依頼内訳
「さぁ、二人共座ってくれ」
「失礼します」
レオンさんに促されるまま、模擬戦前でいた応接室に入室する。目的は勿論、調査に関する情報提供してもらうためだ。
時間は14時頃。この場にはマリアちゃんはいない。理由は模擬戦で消耗していた僕のために回復魔法を唱えてくれたためだ。今は自室で休んでいる。
マリアちゃんのお陰で僕は不自由なく体を動かすことが出来る。ジョブ診断前、12歳前後で回復魔法を使えるなんて凄い。本当に神様から祝福されているのだろう。その力を僕のために使ってくれたんだ。僕はあの子のためにも調査を頑張ろう。
「ふむ、どこから話した方が良いか……」
「「……」」
レオンさんは少し遠い目をして一人呟く。
続きを話し出すまで僕とモラルは黙って待っていた。
レオンさんの焦点が戻ってきた。僕の顔を見ながら尋ねてきた。
「ジャスティス君、さっき出してくれた黒いバッチを貸してくれないかね?」
「分かりました。───どうぞ」
ああ、やっぱりこの黒いバッチが何か関係してるんだと妙な納得感を持ちながら懐から黒いバッチ取り出して、レオンさんに渡した。
「まず結論から話そう。今回の事件には裏冒険者ギルドが関係している」
「裏冒険者?」
「何だか怪しげな名前ですね」
レオンさんの口から聞いたことのない言葉が出てきて、僕はオウム返しした。そしてモラルは眉をひそめた。
モラルの言う通り、その言葉の響きからは僕もあまり良い印象をもたない。
「裏冒険者ギルドは俗称だ。かの組織に正式名称はない。俗称がそのまま正式名称としてして定着した感じだね」
「それで、どんな団体なんですか?」
「一言で言えば、金さえ払えばどんな非合法なことでも行う非合法集団。非合法な仕事を裏社会の人達に斡旋する業者みたいなものだね」
「そんな団体は真っ先に取り締まるべきじゃありませんか?」
話を聞いていた、マリアが憤慨しながらレオンさんに質問した。
マリアの疑問に僕も同感した。そんな聞くからに怪しげな団体を野放しにしていい理由はないと思う。
「取り締まっているが、取り締まりきれないのが実情だね」
レオンさんは表情を曇らせながら答えた。
「どうしてですか?」
多分、レオンさんは凄い方なんだと思う。実務面でも優れていそうなレオンさんが取り締まれば犯罪なんてすぐに撲滅出来そうな気がしないでもないのだが。
「裏冒険者ギルドを必要とする人達が絶えないからだよ。需要側も供給側も」
「……どういうことですか?」
何か面倒臭い話になってきたかも知れない。
「まず需要側。これは貴族や大商人といった上流階級に属する人達を指す。そういう人間は時折、非合法なこともこなす人間を求めている。……理由は想像に任せるがね。そして、供給側の人間もまた、日々の糧を得るために非合法なことにも手を出さなければならない人間が一定数いる。どちらを取り締まるにしても望む者が生まれ続ける限り、完全に撲滅するのは不可能だ」
「難しい話ですね……」
何となく予想はしていたけど、政治的な話ですか。そうですか。確かに社会の仕組みが変わらない限り他人を食い物にする者も、食い物にされる側の人間も絶えることはないだろう。いや、社会の仕組みが変わっても立場が変わるだけで搾取構造は変わらないのかも知れない。
───そんなことを考えて堂々巡りになりそうなので思考を元に戻す。
「そうだね、難しい話だよ。だから私に出来ることと言ったら目の前の悪を打倒し、不条理を減らしてゆくこと位だよ。要するに地道にやってゆけということさ」
「確かにそれしかなさそうですね……」
また少しだけ夢想する。
レオンさん同様に、いやレオンさん以上に僕には解決出来ない問題だ。僕に出来ることなんて所詮は悪を打ち倒すために剣を振るうこと位だ。
「私、難しいことは分かりませんが、みんな笑顔なのが一番だと思います。結局の所、私達は何をすればよいのかですか?」
モラルがレオンさんの解説を一刀両断で切り捨てる。これにはレオンさんも笑うしかない。
「はははっ、モラル嬢は勇ましいな。一本取られた。二人に依頼したいことはマリアを襲った実行犯を探してきてほしい」
「黒幕ではなく実行犯を探すのですか?」
確かにそちらの方が調査の敷居は低いと思うけどどうして要求水準を下げたのだろうか? てっきり事件に関係する情報は全部集めてこいという話になるかと思っていた。
「そうだよ。いきなり黒幕を探そうとしたところで見つからないからね」
レオンさんの確信めいた口調に興味を覚えた。
「どうしてですか?」
「裏冒険者ギルドの仕様に関しての話になるのだが、裏冒険者ギルドは依頼人の素性を確認しないんだ。依頼人の抽象的な要望を聞いて、それに合ったローグ(ならず者)を紹介する。具体的な依頼内容はローグしか知らないんだ。」
「……だから実行犯から依頼内容を確認する。依頼内容から黒幕の目的を探るということですね」
レオンさんが満足げに頷く。
「物分かりが良くて助かるよ。そういうことだ。それに君達の素性は王都で知られておらず、実行犯の顔も知っている。本件を調査するに当たって君達程の適任者はいない」
「なるほど……」
レオンさんの言い分は筋が通っていると思う。前向きに話を進めることが出来そうで内心ホッとしていた。
依頼達成のために詰めなければならない話は何だろうか?言葉を選びながら話を続ける。
「分かりました。捜索はすること自体は構いませんが捜査指針などはありますか? 流石に裏冒険者ギルドに二人で乗り込むのは無謀な気がするのですが……」
先に自発的に不安材料を出してみた。裏冒険者ギルドの成り立ちは理解出来たけど、裏冒険者ギルド相手に僕達二人で何が出来るという話だ。レオンさんに真意を促してみた。
「うむ、その通りだ。そんな馬鹿げたことは頼むつもりはない。貧民街にある自警団へ顔を出してきてくれないか?」
「分かりました。自警団とは何でしょうか?」
また聞いたことのない単語が出てきた。何かを守る団体なんだろうか?
「自警団は貧民街の自衛組織だ。彼らの力を借りて調査してきて欲しい。貧民街のことについて彼らほど詳しいものはいないからね」
「それは心強いですね。……ちなみにですが神殿騎士団としての支援を受けることは可能ですか?」
言葉に嘘偽りはない。自警団の力を借りられたらとても心強い。更に神殿騎士団の組織力もお借り出来るなら尚嬉しい。まずは言うだけ言ってみた。
「残念ながら現段階においては神殿騎士団が組織単位で調査を行うことは出来ない」
レオンさんはすまなさそうな表情をしていた。
「分かりました。差し支えなければ理由を教えていただけますか?」
神殿騎士団がすぐに調査を行わないのは、自分達に下準備、情報収集を行わせてから組織単位で本腰入れて調査を行うためだろうか?
「彼らにはもっと優先度の高い仕事をやってもらう必要がある。神殿騎士を私的利用は出来ないからね。ほかに優先度の高い仕事なければやってもらう可能性があるが……。どちらにしても順番を無視して自分の周辺調査などさせるわけにはいかないよ」
「大変なんですね……」
「どうするかね?今だったら依頼を断ってくれても構わないよ」
レオンさんは悲しげに微笑んだ。
そんなこと決まっているじゃないか。僕はレオンさんに意志を伝えた。
「話を聞いて益々やりたくなりました。やらせてください」
「私もやりいたいです」
僕とモラルが依頼をこなしたい旨を伝えると、レオンさんの表情がパッと明るくなる。
「本当かいっ!? 助かるよ。───君達のように腕が確かで信用出来る人間はだ中々見つからないんだ」
嬉しそうにレオンさんが笑う。
それに釣られて僕達も笑う。世辞と分かっていてもレオンさんみたいに立派な人から褒められたら嬉しくないわけがない。
「お役に立てて光栄です」
最初はマリアちゃんのために協力したいと思ったけど、今はレオンさんのためにも協力したいと思っている。
内心で組織を私的利用しないことに感嘆していた。残念ながら父上なら、何が何でも自身の問題から解決させていただろう。果たしてここまで高潔な貴族が王国内に何人いるだろうか。
この人こそ民の守護者。貴族としてあるべき姿なのではないかと思う。そんな人の手助けを行えることは非常に光栄なことだと思っている。人柄に惚れ込むとはこういうことではないだろうか。
ついでにもう一つ、懸念事項を確認しておこう。
「レオンさんは自警団の方々と面識はあるということですよね?」
「勿論。君達に協力してもらうために紹介状を書くから安心して欲しい。無下にされるということはないはずだ」
「それなら良かったです」
よし。懸念事項がクリアになった。現地人が非協力的じゃ、たまったもんじゃない。協力を渋られたり足元見られたりしていたら解決出来る問題も解決出来ないだろう。
「あっ、冒険者ギルドの報告どうしよう?」
「そう言えばそうだね」
モラルが思い出したというように声を上げて、僕もそのことを思い出していた。状況が目まぐるしく変わって頭から抜け落ちていた。元々の目的は配達だったんだから。ちゃんと完了報告しないと。
「紹介状を書くのに少し時間がかかるから、その間にギルドへ報告を済ませてくるといい」
「……そうですね。そうさせてもらいます」
「じゃあ早速行こっか」
モラルに促される。
「うん、行こう」
こうして僕達は王都の冒険者ギルドに向かうことになった。この時は向かった先で長い付き合いになる、あの人と出会うとは思っていなかった。
ト書きの使い方が正しいかとか、気になる所が多々ありますが、とりあえずお話進めるの優先でやってます。まずはお話をフリースタイルで書けるようになるの目標にしつつ、徐々に120%ニーズに沿ったテンプレート小説書けるようになれたら良いなと。
その上で好き勝手やれるようになりたいなぁ。




