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模擬戦

 調査依頼受注の腕試しのために僕達はレオン邸の地下訓練場にいる。

 床は木目のフローリングで調度類の類は特に何もない実用性重視の空間だった。


 僕はレオンさんと相対するように部屋の中央にいる。僕達は訓練用の木剣を握っている。

 入口側の壁際にモラルとマリアがおり、危険が及ばないように距離をとってもらった。


 僕はレオンさんを直視する。座っていた時は気にならなかったが、レオンさんは僕より頭ひとつ大きい。だから威圧感がある。訓練用の木剣を持つ姿は威風堂々としている。

 果たして僕はレオンさんのお眼鏡に叶うような腕前をもっているのだろうか?自信があるかと言われればない。だからどうしても不安にはなってしまう。


「ジャスティス君、そう固くなる必要はないよ」


 レオンさんが、こちらを気遣うように微笑んだ。


「お気遣いありがとうございます」


 曖昧に微笑み返す。

 緊張しすぎるのもよくないし、真に受けて緊張を解くのもおかしな話だろう。


「こちらとしては、君の実力を確認したいだけだ。なに、気兼ねなく実力を出してくれればそれでいい」

「分かりました。レオンさんの胸を借りるつもりでやらせていただきます」

「うむ、その意気だ」


 やらずに怯えていても仕方がない。当たって砕けろの精神だ。

 すぐに負けてしまうようであれば、レオンさんを落胆させることだろう。

 僕は内心で勝利条件を復唱する。

 レオンさんを満足させれば良いわけだが、何をもって満足してくれるのかはさっぱりだ。

 理想はレオンさんに勝利すること。それが出来ないならレオンさんにどこまで肉薄出来るかだ。こちらは全力全開でやらせてもらうのみ。


「ジャスティス、頑張って!」

「ジャスティスさん、応援してます」


 モラルとマリアちゃんが応援してくれた。心が暖かくなる。


「ありがとう! 頑張るよ!」


 そんな僕達の姿を、レオンさんは物欲しそうに見ていた。


「私を応援してくれる人はおらんのかね?」

「パ、パパは今日は敵でしょ! 応援はしてあげないわ」

「ジャスティスが頑張ってくれないと私も困るので……。ごめんなさい」


 肩を竦めるレオンさん。

 僕は苦笑して答える。

 レオンさん、恨めしそうにこちらを見返してきた。


「……ふむ、これが娘を盗られた親の気持ちか。さて、ジャスティス君、父親の威厳というやつを味わってもらおうか」


 レオンさんの顔は笑っているが目は笑っていない。……冗談だよな?

 木剣を片手で握り、剣先を僕へと向けてきた。体幹がブレた様子はなく物凄い威圧感を放ってきた。

 内心をなるべく顔に出さないようにしながら僕は正面からレオンさん見据える。


 両手ではなく、片手で構えているあたり、本来は左手で盾を構えるスタイルなのかも知れない。

 或いは、左手で何らかのスキルを繰り出すのだろうか?

 とりあえず目の前に集中する。僕は両手で木剣を構える。


「それでは始めようか」

「よろしくお願いします!」


 合図とともに、レオンさんの闘気が更に膨れ上がる。

 見た目とは裏腹の軽快さ一気に距離を詰めてくるレオンさん。上段から重く鋭い一撃をみまってくる。

 僕は剣で受け止める。力の乗った一撃は重く、手がジンジンとしてくる。

 そのまま鍔迫り合いとなり、体が密着しそうになる。体格差に物言わせてショルダータックルをしかけてきた。

 その勢いを生かして僕は後方に下がる。


「ふむ、初手で倒すつもりで仕掛けたのだが、倒しきれなかったか。小柄な割にやるではないか」

「一撃でやられたら立つ瀬がありませんから」


 僕達の攻防でギャラリーの二人が騒ぎ出す。


「す、すごい。ジャ、ジャスティスさんは勝てるんだよね!?」

「うーん、厳しいかな。でも勝負はこれからだよ」


 マリアちゃんの願望に厳しいツッコミを入れるモラル。

 でも彼女の指摘はもっともだ。何故なら僕自身もまたそう思っているのだから。


「あの一撃に耐えられるなら遠慮せずにやらせてもらうぞ!」


 こちらの気持ちを知ってか知らずか、レオンさんは満足げな笑みを浮かべていた。


「はあぁっっ!!」


今度は息をする間もレオンさんが連続で剣戟を繰り出す。


ジャスティスは受けるので精一杯。

連撃の最後の一振りで吹き飛ばされるような形で壁際まで距離をとった。


「ふむ、私の連撃を耐えられるとは中々やるな。切り札があるなら是非見せてもらいたいものだな」

「勿論です。全力でぶつかります!」


 僕の戦意は失っていないことが伝わると、レオンさんは野性味のある笑みを浮かべた。


 手合わせして分かったことだが、体格、技量共に僕よりレオンさんの方が優れている。このまま受けに回っていると勝てる見込みはない。


 何とかして僕が攻め手に回らなければならない。


「ジャスティスさん、頑張って!」


 マリアちゃんが力いっぱい声援を僕に送ってくれた。必死の形相だ。

 レオンさんに負けたくない!心の底からそう思った。

 力負けしている以上、例え瞬間的であってもスピードでレオンさん勝り攻め手に回る必要がある。

 そのためのスキルと言えば───


「スマッシュ<ブースト(加速)>!!」


 スマッシュ<ブースト(加速)>で、『バンッ!』と人が立てるような音ではない足音を立ててジャスティスは砲弾のような暴力的な速度でレオンさんに迫る。


「何!?」


 意表を付けたらしく、レオンさんが僅かに硬直する。このチャンス、見逃すわけにはいかない! そのまま肉薄する。


「スマッシュ<クイック(刺突)>!!」

「むっ、───重い!」


 僕が繰り出したスマッシュ特性付きの刺突をレオンが捌いてゆく。

 見た目に反して重いの捌くのは流石の一言に尽きる。

 それでも僕の圧力が勝ったのかジリジリと後ろに下がってゆくレオンさん。それでも慌てた様子はない。

 僕の連撃の切れ目でレオンさんが木剣を横に薙ぐようにして打ち払う。それで僕の連撃も打ち止めとなる。気付けば最初の模擬戦の位置に戻っていた。


「パパを後退させるなん凄いわ! ジャスティスさん」


 マリアちゃんが歓声を上げていた。


「全くだ。新米の神殿騎士でここまでの剣技を振るえる騎士は果たして何人いるだろうか」


 模擬戦中ではあるが、レオンさんも僕を労ってくれた。レオンさんもまだまだ余裕はありそうだな。


「恐縮です」

「しかし、それは本当にスマッシュなのかね?スマッシュと言えば一撃は重たいが隙きが多くて当たりづらいのが普通だ。スマッシュの常識を覆す剣技だったよ」

「僕はスマッシュに適正があったのでスマッシュを磨いています」


 僕は正直に答えるとレオンさんは破顔した。そこに侮りや侮蔑の色ははない。


「ジャスティス君、君を好敵手として認めようではないか。私も全力でやらせてもらうぞ! ハアァァッ!!!」


 レオンさんの掛け声と共に木剣が淡く光りだす。


「こ、これは『オーラブレード』ですか!」

「むっ、知っていたか。勉強熱心だな」

「剣士を目指しているものなら知っていて当然です。聖剣技の代表スキルじゃないですか!」


オーラブレードは神に仕える騎士、神殿騎士の代名詞となる基本スキルだ。剣に自身の闘気を纏わせて立ち向かう相手を切り裂くスキルだ。剣戟の威力を増す強力なスキルと聞いているが、果たしていかほどのものか……。


「ジャスティス君、ではゆくぞ! セイッ!!」


 レオンさんは上段から素早く木剣を一閃する。僕は木剣で受け止めた。受け止めた直後、電撃で打たれたような痺れが全身を襲う。


「うっ!?」


 思わず驚きで声が漏れた。

 意識を失うほどの痺れではないが、確実に行動が阻害される。防御に回っていたら確実にやられる。


「ジャスティスさん、頑張れぇ!!」


 力の限りマリアはが声援を上げる。


「そりゃ、そりゃ、ソリャァ!!!」


 レオンさんが容赦なく剣を振るう。

 僕は歯を食いしばりながら剣を捌く。意識を持っていかれないようにぐっと堪えながら考える。どうやったらレオンさんに勝てるか?オーラブレードを何とかしないと僕に勝ち目はない。


 僕もオーラブレードを模倣出来たらと思うけど、そんな虫の良い話はありえない。オーラブレードはオーラを剣に纏わせる技術だから厳密には剣術ではない。

 だからと言って既存のスキルで何とかなるかと言ったらそうも思えない。


勝機を見つけるためにスキルウィンドウを確認する。

何か打開策はないか?

スキルレベルを上げれば戦いになるか? 例えば筋力とか。逡巡して自分の考えを否定した。ちょっと筋力が上がった位で何とかなると思えない。オーラブレードのビリビリでやられる未来が思い浮かぶ。やっぱりオーラブレードを何とかしなければならい。


───

スキルサーチ(NEW!!)

スキル爆速強化

スキルポイント 11

 スマッシュ (LV30/100,000)

 筋力向上  (LV.40/100,000)

 体力向上  (LV.40/100,000)

 素速さ向上 (LV.40/100,000)

───


 ん? 何か見慣れないものがあったぞ?

 『スキルサーチ(NEW!!)』ってなんだ? 意識を『スキルサーチ』向ける。


脳内で『知りたいことを念じてください』と返ってきた。

知りたいこと? そんなの決まってるじゃないか。オーラブレードどうやったら攻略出来るんだよ!

それはそれは必死に願ってみた。

すると例のシステムメッセージが返事をしてきた。


『スマッシュ<ディスペル(雲散霧消)>。魔法やスキルの付与効果を強制解除するスマッシュ。取得条件スマッシュLV.40』


 これだ! 脳内で提示されてきた答えに飛びつく。即決でスキルポイントをスマッシュに割り振る。


───

スキルサーチ

スキル爆速強化

スキルポイント 1


 スマッシュ (LV.40/100,000)

 筋力向上  (LV.40/100,000)

 体力向上  (LV.40/100,000)

 素速さ向上 (LV.40/100,000)

───


 勿論使用も即決だ。

 レオンさんに向かってお見舞いする。


「スマッシュ<ディスペル(雲散霧消)>!」

「はは、まだ反撃する気力があるか。中々やるなジャスティス君!」


 悠然と僕の剣戟を受け止めるレオンさん。直後、レオンさんの顔に驚愕を浮かべることになる。

 スマッシュ<ディスペル(雲散霧消)>でレオンの剣を叩くと『パリーン!』とガラスが割れるような甲高い音がする。

 すると、剣にまとわりついていた光がまるで何もなかったように消えてしまう。先程までの剣の重さがなくなる。ビリビリの感覚もない。


「な、なにぃぃぃっ!?」


 レオンさんの顔が驚愕で見開く。流石のレオンさんもこの事態は想定外だったらしく棒立ちになる。

 僕はそこに付け込む!


「スマッシュ<クイック(刺突)>!!」


 再び、刺突を繰り出す。

 反応が遅れて先程よりも剣捌きがもたついている。

 僕の剣戟がレオンさんの剣を大きく跳ね上げる。


「しまった!」


 レオンさんが思わず声を上げる。

 コンマ3秒、無防備になったところで重心を下げ、僕の最大火力を叩き込む!


「スマッシュ<ヘヴィ(強撃)>!!」


 ここにきてレオンさんは初めて木剣を両手で構えて僕の一撃を受け止めた。


「ぐ、ぐぅぅ」


 『ゴンッ!!』とおよそ木剣が立てることのない鈍器のような音が響く。

 僕とレオンさんの木剣は負荷に耐えきれず根本からへし折れてしまった。

 遅れてやってくるヘヴィ(強撃)の反動。威力を制御しきれず自分にもダメージが帰ってきくる。

 そのまま僕は精根尽き果てて片膝をついた。


「ジャスティス君、大丈夫かい!?」

「だ、大丈夫です」


 へし折れた木剣を放り捨てて僕に駆け寄ってきたレオンさんに返事した。

 息を整えて僕は立ち上がる。


「対戦ありがとうございました。力及びませんでした」

「いやいや、ここまで追い詰められるとは思ってなかった。試験は合格だ。君は立派な剣士だ」

「では、僕達が調査を行って良いということでしょうか?」

「ああ、勿論だ。よろしく頼む」

「やった!!」


 思わず喜びの声が漏れる。

 そして、モラルとマリアちゃんの方を見る。


「やったねジャスティス!」

「ジャスティスさん、とっても格好良かったです。パパに勝っちゃうのかと思っちゃいました!!」


 二人も喜んでくれた。マリアちゃんとの約束を守れそうで一安心だ。


「父親の威厳は守らせてもらったよ。まさかオーラブレード(聖剣技)まで使わされるとは思ってなかったよ」

「噂に違わぬ強力な剣技でした」

「我ら神殿騎士団の特殊スキルだからね。張り子の虎では困ってしまうよ。ははっ。───しかし、スマッシュでここまでのことが出来るとは驚きだ。何事も極めれば神の御業みわざ足り得るということだろうな」

「ありがとうございます! より一層精進します!!」


 レオンさんが手放しで褒めてくれて嬉しい。思わずちょっと声が上ずってしまった。

 僕はスマッシュというスキルも、ヒーローというジョブも外れスキル、外れジョブとは思っていない。きっと誰かの役に立つものだと信じている。しかし、面と向かって褒めてくれた剣士はレオンさんが初めてだ。強くて懐の広いレオンさんが認めてくれたことが只々嬉しかった。


「ところでジャスティス君。ディスペル(雲散霧消)というスキルはどうやって編み出したんだい? まさかあんな形でオーラブレードを攻略されるとは思ってなかったよ」

「模擬戦の最中に偶然できたんです。レオンさんに勝ちたいと無我夢中で剣を振るったら出来ました」


 スキルィンウィンドウとスキルサーチには伏せた上で正直に話した。世間の常識に照らし合わせて考えてみれば、基礎スキルしか使えないとはいえ、スキル上限値が1000倍という話は聞いたことがないし、スキルサーチという状況を打開するためのスキルをピンポイントで探してくるスキル?は聞いたことはない。これは控え目にいって破格のスキルと言える。


スキルサーチがなければ先程の戦いを引き分けに持ち込むことは不可能だっただろう。僕がディスペル(雲散霧消)を知らなければ、例えそれが使えたとしても存在しないのと同様だ。だって知らないのだから。


 僕はスマッシュしか使えないけど、スマッシュのスキルレベルを上げることで、スマッシュに昇華した多種多様なスキルが使える……かも知れない。


「ははっ、土壇場であんな強力なスキルを編み出すなんて君は間違いなく天才剣士だよ。君に備わっている才能に溺れずに引き続き精進するがいい。そうすれば君は歴史に名を残す剣士になれるかも知れないよ」

「僕が歴史に名を残すなんてそんな……。そんな立派な人間になれるとは思っておりませんが引き続き精進します。手合わせありがとうございました」

「こちらこそありがとう。良い試合だった」


 レオンさんが差し出してきた手を僕は握手する。レオンさんは僕の肩をバシバシと叩いてきた。ちょっと痛い。


「ジャスティス、お疲れ様」


 モラルが労いの言葉をかけてくれた。


「うん、お疲れ様。何とか調査させてもらえることになったよ」

「ジャスティスはほんと凄いね。レオンさん、一流の剣士に認められたってことはジャスティスも凄い剣士ってことじゃないの? パーティを組む身として鼻が高いわ!」


 モラルが我がことのように喜んでくれている。モラルに褒められて僕の胸中に出てきた感情は感謝の念だった。


「僕一人じゃ何も出来なかったよ。モラルがいてくれたから乗り越えてこれたと思う」

「ど、どうしたの? 急にそんな改まって」

心の底からそう思って伝えたのだが、モラルはそわそわしだした。


思えば僕の冒険者としての人生は全てはモラルがきっかけだった。モラルがオークに襲われるという状況で出会わなければ自身の命を懸けてまで剣を振るうことはなかっただろう。僕一人だったらそのまま脇目も振らずに逃げ出していた。


それにモラルみたいにまっすぐな子と出会わなければ人としての道を踏み外していたかも知れない。悪い人間の甘言に乗り、知らぬ間に悪に染まっていた未来だってありえたわけだ。


「これからもよろしくってことだよ」

「……うん、よろしく!」


 モラルは一瞬ぽかーんとした後に満面の笑みを浮かべた。

 マリアちゃんは、そんな僕達のやりとりを不思議そうに見つめていた。レオンさんは目を細めていた。


「ジャスティス君、モラル嬢、それでは本題に入ってよいかな?」


 レオンさんに声をかけられてハッと我に返る。いかんいかん。


「あっ、はい。よろしくお願いします」

「勿論です。よろしくお願いします」


 僕とモラルはレオンさんに返事をした。

 こうして僕達はマリアちゃんを襲った黒幕探しを行うこととなった。


 <スキル爆速強化によりスキルポイントを10取得しました>

バランス悪くてすみません。

文量に対する旨味のバランスが、雑な感じする。

やり方試行錯誤していて、自分にあったやり方が分かってきたので、それを洗練してみようと思います。


今年1年ありがとうございました。

良いお年を。


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