ギアス(誓約)
「お前達が里を侵略する気がないということは分かった。それで目的はなんなんだ?」
軽く自己紹介を済ますと、カチューシャの姉、ルビーが本題に切り込んできた。
停戦には応じたがルビーの不信感はまだ拭い去れていない。
まず不信感を払拭するのが先決のようだ。
「僕達は水銀を採りにきた。そしたら悲鳴が聞こえたから声の先に向かったらカチューシャがいた。
人間の男がカチューシャに危害を加えようとしていたから介入したんだ。その後にルビーが登場したわけだ」
「カチューシャ、この男の言うことは本当か?」
「うん、ジャスティスは嘘をついてないよ。もうちょっと二人のことを信じたら?」
ルビーを非難するようにカチューシャは答えた。
「信じる、信じないは二人の話を聞いてからだ。ノームを一太刀のもとに倒してしまう危険人物を確認もせずに里へ入れられるか」
ルビーはぶっきらぼうに答える。
「昔、私が迷子になったことあったでしょ。あの時に助けてくれたのがジャスティスだよ」
「ほんとか?」
「だから信用してよ」
ルビー思案して口を開く。
「妹を助けてくれて感謝する。水銀が欲しいという話だったな。妹を助けてくれた礼だ。好きなだけもってくゆくがいい」
「有り難い。感謝します」
早々にクエスト達成の予感。有り難い話だ。
「その代わり、カチューシャを襲った男について何か知らないか?』
ルビーの何気ない質問にモラルとカチューシャが露骨に反応する。
二人はチラチラとこちらを盗み見るように様子を窺っている。
うん、この質問は覚悟してたんだ。
「おい、どうなんだ?」
二人の態度が露骨に変わったことにルビーも気付く。眉をひそめる。
僕に回答を要求してきた。
「襲ってきた男は僕の実家で勤めている使用人だ」
「じゃあ、お前もグルか!」
ルビーの目尻が上がり表情が険しくなる。
「違う。僕は関与していない。勘当されたんだ。目的はわからないけど実家が君達に迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思う」
「口では何とでも言えるな」
「だから血縁者である僕が責任をとりたいと思う」
「どうやってさ?」
「もう一度実家の者達が来るはずだ。防衛に協力する」
ルビーは腕組みして僕の話を吟味する。そして口を開く。
「お前がグルでないとどうやって証明するつもりだ? もう一度言うが信用出来ない人物を里に迎え入れることはできんぞ」
「戦士の名誉にかけて、誓って嘘は言っていない」
「その言葉に二言はないか?」
「ない」
「だったら、ギアス(誓約)を受ける覚悟があるか?」
「お姉ちゃん! それはひどくないか」
カチューシャがルビーを非難するように会話に割り込む。
「それ以外にどうやって里を守るんだ? どのみち、ノームを一太刀で倒せるような剣士を野放しに出来ないわ」
「えっと、ギアスって何?」
名前から推察するに何かしらの契約、拘束魔法だろうか?
険しい表情でルビーが答える。
「我々、妖精が得意とする契約魔法だ。対象が約束を破るとペナルティを課す魔法だな。私は妖精に味方するという約束を破ったらお前の両手を猫の手に変化させるギアスかける。受ける覚悟はあるか? 二度とその剣を振るうことが出来なくなるぞ」
「ジャスティス、そんな約束受ける必要なんてないよ」
モラルが怒った口調で会話に割って入ってきた。
「私達のことを信じれないなら結構。こっちは善意で協力を申し出ているのよ。何でそこまでしなくちゃいけないのよ。水銀採取してこのまま帰ってもいいのよ」
「ふん、そうしたければそうすればいい。これだから人間達は野蛮だから嫌なんだ。私達の住処を勝手に荒らし回るんだからな。私らからしてみればお前達もカチューシャを襲った野蛮人も大差なんてない!」
「そんなの知らないわよ!」
モラルとルビーの意見が衝突し平行線を迎えた。
カチューシャどうすれば良いのか分からずオロオロしている。
どちらの言い分にも一理あると思う。そして僕がどうしたいかと言えば……。
「分かった。ギアスを受け入れよう」
「ジャスティス!」
納得ゆかないという表情でモラルが声を上げる。
「モラルの言いたいことも分かるよ。でもさ、やっぱり実家の尻拭いは僕がしたいんだ。家族のせいでカチューシャの住処が荒らされるのはやっぱり納得いかないよ」
「もうっ、そんなこと言われたら駄目って言えないじゃん。好きにしていいよ」
「モラル、ありがとう」
「……本当にいいんだな?」
ルビーが念押しをする。
「勿論。人間種族を見直してもらえるように頑張るよ。期待してくれ」
手の甲を差し出すとルビーがゴニョゴニョと呪文詠唱する。
僕の甲にギアスが刻まれた。




