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ワルガス

 暫くしてゲオルグ司祭と中肉中背の20代の男が入ってきた。

 あっ、コイツだ! 胸中で僕は叫び声を上げた。

 男の背丈、体格、髪型、髪の長さ、全てが水晶に映っていた男と合致している。


 向こうも向こうで何やら酷く驚いている。

 この男が犯人だからか、それとも夜分にレオンさんみたいな地位のある方が訪れてきたからか驚いた理由は分からなかった。


 ゲオルグ司祭が僕達の反応は気にせずに、場をとりなすように男の紹介を始めた。


「レオン子爵、あなたがスカウトしたいと言っていたワルガス君です」

「やあ、こんばんわ。夜分にすまないね。私は神殿騎士のレオン・ゾルディアックだ」

「えっ、この方は……」


 目の前の現実に対応しきれていないのか、ワルガスは口をパクパクさせている。

 そんなワルガスに対してゲオルグ司祭は眉をひそめながら言った。


「私は中央が君に興味があると言ったはずだが。子爵と親睦を深めることで、ワルガス君にとっても得られるものも多いはずだ。折角の機会だ、遠慮せずにじっくりと談笑するがいい」


 ゲオルグ司祭はニッコリと笑う。ワルガスは心なしか青ざめている。


「名前を教えてくれないか?」


 レオンさんが男に尋ねる。

 男はハッとしたように応えた。


「こ、これは失礼しました。ワルガスと申します」

「ワルガス君、そう固くならなくていいんだよ。今日は非公式、オフレコなんだ。無礼講といこうじゃないか」

「は、はぁ」


 半信半疑といった具合で、ワルガス生返事をしている。

 僕の目の前で、どこかで見聞きしたやりとりが繰り広げられている。無礼講っていう言葉ほど信じられないものってないよな。


「ここを訪れる度に思っていたんだが、君の気配りはよく行き届いている。そのきめ細やかさ、君の辣腕を神殿騎士団で振るってくれないか」

「えっ……、本当に私をスカウトしにきたんですか?」

「それ以外に何の要件で来たと思ったのかね。さっきから何度も言ってるではないか」

「その少年、少女は?」

「最近スカウトした逸材だよ。仕事を覚えてもらうために引き連れている」

「ジャスティスです」

「モラルです」


 ペコリと軽く会釈する僕とモラル。

 ここまでは想定通りだ。事前にワルガスをスカウトにきた体裁で話を進めると聞いている。後はワルガスがどう反応するかだが。───困惑から一転して目を輝かせている。僕達への挨拶はおざなりに、レオンさんへの売り込みを始めた。


「レオン子爵に声をかけていただけるなんて、光栄でございます。末代までの誉れです。このワルガス、レオン子爵に忠誠を尽くすことを宣言いたします!」

「ハハハッ、ワルガス君は随分やる気なんだね」

「子爵にお声がけいただけたなら、誰だってそうなりますよ」


 レオンさんとワルガスのやりとりを、ゲオルグ司祭が苦笑しながら眺めていた。


「ワルガス君もその気になってくれて良かったよ。それでは有意義に過ごすといい。私はこれで退散させてもらうよ」

「ゲオルグ司祭、ありがとうございました!」


 ゲオルグ司祭が倉庫から退出した。

 レオン子爵に勧められるまま、ワルガスが木箱に座った。

 レオン子爵はニコニコと人の好さそうな笑みを浮かべている。

 そんなレオン子爵の様子に対して焦れたようにワルガスが尋ねた。


「あの誉れ高い神殿騎士団に入団出来るなんて夢を見ているようです」

「君にそう思われるとは我が団も鼻が高いな」

「内々にいらっしゃったということは何かあるということですよね。今回はどういった要件でいらっしゃったのですか?」


 ワルガスがレオン子爵にグイグイと踏み込んでゆく。その踏み込み方はちょっと一方的な感じする。

 対してレオンさんは悠然とワルガスに対して謎掛けを行った。


「ワルガス君、神殿騎士団に必要なものは何だと思うかね?」

「それは勿論、何者にも負けない武力、力です!」

「確かに武力も必要だ。そしてそれと同じ位、己を律する自制心。強き心が必要だと思わないかね?」

「仰る通りでございます。自制心がなければ獣と同様でございます。私の自制心を確認されたいということですね?」

「その通りだ」

「お任せください」

「うむ」


 ワルガスの返答に対して、レオンさんが満足げに頷く。

 周囲の木箱の上に置いていた、カタリナさんお手製のアーティファクトに手を伸ばし、箱から開封した。

 中から現れたのは30cm程の高さのある、真鍮の筒だった。水筒みたいな形をしている。

 筒の中央に小指程度の幅のある細長い芯が付いており、固定されている。先端に重りのようなものが付いている。

 使用用途は想像出来なかった。

 ワルガスも同様らしく不思議そうにレオンさんへ尋ねた。


「これは何でしょうか?」

「知人が作ったジョークグッズだよ。筒の先端に手をかざすとね、対象者の心と同期して、心境を視覚化出来るらしい」


 レオンさんは、真鍮の筒から芯のロックを解除する。

 その後に手を触れると筒がほのかに蛍光色の光を放ち、芯が一定のリズムを刻みながら左右に揺れる。カチカチカチ……。


「面白いカラクリですね」

「では、ワルガス君、余興を始めようではないか」

「ええ、よろしくお願いします」


 ワルガスが筒に手を触れると、蛍光色から灰色の光に変化する。振り子はレオンさんと同じリズムで左右に刻まれる。

 こうしてレオンさんの審問が始まったわけだ。

お陰様で第2部の終わりが見えてきました。

一読いただきありがとうございます。

引き続き、出来る限りはやらせていただきます。

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