誤解
真っ赤な短髪の上にティアラを載せた赤い目をした妖精が厳しい目でこちらを見る。意志力が強そう。カチューシャと同じ白のレース生地を纏っている。
妖精の盾となるようにノームが地面から生えている。
上半身しかないが大きさにすると3m程。当然僕より大きく、全身を確認するためには見上げることとなる。
巨大な岩にゴツゴツした腕がついている。いかつい表情。どうみても友好的には見えない。
「お姉ちゃん、落ち着いて! ジャスティスとモラルお姉ちゃんは私を助けてくれたの。この人は敵じゃないよ」
カチューシャが前に出て、目の前の妖精に説得を試みる。姉妹なのかな?
とりあえず戦闘は避けられそうだ。よかった……。
「カチューシャの言う通りだ。僕達に争う意思はない」
目の前は妖精は汚いものを見るように言い捨てる。
「結界を壊すに飽き足らず妹に魅了の魔法をかけるなんて、なんて卑怯なやつらだ。私が成敗してやる。いけ、ノーム!」
「魅了なんてかかってないから!」
妖精の声に呼応してノームは地面を這うようにヌルヌルと移動する。その巨体に見合わず速い。
「カチューシャ、後ろに下がって。あれを何とかしないと話し合いにならない」
「ジャスティスお願い。ルビー姉さんは怪我させないで」
「分かってる!」
カチューシャが後ろに下がる。
剣を抜き、迫りくるノームに向かって切っ先を向ける。
ノームが僕に向かって拳を振り下ろす。
拳は一抱えほどあり、岩が降ってくると言って差し支えない。早々に剣で受け流すことを諦める。横っ飛びで攻撃を回避する。遅れて轟音と土煙が舞う。元いた場所に30cm程度の穴が空く。
モンスター図鑑の紹介では打撃攻撃が極めて強いと記述されていたが、ここまで強力とは思ってなかった。
サラマンダーのように火を吹くことはなさそうだが、その拳が当たったらタダでは済まないだろう。
「スマッシュ<クイック(刺突)>!」
ノームが殴りかかってきたのに合わせてカウンターで攻撃を加える。
ノームの腕に剣撃の痕が残るが、有効打を与えられた様子はない。効果は今ひとつのようだ。
「ふん、万策つきたようね。ノーム、そのまま生け捕りになさい」
ルビーの命令に従い、ノームの攻撃パターンが変わる。
僕を捕まえようとするが手は空をきる。
雲散霧消以外で倒せる手段があるならそれに越したことはなかったが模索している時間は無さそうだ。カチューシャとモラルに被害が出る前に決着をつける。
ノームが僕を捕まえようと大振りになったタイミングで懐に一気に潜り込む。
「スマッシュ<ディスペル(雲散霧消)>!」
パリーンというガラスが砕けるような音がするとノームはブルブルと震えだす。
そしてガラガラと崩れ岩石の塊になる。
自信に満ちあふれていたルビーが驚愕の色に染まる。
「えっ、嘘!?」
「こちらは君と争うつもりはない。まず話し合おう」
「そ、そんなの嘘でしょ。私は私は絶対に騙されないからな!」
妖精はぶつぶつと呪文詠唱を始める。
精霊の輪郭がうっすらと生じる。あれはシルフだろうか?
気は進まないけど彼女を無力化するしかない。こちらだってむざむざやられるわけにはいかないから。
「お姉ちゃん!」
妖精を捕縛することを決心したところで、カチューシャは妖精に向かって突っ込んでいった。
そして妖精に抱きつき羽交い締めにする。
「カチューシャ!? ちょっ、おまっ」
妖精はジタバタと暴れるがカチューシャに押さえつけられたまま。
カチューシャの全身が発光すると妖精の呪文詠唱がかき消され出現しつつあった精霊が霧散する。
「少しはこちらの話を聞いて」
「外敵がやってきたんだぞ。戦わなくてどうする」
「ジャスティスが戦う気ならお姉ちゃんなんてとっくにやられてるよ!」
「そ、そんなことないぞ」
二人が言い争っている間に剣を収めて三度交渉する。
「僕達は君達のテリトリーを荒らすつもりはない。まずは話し合いをしないか?」
妖精はカチューシャと僕の顔を交互に見比べる。
「分かった。お前の言うことを信じる」
半ば諦めるような表情で交渉の席についた。




