶してみた。

 樹上の妖精は警戒している。

 叫んだ妖精の声が聞こえたのか次々と妖精が建物から顔出して様子を窺ってきた。

 そして妖精どうしで何で人間がいるんだと騒ぎ出した。


「みんな降りてきてくれ。この人間はカチューシャを助けてくれた。危険ではない。外であった出来事を説明するから」

「私は平気だよ。みんな降りてきて」


 ルビーとカチューシャが樹上の妖精達に声をかけた。


「ん、分かった」


 納得はしてない様子だが、恐る恐る妖精達が降りてくる。

 合計で30名位だろうか。こんな沢山の妖精がいると場が華やぐ感じがする。


「それで、外はどうだったの?」


 樹上にいた妖精がルビーに尋ねた。

 当然ながら、妖精全員が知りたいことだったので視線がルビーに集中する。


「人間によって結界を壊された」

「えーっ!?」


 ルビーの一言で妖精達が蜂の巣を突ついたようにざわつく。


「じゃあ、ひょっとしてこの人間たちが!」


 妖精達の疑惑の視線が僕とモラルに集まる。


「違います。僕達はやっていません!」

「どうしよ、私達食べられちゃうよ!」


 早合点した妖精達が更に騒ぎ出す。疑惑は恐怖、敵意へと変化する。

 ルビーが説明を続ける。


「だから、この二人は良い人間だ。結界は壊していないし、カチューシャを助けてくれた」

「だからって連れてくる必要はなかったんじゃないですか?」


 恨みがましくルビーに反論する。

 そうだ、そうだと他の妖精達も同意を示す。


「他の人間が犯した罪をこの二人は罪滅ぼししたいそうだ。だから、我々ハイフェアリーに協力を申し出た」

「そのまま信じて連れてきたんですか?」

「信じてはいない。だから保険はかけた」


 チラリとルビーがこちらに目配せする。

 ルビーに対して頷き、手の甲を妖精達に対して向ける。


「ギアスを結んだ。約束を破ったら私が責任を持って処罰する」

「えっーーー!?」


 妖精達が口々に驚きの声を上げる。ちょっと黄色い声も混ざっている。


「ふーん、そういう仲なんだ。だったらまぁ里の中に入れて上げてもいいよね」

「ねー」


 妖精達が合点いった様子でニヤニヤしながらルビーを見ている。

 ルビーの顔がちょっと赤い。


「えーと、ルビー」

「なに」

「僕が約束破ったら猫の手にされちゃうんだよね?」

「そうよ。だから私の言うことをしっかり聞きなさい!」

「あっ、ハイ」


 ルビーの剣幕に気圧されて僕は黙り込んだ。別に猫の手の話が嘘でも本当でもどっちでもいいんだけどさ。ルビーを裏切るつもりもないし、最後まで付き合うわけだから。

 チラリとカチューシャの顔色を伺うと、何とも言えないような表情をしている。恨めしそうにルビーと僕を見ていた。


「危険でないのは分かったけど、その人間は役に立つんですか?」


 里の妖精がルビーに尋ねる。


「私のノームが一撃のもとにやられたんだ。役に立つと思わないか?」

「えっ、本当ですか!?


 妖精達がざわつく。『嘘!?』とか『ノームを一撃だなんて信じられない!』とか口々に言い合い、チラチラと僕に視線を向けてくる。見る目がちょっと変わった感じする。


「だったらその人間を連れてきたことに異存はないよ。族長の指示に従うよ」

「じゃあ、作戦会議をする」

「ちょっと待って」


 ルビーと妖精の会話に僕は割って入る。


「何か不満あんの?」

「突然のことだから、みんな驚いてるでしょ。自己紹介していいかな」


 こういう機会に自己紹介ってちゃんとやった方がいいと思うんだ。相手のことを知るまたとない機会だし。仲良くなれる時に仲良くなっておきたい。


「ああ、そうか。分かった」


 里の妖精達に向き直り挨拶する。


「僕はジャスティス。彼女はモラルです」

「こんにちは」


 モラルが挨拶とペコリと妖精に向かってお辞儀する。


 妖精達の視線が僕達に集まる。


「まずは親睦を深めましょう。一緒にクッキーを食べませんか?」


 道中でモラルにお願いして、クッキーを分けてもらった。モラル曰く、みんなで食べる方が美味しいとのこと。ありがたい限りである。クエストが完了したら埋め合わせしないとな。


「クッキーって何?」

「なんだろうね?」


 袋を開けると甘い匂いに釣られて妖精達が近づいてくる。興味津々だ。

 険しい表情をしているルビーもクッキーに釘付けになっていた。


「美味しいお菓子さ。みんなで食べよう」

 

 妖精達が食べやすいようにクッキーを割る。


「まずは私が毒見しよう。なんたって里の代表だからな」


 ルビーが仰々しい態度で試食もとい毒見を申し出る。


「どうぞ。納得ゆくまで毒見して」


 ルビーは僕とクッキーを何回見比べた後にクッキーを食べるとピシリと硬直し、目を大きく見開く。


「なにこれ、うまっ!?」

「でしょ」

「に、人間にしてはまあまあだな!」


 他の妖精達が我慢出来ないと言った具合でルビーに確認する。


「ねぇ、もう食べていいよね?」

「いいぞ」

「友好の印です。召し上がってください」


 クッキーに殺到する妖精達。

 次々と歓声が沸き上がる。『美味しい!』とか『幸せぇ!』とか喜びで沸き返っていた。気に入ってもらえて何よりだ。

 追加でクッキーを取り出してモラルとカチューシャにも渡した。カチューシャの分は、自分が食べる用を少し砕いて渡した。


「モラル、協力してくれてありがとう。お陰で上手くいったよ」

「当然のことだから気にしないで。上手くいって良かったわ」

「うん」


 モラルも満足げな顔をしている。自分のワガママに付き合ってくれてありがたい限りだ。後で埋め合わせしよう。

 カチューシャを視線を向ける。カチューシャも幸せそうにクッキーを頬張っていた。


「カチューシャ、美味しい?」

「美味しい!」


 満面の笑みを浮かべている。

 その後にハッと我に返った顔をする。


「私達のためにありがとう」

「どういたしまして。僕がやりたくてやってることだから気にしないで」

「私もジャスティスのために頑張るからね!」

「うん、ありがとう」


 いい感じに妖精達と打ち解けたと思う。

 それでは実家の襲撃に備えて作戦会議をしようではないか。

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