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2章エピローグ

 ワルガスを捕縛してから2日経過。

 現在の場所はレオン邸、応接室。

 僕とモラル、レオンさんとマリアがいた。


「君達には本当に世話になった」

「いえいえ、レオン子爵もお疲れ様です」

「みんなで力を合わせて悪が一つ滅びましたね!」


 モラルが嬉しそうにドヤ顔をする。

 そう悪が一つ滅びたのだ。


 ワルガスはレオンさんに捕縛され、神殿騎士団で尋問が行われた。それから1時間も経たないうちにワルガスは自供を始めたらしい。どのようなやりとりがあったのかは聞かされていない。

 その結果出てきた情報は暴漢達と、麻薬取引の供給元だ。


 まず、見つからなかった暴漢達について。

 やつらは、ワルガスが暴漢達にあてがった中流街の建物で待機していた。

 どうりでボブ達、自警団が貧民街を血眼になって探したが見つからなかったわけだ。いないものは探しようがない。

 暴漢については、レオンさんがボブに情報提供を行い、自警団主導で捕まえることになった。結果、彼らが固執していた対外的なメンツは保たれたわけだ。

 その間にレオンさんを始めとする神殿騎士団は麻薬の提供元にガサ入れを決行。構成員を検挙出来たとのことだ。

 そして現在に至ったわけである。


「ああ、君達のお陰だ。まさかここまで成果をあげられるとは思ってなかったよ」

「お役に立てて良かったです。これで万事解決ですか?」

「と、言いたい所だが課題が山積みだ」


 レオンさんが困ったような笑みを浮かべている。実際困ってるようだが。


「どのような問題ですか?」

「私達でお役に立てることなら、また協力しますから」


 僕とモラルはレオンさんに事情を伺った。

 深刻な話でなければ良いけど、何でレオンさんは困っているのだろうか。


「捜査を進めてみたら思っていた以上に、教会や冒険者ギルド、いわゆる公的組織に属していながら不正に手を染めていた者が多かった。民の心が王国から離れないか心配している」

「懸念されるのももっともです。どのような対策をされるつもりですか?」

「本件をしっかりと調査を行って組織の膿出しを行うこと。その上で民を労る。地道に信頼を取り戻すしかないだろうな」

「……大変なことだと思いますが頑張ってください。レオン子爵の思いがきっと民にも伝わることでしょう」

「女神様はレオン子爵のことを見ておられます。自分の行いに自信を持ってください」


 レオンさんはワルガスと大違いだ。民のためにここまで心を砕いているのだから、モラルの話じゃないけど、女神様はレオンさんを祝福してくれてもいいと思う。心の中で祈っておく。

 そうしていたら、深刻な顔をしていると思われたのか、レオンさんから逆に労りの言葉を頂戴してしまった。


「今回の不正は暴かなければならぬ不正だった。臭いものに蓋をしたがる輩は多いが私はそうは思わない。君達の力がなければこうも順調に膿出しすることは出来なかっただろう。感謝する」

「人として当たり前のことをしただけです」

「その通りです。女神様の御心に従っただけです」


 僕達の反応を確かめた上でレオンさんが一呼吸置いて提案してきた。


「そこでなんだが、君達、神殿騎士団に加入してみないか?」

「「「えっ!?」」」


 レオンさんの提案に全員が驚いた。僕も驚いている。だってその提案は想定外だもの。

 レオンさんの爆弾発言に一番最初に食いついたのはマリアだった。


「お父様、大賛成です! ジャスティスさん、モラルお姉ちゃん、神殿騎士団に加入しましょう!」

「先程説明した通り、組織から悪を一掃する必要がある。そのために君達の力を貸してくれないか?」


 マリアちゃんは、満面の笑みで目をキラキラさせている。

 レオンさんも穏やかな笑みを浮かべている。何を考えているのかちょっと読めない。

 多分、二人から歓迎されているんだと思う。非常に魅力的な提案ではあるのだが素直に首を縦に振る気になれない。

 モラルの反応も確認している。やっぱりモラルも何とも言えない表情をしている。そんなモラルと目が合い、モラルが僕に尋ねてきた。


「ジャスティス、どうする?」

「んー、そうだな……」


 レオンさんの提案は非常に魅力的でございますよ。ええ。

 レオンさんはある意味で理想の上司だ。頭がキレて、強い。そして己を律する強い心を持ち合わせている。レオンさんのような立派な大人になりたいと、心の底からそう思っているよ。

 そんでもって神殿騎士団という組織にも魅力を感じている。だって正義のために剣を振るえるのだから。理不尽な暴力を打ち払うことが出来る。誰にだって幸せになる権利があると思う。

 

 だから、だからこそ、自分たちの身の上がフリーであれば、即答でYESと答えていたことだろう。

 僕達は既に冒険都市シヘンで冒険者をやっている。受付嬢のエレーヌさんには良くしてもらっている。それにヤグ少年のように近隣の人達も僕のことを頼りにしてくれている。そこを無視しておいそれとイエスと言うだろうか?


「お誘いいただいたことは光栄です。しかし今回は辞退させてください」

「えっ、どうして!?」

「理由を聞かせてくれないかね? 自分で言うのも何だが、神殿騎士団に入団するための競争倍率はそれなりに高い。人気はそこそこあるんだがね」


 先日のワルガスの食いつきを考えると、レオンさんの言う通りだろう。それでもだ。というやつだ。


「はい。こう言ってはなんですが、今回は、配達先で事件に巻き込まれただけです。僕は冒険都市シヘンの冒険者です。他の組織に移籍するにしても、向こうの冒険者ギルドに筋を通してからでないと難しいです」

「では、筋を通せば君達は仲間になってくれるのかね?」

「残念ながら今のタイミングでは神殿騎士団に加入出来ません。レオン子爵の王都での活動は大変素晴らしいものだと思ってます。それと同じ位、シヘン(地方)で活動することもまた重要なことだと思っています。僕は僕の周りの人達を守りたいと思います」


 不思議と自然に出てきた言葉だった。

 王都で有能な上司のもとで花形の仕事をやってる方が良いというのは分かっちゃいるけど、地元で出来た関係性を切り捨ててまで王都に行きたいとはどうにも思えなかった。どうしても受付嬢のエレーヌさんに不義理な真似をしたくないなと思ったわけだ。


「……そうか、残念だな。いやぁ、人材はひっきりなしに来るのに、本当に欲しい人材に限って毎回フラれるんだ。困ったもんだよ」

「すみません」

「君は君の進みたい道を進むといい。それに先にツバを付けたのはエレーヌ嬢だから、それを横取りしたら、私もエレーヌ嬢に怒られるしな。彼女の逆鱗に触れるのが恐ろしいよ」

「ハハっ、それもそうですね。僕もエレーヌさんには頭が上がりません」


 温かいまなざしでレオンさんが僕を見つめる。

 じんわりと温かいものが胸中で広がる。ほんとレオンさん、いい人だな……。


「マリアちゃん、ごめんね。神殿騎士団に入団することは出来ないけど、二人が困った時には駆け付けるから」

「絶対ですよ!」

「勿論。約束するよ」

「またいっぱいお喋りしようね」

「はい、モラルお姉様もお元気で」


 事件後にモラルはマリアと一緒に過ごす頻度が増えた。同じ教会つながりもあってか、いつの間にか姉妹のように仲良くなっていた。自宅にいるマリアにとっては良いガス抜きになったのではないだろうか。モラルもモラルで、突然出来た妹を可愛がっていた。


「お二人とも、また王都に立ち寄ったら顔を出してくださいね」

「勿論。私も可愛い妹と会いたいわ」

「僕達がいるシヘンは王都の隣り街だから、王都に赴く機会はまたあるよ。その時に必ず立ち寄らせてもらうさ」

「絶対に、絶対にですからね!」


 マリアが嬉しそうに笑っている。その顔を曇らせたくないし、約束を守りたいと思う。僕もマリアにもレオンさんにも会いたいし。

 後、モラルとマリアの見ていてエイル(腹違いの妹)を思い出した。あの子も元気にしてるだろうか。実家について未練があるとすればあの子の境遇についてだ。ちゃんとご飯食べてるだろうか。健やかに過ごせているだろうか。

 そんなことをぼんやりと考えていたら、レオンさんから声をかけられた。


「私も君達が遊びに来ることを楽しみにしているよ。我が家と思って遊びに来て欲しい」

「ありがとうございます」

「嬉しいですわ」


「せめてものお礼だ。これを受け取って欲しい」


 レオンさんから羊皮紙を手渡された。

 配達依頼をくれたってわけではないよな……。


「これは……?」

「私の推薦状だ。これを各都市にある神殿騎士団の支部にもってゆけば無碍には扱われないだろう。君達が必要と思ったタイミングで我々の力が必要になったら遠慮なく頼ってほしい。可能な限り、君達に便宜を図るように書いておいた」

「ありがとうございます。ご推薦いただいたレオン子爵の名に恥じないように精進します」


 これはあれだ。レオン子爵は先程のスカウトを断られたことも考えて、この紹介状を用意してくれたことになる。身が引き締まる思いだ。どうやら過分な期待をかけていただいているようだ。


「うむ。ジャスティス君、期待しているよ。後もう一つ。個人的な要望はないかね?」

「要望ですか?」

「ああ、さっきの紹介状は私の期待だ。君達から何かお願いごとを聞きたいと思ってね」

「でしたら是非お願いしたいものがあります」


 渡りに船だ。レオンさんに是非お願いしたいものがある。

 チラリとモラルに視線を送ると、モラルは僕に向かってコクリと頷く。

 事前にモラルと話をしていたことである。


「ほう、なんだね。君達が積極的におねだりするなんて珍しいな」

「マリアちゃんが貧民街で行う奉仕活動の頻度増やせませんか?」

「えぇっ!?」


 レオンさんが口を開くよりも先にマリアが仰天していた。まぁ話してないからな。


「そのお願いをすることで、君達にどんなメリットがあるんだい?」


 レオン子爵は面白そうに僕達を試すように僕達に尋ねてきた。


「はっきり言って僕達の自己満足、納得のためです。一連の不祥事で教会のイメージアップが必要なんですよね?

 そのために奉仕活動する機会が増えるんですよね? だったら、そのイメージアップのためにマリアちゃんに活躍してもらってほしいです」


 ワルガスの事件が解決する前と後で状況が変わっている。

 解決する前はマリアちゃんを襲う暴漢がいて、民のために奉仕活動をする必要性がなかった。今は暴漢がいなくなり、民のために奉仕活動を行う必要が生じている。マリアとレオン子爵のある種の利害が合致している状態だ。双方のニーズが合致しているならやらない理由はないはずだ。

 後、個人的な意見を言わせてもらうならマリアのやりたいことが良いこと信じている。だから僕達はマリアを応援したいと思っている。


「レオン子爵、どうかお願いします」


 モラルもレオンさんへプッシュ。

 すると暫くしてレオンさんが折れた。


「君達にそこまで言われたら断れんな。分かった検討しよう」

「えっ、嘘!? やったぁ!!」


 マリアが驚き、飛びあがる。信じられないといった感じで。


「ちゃんとレオン子爵の言うことも聞きなよ」

「女神様はあなたの行いを見ています。正しい行いを続けようね」

「二人にちゃんと感謝するんだぞ。やる以上は役目をちゃんと果たしなさい」

「みんなありがとう! 私頑張るよ!!」


 マリアが安請け合いのバーゲンセールをしている。

 これから大変だと思うが、まぁ大丈夫だろう。マリアとレオン子爵の今後に幸があることを祈っておく。

 こうして、配達を無事に果たすことが出来た。

お陰様で区切りよい所まで終わりました。

後はもう1章分やってこうと思います。

暫くストーリーライン練ってきます。

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