訪問
麻薬───怪しげな単語と、大きな金額記述されている書面をレオン子爵が追う。
紙片から漂う犯罪の匂い。見るからに胡散臭い。
金貨10枚で気をもんでいた身としては、金貨1000枚なんて、目の眩む金額だ。100倍の金額。僕達の生活費に換算したら200ヶ月〜300ヶ月相当20年位は遊んで暮らせる金額だ。
レオンさんがひとしきり確認して書面から視線を外した所で僕はレオンさんに声をかけた。
「その書類はなんですか?」
「密取引に関する決済書類だ。禁制品として定められている麻薬が取引されているのは看破出来ないな。調査が必要だ」
「どうやって調査するんですか?」
「なるべく早い調査が必要だ。もたもたしていると状況がすぐに動くかも知れない。───ジャスティス君、モラル嬢、協力を頼めるかね?」
「勿論です」
「お任せください!」
レオンさんの問いに僕とモラルは即決する。
あ
「ありがとう。助かるよ」
「パパ、私はどうすればいい?」
「マリアは屋敷で留守番だ」
「えっーーー!」
「仕方ないじゃないか。今はとても大切な時なんだ。留守番してるのだって大切なことだよ」
「そんなっ……」
レオンさんに自粛を求められたマリアは、眉を八の字にしている。そんなマリアにモラルが労りの声をかけた。
「地力で解決出来なくて悔しいと思うけど、私達に任せて。私達頑張るから!」
「うう、モラルさん、モラルお姉様、私の分まで頑張ってください」
「任せて!」
「僕も頑張るから、少しだけ辛抱しててね」
マリアが留守番することを了承したところで、レオンさんが口を開く。
「では、早速、若い神父とやらに会いに行こうではないか」
◇ ◇ ◇ ◇
実際に疑惑の神父に聴取しにいったのは9時を過ぎたあたりだった。
外はすっかり日も暮れて夜になっていた。
レオンさんの屋敷の裏口で僕とモラルは待機している。暫くしてレオンさんが現れた。
「二人とも待たせたね」
「いえ」
僕は少なからず緊張していた。
結局、疑惑の神父とはとは僕達3人で立ち会うことになった。状況が変化する前に、相手を必要以上に刺激しないためだ。レオンさん曰く、少数精鋭らしい。期待していただけるのは光栄だけど、レオンさんと一緒に動けるのは頼もしくもあり、不安もある。絶対に怪我をさせるわけにはいかない。
レオンさんの装備を確認すると、腰に剣こそ下げているが、防具の類は装備していない。軽装だ。代わりに細長い30cm位の木箱を抱えていた。僕が配達した、カタリナさんの制作物だ。
「木箱、持ってゆくんですね」
「ああ、早速使用する機会があるかも知れない」
「どんな道具なんですか?」
「内緒だよ。その時のお楽しみだ」
「そうですか……」
そう言われちゃうと、僕の立場からは強く言えないかな。レオンさんのことは信用してるし、気にしないでおく。
◇ ◇ ◇ ◇
僕達はローブを被り、人目を忍びながら目的の教会へと向かった。
レオンさんが教会の裏口の扉をノックする。すると扉が開く。
中から50歳位の初老の男性が出迎えてくれた。
レオンさんが、親しみを含んだ声で挨拶をした。
「ゲオルグ司祭、夜分に失礼します」
「仕事熱心でございますな、レオン子爵。───後ろの方々は?」
ゲオルグ司祭と呼ばれた方も友好的な態度でレオン子爵を迎える。旧知の仲なのだろうか。
「とても優秀な協力者です。安心してください」
「ジャスティスです」
「モラルです」
僕達はフードを軽くつまみ、顔を露出させる。ゲオルグ司祭に会釈する。
ゲオルグ司祭は少々驚いたような表情をした後に、笑みを浮かべた。
「私はゲオルグと申します。この教会の責任者です。ささ、どうぞ中にお入りください。中でご用件を伺います」
◇ ◇ ◇ ◇
通された場所は、倉庫だった。
四方に木箱が重ね置きされていた。
「ここでしたら人も立ち寄りません。それで今日はどんなご用件ですか?」
「実はですね……」
レオンさんがゲオルグ司祭に事の顛末を語る。
状況を把握したゲオルグ司祭は、苦い表情を浮かべる。
「教会内に不届き者が出てくるとは嘆かわしいですな。私もこの地域の責任者です。ケジメのために協力はおしみませんぞ」
ゲオルグ司祭の表情は硬い。神妙にしている。
そりゃそうだろう。たとえ自分が犯人でなかったとしても、自分の部下が犯罪に関与していたら面白いはずもない。
言い訳や責任逃れをしようとしないゲオルグ司祭の態度に僕は好感を覚えた。
レオン子爵は真摯に言葉を続ける。
「仮面の男と体格の似た人物はいませんか?」
「何人か心当たりはあります。しかし、一体誰がその人物かは分かりませんな」
「なるほど……」
総当たり方式で尋問すれば分かるだろうが、なるべく不用意に本件の情報を流出させたくないのが本音だろう。
人物特定の条件を追加してやれば絞り込めるだろうか? 僕はゲオルグ司祭に尋ねてみた。
「横からすみません。心当たりのある人物の中で、自信家で内弁慶な人物はおりませんか? 水晶越しで仮面の男を見た所感と、マリアちゃんの証言では、そのような人物と推察します」
「ふむ……。その条件だったらワルガス君が当てはまるな」
「どんな方でしょうか?」
「物覚えが良く、利に敏い自信家だな。反面、同期と馴染めていない。君の言う条件に最も近い人物だ」
ゲオルグ司祭がとても残念そうに合致する人物を告げた。
レオン子爵は腕組みしながらゲオルグ司祭に尋ねる。
「そのワルガスという者とと面会させてください。……犯人と決めつけて尋問するつもりはありませんので」
「分かりました」
こちらとの意思疎通が済んだ後にゲオルグ司祭は倉庫から退出した。
ゲオルグ司祭の足音が聞こえなくなってから、僕は大きく息を吐き、モラルとレオンさんと顔を合わせた。
モラルはこれから行われる聴取を想像してか表情は硬い。
レオンさんは僕とモラルの緊張をほぐすように労いの言葉をかけてくれた。
「ジャスティス君、さっきの聴取者の指定、助かったよ。君の一声のお陰で話を円滑に進められた」
「お役に立てて良かったです」
「さっすが、ジャスティス!」
役に立てたのか、良かった。自然と笑みが漏れてくる。二人もニコニコしていた。
「うむ。ここを乗り切れば、道が拓ける。期待しているよジャスティス君」
「はい!」
ここからが正念場だ。気を引き締めていこう。
目を通していただきありがとうございます。
思う所はありますが、引き続き精一杯やらせていただきます。




