覚醒 スキル爆速強化
ジョブ診断の翌日。
結局父上の怒りは収まらず追放されることになった。───いや、エイルが剣聖を授かったから僕は用済みになったというのが正しい。二人とはあの後会っていない。
最後にもう一度だけ屋敷を振り返る。見送る者はいないが使用人のヒソヒソ声だけが聞こえてくる。何を言っているかは分からないけど良い話ではないだろう。
「さようなら、父上……」
やりきれない思いを抱えながら実家を出ていった。
◇ ◇ ◇ ◇
領民の視線をかいくぐりながら街の外に出た。
僕は父上の目と耳が届く場所にいることは出来ない。必然的に知らない土地で生計を立てなければならない。今後のことを考えると正直不安でいっぱいだ。思わずため息が出てしまう。
「いやいや、このままウジウジしててもしょうがない。状況を整理してみよう」
自分を落ち着かせるために声に出してみた。
所持金は今まで貯めてきた小遣い金貨1枚相当。1ヶ月の生活費を持っている。
後は健康な肉体と教養、大剣と革鎧。見掛け倒しだった『ヒーロー』というジョブと文字化けしたスキル……。
当面の目標は生活を安定させること。
これは街にさえ到着すれば何かしらの仕事に就けば達成出来るはずだ。
それに案外、しがらみのない場所ならかえって実家にいた頃より楽しくやれるかも知れない。
そんな夢想していると夢が膨らんでくる。出来ることなら自分も『ヒーロー』。正義の味方になりたかったな。子供の頃に憧れていた。勇者が悪いドラゴンをやっつけてお姫様を助け出すというやつだ。自分もそんな人物になれたらどれ程よかったことか。
あれこれ考えていると、少し先の茂みから甲高い女性の悲鳴が聞こえてくる。
「誰か助けてっ!」
正義の味方になりたいって言った後に見てみぬフリはないよな。
前方を警戒しながらダッシュする。
茂みを覗き込むと白い僧衣を着た女神官が3匹のオークと追いかけられている。
「ゴフ、ゴフ!」
オークはニヤニヤ笑いながら女神官を追い詰める。
最悪じゃないか! 何でこんなところにオークがいるんだよ。オークは知能こそ人間以下だが身体能力は人間を上回る。背丈だって2mはあり僕より大きい。
一般論としてオークを1匹倒すのに3人がかりで戦うことが推奨される。
1匹でも荷が重いというのに3匹も相手にするなんて絶対に無理だ。自殺行為に等しい。
女神官の歳は同い年、15歳くらいだろうか。
白い肌に金髪がよく映えている。体格は小柄で発育はお世辞にもあまりよくない。
気の毒なほど顔は青ざめて歯の根が合わず小刻みに震えている。
「キャッ、い、いや!」
女神官がオークに背を向けて逃げ出そうとしたが、左手を掴まれて逃げ出せない。ジタバタ抵抗するがビクともしない。
オークは鼻息荒く吐き、顔を近づける。残りの2匹のオークもニヤニヤ笑いながらゆっくりと近付いてくる。
「お願い、誰か助けてっ!」
女神官は自身に待ち受ける未来を想像して顔をクシャクシャに歪める。
木陰に身を隠しながら僕は頭をフル回転させる。どうかして彼女を助ける方法はないか。
今の僕ではオークに勝とうと思っていない。彼女が逃げ出せる時間を稼げればいいのだが妙案が浮かばない。
後続のオーク2匹も追い付いてきた。もう時間がない。
勝機がないからあの子を見捨てるのか?
どうせハズレジョブを引いて終わった後の人生なんだ。駄目で元々だろ。
覚悟を決めたところで脳内で声が響き渡る。
<『ヒーロー』の覚醒条件を満たしました>
<『菴墓腐縺薙l縺瑚ェュ繧√k?』が『スキル爆速強化』に変化しました>
<スキルポイントを30取得しました>
<取得可能スキルが開放されました>
<スキルレベル上限値が1万倍に拡張されました>
頭の中が情報で溢れかえる。
スキルレベル上限が1万倍に拡張ってなんだよ。
他に頼れるものもないので、半信半疑で『ヒーロー』のスキル一覧を確認してみる。
───
スキル爆速強化
スキルポイント 30
スマッシュ (LV.1/100,000)
筋力向上 (LV.1/100,000)
体力向上 (LV.1/100,000)
素速さ向上 (LV.1/100,000)
───
スキルレベルの上限が10から10万に底上げされている。ツッコミどころしかないけど今は黙殺する。
とにかく攻撃力が欲しい!
スマッシュを力強く念じるとスキルポイントが1消費され、スマッシュのレベルが1上昇する。
そして何度かそんなやりとりを繰り返して、まとめてスキルポイントをスマッシュに割り振れることに気づく。
スマッシュに全振りだ!!
───
スキル爆速強化
スキルポイント 0
スマッシュ (LV.31/100,000)
筋力向上 (LV.1/100,000)
体力向上 (LV.1/100,000)
素速さ向上 (LV.1/100,000)
───
女神官を助けるのが最優先。女神官を掴んでいるオークの背後から強襲───無我夢中でスマッシュを仕掛ける。
ブンッッ!!!
今まで聞いたことのない音を立てながら大剣を振り下ろす。
大剣が脳天に直撃し、そのままオークの体を真っ二つになる。そして今まで感じたことのないような激痛に襲われる。肩が外れた時と同じ痛みだ。
「えっ!?」
「「ゴフッ!?」」
驚く女神官とオーク。
突然のことに棒立ち状態になっている2匹目のオークにもスマッシュを仕掛ける。
オークは石斧を掲げて防御しようとしたが、石斧を砕きそのままオークの頭をかちわる。
鋭い痛みが腕に走り感覚がなくなる。
「お前も死にたいか!」
僕は残りのオークを威嚇する。
3匹目のオークは気圧されたのかジリジリと下がった後に大慌てで逃げ出す。
オークの気配がなくなるまで剣を構え続け、気配がなくなると張り詰めていた緊張が解ける。体が思い出したように疲労を訴え始め、右腕に激痛が走り剣を落とす。膝をガクリと突いた。
「大丈夫ですかっ!?」
女神官が慌てて近付いてくる。
「大丈夫じゃないけど大丈夫かな。はははっ……」
右腕が死ぬ程痛い。右腕を確かめると青アザだらけで肘から骨が突き出ている。
女神官も僕の腕の状態を視認すると、痛々しそうに顔を歪める。
「酷い・・・。傷はすぐに癒やします! ヒール!」
女神官が僕の右腕に手をかざすと手の平からほのかな光が生じて温かく気持ちいい。痛みが和らぎ突き出た骨も収まり傷も完治する。
「すごい腕前だね。ありがとう」
「お礼はこちらの台詞です! 助けてくださりありがとうございます。挨拶が遅れました。モラルと申します」
「僕はジャスティスだよ」
女神官、モラルがはにかむ。
それとなく確認するとモラルに怪我なさそうだ。間に合ってよかった。
「話したいことは色々あると思うけど一旦ここから離れないか?」
「分かりました」
僕が提案するとモラルはちらりとオークを見た後にコクリと頷いた。
<スキル爆速強化によりスキルポイントを10取得しました>
ん???
どういうこと!?
オークこそが陵辱の王道だと思う方はブクマをお願いします。
ゴブリンこそが陵辱の至宝だと思う方は☆5お願いします。
2021/10/24
いきなりスマッシュに全振りするのは唐突すぎな感じがして、ちょっとずつ割り振りつつ、後でまとめてドバーッっとに変更。結局そうやっても唐突感は拭えないわけですが。ここら辺のスキルポイントとスキルレベルの運用方法はヘルモードをもっと勉強する必要がありますね。オークやっつける前に雑魚モンスターをやっつけて、レベルアップ、スキルレベルを上げるの予行練習させた方が良かったかも。