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自警団

 レオンさんの紹介状を手にして、再び貧民街に僕とモラルは向かった。

 そして目的の自警団施設に到着した。


建物に掲げられた看板を見上げる。『自警団』

 自警団施設は無骨ではあるものの、周囲の建物と比較すると二周りほど大きい木造の建物だった。

 作りは衛兵の詰め所に似ているような気がする。


「貧民街の建物にしてはしっかりしてますね」

「そうだね。自警団の人達も、建物みたいにしっかりしてるといいけど……」

「そんなに心配しなくても平気でしょ。なんたって私達にはレオン子爵の紹介状があるんだから。それにいざとなったらジャスティスの力を示せば納得してくれるでしょ」

「暴力で解決するの好きじゃないんだ」


 力で解決しても、相手と遺恨を残すだけだと思っている。相手に協力してもらいたいなら良好な関係を築くのが一番だと思う。果たして自警団の人達と良好な関係を築くことが出来るだろうか。


「ふふふっ、ジャスティスのそういう優しい所良いと思います。でも、いざとなったら躊躇ししゃ駄目だよ」

「分かってるよ」


 大きく息を吸って吐く。

 それからドアを開けて中に入る。

 中に入ると、やはり衛兵の詰め所のような構成になっていた。

 玄関すぐに受付のような窓口が併設されている。今は誰もいない。とりあえず誰か呼んでみるか。


「こんにちわー。どなたかいますか?」


 受付の奥から3拍おいて返事が返ってくる。


「はーい、どなたでしょうか?」


 少年と呼んで差し支えない若い男の声が聞こえてきた。この声はもしかして───。現れたのは先程遭遇したジュリアンだ。


「えっ、ジャスティスさんにモラルさん。どうしてこんな所に」

「いや、それはこちらのセリフだよ」


 アウェイな場所でジュリアンと遭遇して軽く驚いた。マリアちゃんをエスコートしていたことを考えると、自警団関係者というのも無くはないけど、想定外の登場だった。

 そして、面識のあるジュリアンと遭遇して肩の力が少し抜けるのを感じる。

 知っている人間が相手なら交渉もやりやすいというものだ。


「オレっちも自警団のメンバーなんですよ。それでウチ(自警団)に何か御用っすか?」

「うん、モラルちゃんの件で自警団の代表者に会いたいんだ。レオン子爵から紹介状も預かっている。面会出来ないかな?」


 懐から丸めてある紹介状を取り出し、掲げてみせる。


「わかりました! すぐにリーダーを呼んで来るっす! 後、立ち話も何ですからどうぞ中にお入りください。ご案内します」

「ジュリアン、ありがとう」


 案内された部屋は会議室として使用しているであろう部屋だった。

 テーブルや椅子が何脚か用意されている。

 詰めれば20人位は入るのではないだろうか。それなりに広い部屋だった。


「それじゃリーダーを呼んでくるので待っててください」

「よろしく頼むよ」

「任せてください!」


 ジュリアンが会議室から退出する。パタパタと小走りの足音が廊下の方で鳴り響いていた。


 足音が遠ざかってからモラルが得意げに話しかけてきた。


「ねっ、上手くいったでしょ」

「うん、そうだね。正直ホッとしてるよ」


 ジュリアンが説明してくれるなら、そう悪い話にならないと考えている。彼とは暴漢の一件もあってか良好な関係を築けていると思われるからだ。僕達のことを悪く吹聴するようなことはないだろう。


「このまま自警団の人達と協力して、あの暴漢共を縛り首にしましょう!」

「普通に捕まえるだけだからね。黒幕を捕まえるために実行犯を捕まえたいわけなんだから」

「ぐぬぬ、それは仕方がないですね……」


 そうこうモラルと雑談をしているうちに、部屋の外からドタドタと二人分の足音が聞こえてくる。

 足音に反応して僕達は顔を引き締めて、背筋を伸ばす。居住まいを正す。


 そして、バーン! と大きな音を立ててドアが開いた。

 ジュリアンと大男が入ってきた。

 デカっ!

 年齢は30代位で慎重は190cm程だろうか。それに加えて筋肉隆々のスキンヘッド。人相もいかつい。森の中で出会ったら山賊か何かと疑いたくなるような風貌だ。


 先方の大男も何やら驚いたようにこちらを見つめている。

 とりあえず挨拶しておくか。


「こんにちわ」

「若いな。本当にお前達がマリアを助けたのか?」

「ええ、そうです。ジャスティスと申します」


 僕が子供だからだろうか。随分と無遠慮にたずねてきた。人相通りと言えばそこまでだが。


「モラルです。人にものを尋ねるなら、まず自分から名乗りのが常識じゃないですか?」


 モラル先方の反応が気に入らなかったらしく、いつもよりも刺々しい物言いだ。つっけんどんな態度をしている。

 モラルの辛口発言を受けて大男のおっさんが目を細めてモラルを凝視する。

 モラルはツンとした表情を崩さない。


 交渉は一筋縄でいかなそうだな。

 そう思った矢先、ジュリアンが何かを察して少し慌てた感じでフォローすしてくれた。


「リーダー、先程も言いましたがジャスティスさんは凄腕の冒険者です。あっという間に暴漢達を倒しました。リーダーから見れば若くっ見えるかも知れませんが、凄腕の冒険者ですよ」


 ジュリアンの発言を大男は無視する。じっとモラルを凝視している。

 慌てても仕方がないので僕も黙って大男の反応を待つ。

 暫くしてやっと大男が口を開いた。何やら楽しげだ。


「俺はボブだ。自警団の頭領をやっている。お前達面白いな。俺の顔を見ても怯まねえし嬢ちゃんにいたっては小生意気に文句まで言いやがる。試すようなことして悪かったな」

「嬢ちゃんじゃありません。モラルです! モ・ラ・ル!」

「ハハッ、すまねえな嬢ちゃん」


 大男───ボブの目線が僕に移る。


「それでレオンの旦那からの伝言は何なんだ?」


 モラルはまだまだ言いたそうだけど、場の空気が軽くなってくれてホッとする。会話は出来そうだ。


「書状を預かっています。まずはこちらを確認お願いします」

「分かった。ごくろうさん」


 紹介状をボブに渡す。

 ボブは受け取った紹介状の封を解く。丸まっていた紹介状を広げて確認する。

 するとボブの表情はみるみる険しくなってゆく。


「おいおいおい、こんな条件呑めるわけねえだろ」


 半笑いを浮かべながら紹介状を眺めるボブ。

 さっきまでの友好的な雰囲気は失せて態度が刺々しいい。


「あの、どんな内容だったんですか?」

「お前さん達と手をとりあって犯人探しをしてくれだとさ」

「えっ? それのどこがいけないんですか?」

「これは俺達、貧民街の人間が解決すべき問題だ! 余所者の人間に任せてよいような問題じゃねえよ!」

「気にするのはメンツではなく問題解決じゃないですか? 自警団で解決したいのは理解出来ますが、協力した方が上手くゆくと思うのですが」

「俺もそう思います」


 横からジュリアンも同意を示す。

 普通に考えれば協力して捜索した方が上手くゆくと思うのだが。メンツよりも結果の方が大切でしょ。

 しかし、ボブの反応は予想に反するものだった。


「かぁぁっ、お前達は何も分かってねえな! レオンの旦那のご息女、マリアが貧民街で襲われたんだぞ! これを俺達自警団が解決せずに誰が解決するっていうんだ。俺達のメンツが掛かってるんだ。余所者にやらせるわきゃいかねえよ」


 語気も荒く答えるボブ。

 かなり大きな声だったので部屋の外にもやりとりは漏れているだろう。

 外で時折聞こえていた足音も扉の前でピタリと止んでいる。盗み聞きでもしているのだろうか。

 今は外のことを気にせずにボブとの会話を続ける。


「ちなみに捜査状況はどんな感じなんですか?」

「……進展はない」


 歯切れも悪くこたえるボブ。

 駄目じゃん。

 

「でしたら協力してやりませんか? 僕は自警団のメンツを潰すつもりも、手柄を横取りするつもりもありません。レオン子爵とマリアちゃんの悩みを取り除きたいだけです」


 自身の本音を素直に話すと、ボブから先程の勢いはなくなる。ボブは少し逡巡してから口を開く。


「ボウズの言い分は分かった。しかしだな、俺達と一緒に探索したいって言うなら少しは実力を示せ。レオンの旦那は評価してるみたいだが、俺はボウズを認めていねえぞ」

「具体的に何をすればいいんですか?」


 疑問に答えるようにボブはヌッと丸太のように太い腕を僕に突き出してきた。


「腕相撲で少し良い所を見せたら考えてやってもいいぜ」

「リーダー、流石にそれは無理があるんじゃ……」


 ボブの提案に対して口出しをするジュリアン。ボブと僕の腕を見比べている。

 僕の気持ちを代弁してくれた。

 こちらが黙っているのを好機と見てか、ボブはニヤリと笑い、畳み掛けてくる。


「やる前から諦めるのか? そうやって口八丁でレオンの旦那に取り入ったのか? 紹介状にも思慮深いって書いてあったから、さぞかし口が回るんだろうな」


 何を言ってもやぶ蛇になりそう。

 いや、これで負けて向こうの気が済めば話は円滑に進むのだろうか?

 そんなことをあれこれ考えていると、モラルを吠えるように口を開いた。


「黙って聞いてれば好き勝手言って。アナタなんかにジャスティスは負けません!」

「「えっ!?」」


 モラルが爆弾発言をぶっ込んできた。

 それに思わず僕とジュリアン声を上げてしまう。


「おいおいおい、嬢ちゃんよ。嘘は良くないぜ? 嘘はよ。こんな細腕のボウズがどうして俺と腕相撲で勝てるって言うんだ?」

「人を見た目で判断すると痛い目みますよ。ジャスティスはオークを倒したことだってあるんです」

「ほう。そいつはすげぇな。ただボウズの成りでオークを倒せるもんなのか?ちょっと無理ないか?」


 オークは魔法こそ使えないものの、人間より頑丈な肉体を備えている。

 ボブが懐疑的な目を向けるのも仕方がないかも知れない。


「私が嘘をついていると言いたいんですか!」

「いや、そそうは言わねえけどよぉ」


 狂犬のごとくフーフーと吠えるモラル。

 ボブはこちらに視線を向ける。


「モラルの言っていることは本当です。モラルと出会った時にオークを撃破しました。もっとも、その時は死を覚悟しましたが」

「ほーう、そいつぁ興味深い話だな。だったら腕相撲をやろうじゃねえか。本当にそれだけの実力があるって言うならボウズにも見せ場の一つ生まれるだろ」

「僕の頑張り次第で捜索に協力してもらえるということでいいんですよね?」

「勿論だ。男に二言はねえ」

「分かりました」


 ボブが何気ない調子で一言付け加える。


「腕相撲は団員の面前で行うってことでいいよな? 探索は自警団で行ってるんだ。団員全員が納得しないと話にならねえ」


 ボブは自信満々だ。負けるとは思っていないのだろう。

 どちらかが団員の面前で負ける姿を晒すわけだ。心象が悪くなるのは必至だ。


「……分かりました。全力でやらせていただきます」

「ジャスティス、勝ってあなたの実力を思い知らせるわよ!」

「ハハッ、その威勢がいつまで続くか楽しみだぜ。───ジュリアン」

「は、はいっ」

「そいつらを大広間に案内しろ。俺は団員に招集をかける」

「分かりました」


 ボブが会議室を退出しようとすると、扉の外にいたであろう人達がパタパタと足音を立てながら離れてゆく。

 この調子だとやりとりは筒抜けだったんだろうな。人はすぐに集まりそうだ。

投稿が遅れて申し訳ないです。

執筆の仕方を試行錯誤中です。

良さげなやり方が見つかってきたので更新頻度をもうちょい上げられそうです。

引き続きよろしくお願いします。

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