表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/53

時間外労働

 レオンの怒気にあてられて青ざめるマリア。


「パ、パパ。病気で苦しんでいるの人達がいたの。だ、だから私が癒やさないと」

「貧民街にも教会はあるよ。患者が教会に赴き治療を受ければよかったんじゃないのかな? それともマリアは貧民街の神父たちは怠けていると思っているのかい?」


「そういうつもりはないです!」


 苦々しげに吐き捨てるようにマリアが言った。

 レオンさんは、意に介さない。


「しかも無断外出をしてトラブルに巻き込まれたということだな?」

「そう……です」


 レオンさん、大きくため息をついた後に僕に尋ねてきた。


「ジャスティス君、君が駆けつけた時の状況を教えてほしい」


 レオンさんの眼光は鋭い。目は嘘を許さないと言っているようだった。

 僕はなんと答えるか迷った。正直に答えてよいのか? その場合、マリアの印象は悪くなることだろう。しかし、偽りの情報を伝える方が混乱が生じると思う。はっきり言うことにする。


「マリアちゃんと貧民街の少年が、暴漢3人組に襲われていました。少年がマリアちゃんを守っていました」


 レオンさんは眉をピクリと動かす。

 娘が襲われていたと言われたら、気が気じゃないだろう。


「暴漢とはどのような男達だったんだ?」

「粗末な革鎧とショートソードで武装した男達でした。襲われる寸前だったので男達を蹴散らしました」


 レオンさんが安堵と、ため息がごっちゃになったようなものを吐き出す。


「迅速な行動、感謝する。そのお陰で娘はこうやって五体満足でいられたのだからな。ちなみに娘を守ってくれていた勇敢な少年の名前は?」


 話題がジュリアンにも飛び火した。言うか、言わないか逡巡して結局言うことにする。ここで言葉を逃してもしょうがない。レオンさんも悪い印象を抱かないはずだ。ジュリアンの行いは称賛されてしかるべき行いだ。


「ジュリアンと名乗っていました」

「ジュリアン、ジュリアン……、ジュリアン……」


 レオンさんは、目を閉じ、小さくジュリアンの名前を数回呟く。心当たりがあったらしく何か納得していた。


「ジュリアン───、マリアが公式行事で貧民街に出向いた際に、彼の母を癒していたね。あの時の少年か」

「ご存知なのですか!?」

「ん、職業柄、人の名前は覚えるように心がけているよ。勿論全員は無理だがね」


 苦笑するレオンさん。

 僕は驚いた。人を覚えようとしてこなかった実父とは正反対だ。

 レオンさん、言葉を続けた。


「マリアは何か尋ねられたり要求をされなかったか?」


 レオンさんに話題を振られて少し首を下げてマリアは考え込む。


「分からない。急に呼び止められて、怖かったからジュリアンと一緒に逃げて、追い詰められたところをジャスティスさんが助けてくれた」

「となると、手がかりなしか……」


 思案するようにレオンさんが腕組みしながら呟いた。


「レオンさんは何か心当たりありませんか?」


 僕が尋ねると、レオンさんは苦笑した。


「今の状態じゃ心当たりしかないかな。神殿騎士(違反者の取り締まり)をやっているから、私を快く思わない者は少なからずいる。マリアも巷では聖女候補と言われていてね、この子を目的とした誘拐という線も十分ありえる」

「えっ、聖女ですか!?」


 何かすごいワードが出てきたぞ。

 聖女という言葉から、大昔に勇者と一緒に魔王を倒した聖女様を思い浮かべる。

 モラルもとなりで驚いている。

 マリアは特に気にした様子はない。何とも思ってないところが聖女っぽい感じがしないでもない。


 こっちが何を考えてるのか予測がついていたようで、レオンさんが聖女について補足してくれた。


「別に勇者と一緒に魔王退治に出かけるわけではないよ。ジョブ診断前に回復魔法を使えるから周りがこの子をチヤホヤしているだけさ。名誉称号としての聖女。回復魔法を使えたら引く手あまただからね」

「私は当たり前のことをしているだけよ。癒やしの力があるから癒やす。それで喜んでもらえるから頑張ってるの!」

「マリアちゃん、素晴らしいわ!」

「僕もそう思うよ」


 マリアの動機にモラルが満面の笑みだ。僕も好ましいものだと思う。

 後、平時でも人の役に立てるのが羨ましい。

 武力は有事あっての力だしな。もっとも、武力を必要としない状況なんて古今東西、どこにもなかったわけだが。

 

 そういえば、以前モラルに何故冒険者をやっているのか尋ねたことがあったっけ。

 悪を打ち砕くために最前線で戦うよう神様から天啓を得たとか何とか。だから僕と一緒にいるとか何とか。変わっているとは思うけど、モラルのそういう所もいいと思う。


「それにしてもジョブ診断前に回復魔法が使えるなんてすごいわ。同じ癒し手と尊敬します」

「えへへ」


 モラルに褒められて嬉しそうにするマリアちゃん。


「親バカの類かも知れないが、マリアには回復魔法の資質があると思っている」

「間違いなくあると思いますよ。天性の才能です」


 レオンさんの独白に僕は同意した。


「だ、だったら、私に特別な力が宿っているというのなら、それは女神様がみんなを癒せと言っているんだと思う。みんなのために癒やしの力を使いたい!」


 褒められてちょっと強気になるマリア。

 

「駄目なものは駄目。時と場合を考えなさい。癒やさなければならない人達は貧民街の人達だけなのか? 他の人達はどうでもいいのか? お前に何かがあれば救える命も救えなくなるかも知れないんだぞ」

「じゃあ、どうすればいいの!?」

「今は大人しくしてるんだ。事件解決が最優先だ」


 レオンさんとマリアちゃんの意見は真っ向から対立している。

 そしてその力関係からレオンさん優位はゆらがない。


 双方の言い分はもっともだと思う。

 マリアちゃんの気持ちも分かるし、レオンさんの子供を心配する気持ち。親の本来あるべき姿だと思う。実父カットナルの顔を脳裏によぎり、チクリと心が痛んだ。


 双方の言い分が対立している以上、円満解決するためには、二人同時に解決する必要がある。

 解決策は───


「あっ!」


 一同の視線が僕に集まる。


「ジャスティス、どうかしたの?」


 モラルが尋ねてきた。


「バッチだよ、バッチ!」

「バッチ?」


 モラルはピンときていない。───ああ、そりゃそうか。バッチ拾ったこと伝えてなかったよな。

 説明するより実物をを見せた方が早いので懐から取り出して見せる。

 真っ黒に染まった手が握手しているバッチ。現場の物品として拾ってきたものだ。


「これです!!」


 マリアちゃんとモラルは首を傾げている。心当たりはなさそうだ。

 レオンさんはバッチを見せた途端に渋い表情をしている。


「レオンさん、何か心当たりありますか?」

「ああ……」


 注目が僕からレオンさんに移る。


「裏冒険者ギルドのバッチだな」

「裏冒険者ギルド?」

「金のためなら何でもやる非合法集団のことを指す」

「例えば、どんなことをやるんですか?」

「強盗、暗殺などだね。表の冒険者ギルドでは頼めない案件が裏冒険者ギルドに回されることになる」

「あの、物凄く危ない団体だと思うのですが、何でそんな団体が許されているですか?」


 理解に苦しむといった具合で、モラルがレオンさんに質問した。


「許していうわけではなないのだけど、存続している理由は大きく2つある」

「どんな理由ですか?」

「匿名性と必要悪の側面だね」

「続きをお願いします」


 モラルは納得ゆかない調子だが、レオンさんに先を促す。僕もモラルと同じ調子だ。


「裏冒険者ギルドは特殊な符号を用いてやりとりしている。意図的に依頼主、冒険者、裏冒険者ギルド、3者が結びつかないように取引が進められる。だから、だから冒険者───犯人を捕まえてもその先を追えないことがほとんどなんだ」


 モラルが逡巡してから追加質問する。


「だったら裏冒険者ギルド自体を取り締まればよいのではないですか?」

「それで裏冒険者ギルドが潰えたなら有効な手段だね」

「そうはならないと?」


 苦々しげにレオンさんが首を縦に振る。


「裏冒険者ギルドは非合法な団体だから、潰したとしてもまた自然発生にしてくる。それにそういった非合法な方法を望んでいる一部の層もいるということだよ」

「理解に苦しみます」


 モラルは眉をひそめた。

 レオンさんが言わんとする所を推測すると、貴族や大商人、場合によっては教会の高位僧などが依頼主になってくるのだろうか……。確認の意味も込めて僕はレオンさんに尋ねた。


「だから、心当たりがありすぎて犯人が分からないと言ったのでしょうか?」


 レオンさんが、再度苦々しげに首を縦に振る。


「その通り。可能性を挙げたらキリがなくなる。私が考えている理由でマリアが狙われていたのかも知れないし、私が預かり知らぬ理由で狙われたのかも知れない。───理由なんてどうでもいい。マリアが狙われたという事実だけは消え去らない」

「……厄介な話ですね」


 狙われた側からしていみればたまったものではない。という話だ。

 その上で犯行動機について想像してみた。今回のケースで言えば、偶然ではなく人為的な話なのだろう。

 王都を散策した限りでは、治安は良い部類だ。少なくとも治安はそこまで悪いように見えなかった。スリの類の物盗りはいなかったからだ。貧民街に関しては何とも言えないところだが、恐らく日中はそれほど危険ではないだ

ろう。


「わ、私のやってることって、いけないことだったの……?」


 マリアが顔を少し青ざめながら呟くように呻く。ショックを受けているようだ。


「怖い目にあったことがショックだったのかい? それとも自分の行いを否定されたからかい?」


 レオンさんがマリアの呟きの意図を確認した。


「私の行いはいけないことだったの? パパ」

「……モラルのやっていることは良いことだ。胸をを張っていい。ただね、世の中には正しい行いをよしと思わない人達もいるということだよ」

「よく分かんない!」


 マリアが首を横に振る。納得がいかないという表情をしている。

 一段落ついたところで、話を本題に戻す。僕はレオンさんに尋ねた。


「レオンさんは、本件をどうやって解決するつもりですか?」

「地道に調査をしてゆくしかないね。だから事態が解決に向かうまではマリアには家で大人しくしてもらう。───もっとも、神殿騎士の権限を私的に利用するわけにはいかない。だからすぐにとはいかないがね」


 レオンさんが渋い表情をしながら答えた。

 職権乱用するつもりがないのか。この人すごいな。この親子のために何かしたい。考えるより先に言葉が先走る。


「自分たちで協力で出来ることはありませんか? ……多少の荒事なら得意としてますよ」

「協力してくれるのかい!? 君達の任務は配達であって探偵ではない。危険に首を突っ込むんだよ」

「危険だったら慣れっこです。毎日命がけでゴブリン退治やってます」


 レオンさんが神妙に頷いた。

 マリアちゃんの表情も驚くように口を開けていた。

 レオンさんが、逡巡してからモラルに尋ねた。


「モラル君もそれでいいのかい?」

「勿論です! マリアちゃんの行いは善き行いです。称賛されることはあっても、人に非難されるような言われはありません!!」

「モラルさん……」


 マリアちゃんが恩に着るように呟いていた。


「では、君達に調査をお願いしたい」

「任せてください」


 僕はレオンさんに返答する。


「その前に、手合わせ願えないかな? 君達を巻き込むのであれば、それに足る人物か確認をさせて欲しい」


 レオンさんが申し訳無さそうに笑った。

 そりゃそうだよな。大事な娘さんの話だ。実力の分からないやつに任せたくないよな。


「そういうことでしたら、是非お願いします。ご期待に添えるように善処します」

「よろしく頼む」


 こうして図らずしも僕は武芸の達人であるレオンさんと手合わせすることになった。

字数のバランスが悪くて何かあれですね。

後、ヨイショが一部モラルに行っちゃってる気がするからそこが良いのか悪いのかちょっと思う所あった。

とりあえず、出来を気にするのはちゃんとお話書けるようになってからですね。

目を通していただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ