迷子
カタリナさんから配達依頼を受注した後に商人ギルドに向かい、冒険都市シヘンから王都レペンスへ向かう馬車持ちの商人を探した。
自分達も便乗させてもらう代わりに護衛をかって出るわけだ。
ちょうど護衛を募集していた商人がおり、初めは僕達が若いからと相手にしようとしなかったが、スマッシュを実演すると見る目を変えてくれた。そして商人と共に3日間の旅を経て王都レペンスへと到着した。
「無事に王都に辿り着けたぜ。兄ちゃん達、ほんといい腕前してるな」
「まだまだ至らぬ身ですが、お役に立てたなら何よりです」
商人がニカっと気持ちの良い笑みを浮かべる。
道中でコボルトを倒した時のことを記憶に残しているようだ。
まとまっていた所をソニックブームで一撃だ。相手の隙を上手く突けたと思う。
「また都合がつくようならよろしく頼むぜ。じゃあな!」
「ええ、良い商売を」
商人の馬車は徐々に小さくなり消えていった。
「無事に王都にもつけましたし、幸先いいですね」
「ああ、これなら配達もすんなり済みそうだな。───それにしても王都というものは凄いもんだな。建物が均一に並んでるよ」
「そうですね。シヘンとは街の雰囲気が違う感じします」
モラルが町並みを眺めながら呟く。
冒険都市シヘンでは周囲の建物と高さがバラバラに建築されていたが、王都レペンスでは建物の高さが均一だ。
それに街を歩く人達の服装も男性ならパリッとしていたり、女性なら可愛げなフリルをつけたものが多いような気がする。街全体が見慣れないためか何を見ても目移りする。
「配達が終わったら、少し街を散策してみないか? エレーヌさん達にお土産とかも買っていきたいし」
「いいですね! 何を買っていったら喜んでくれますかね」
モラルが鼻歌でも歌い出しそうな表情で嬉しそうに悩んでいる。贅沢な悩みってやつだよな。ずっとクエスト詰めだったから路銀はそれなりにあったりする。お店を冷やかしながら散策。面白いと思う。うん、いいな。
「楽しみが出来たところで、もうひと頑張りしよう。なぁに今回はすぐに終わるさ」
「ふふっ、気を抜いちゃいけませんよ? ジャスティスがそんなこと言って、簡単に終わった試しないですよ」
モラルが右手の人差し指を立てながら険しい表情を取る。しかし、厳しさよりも可愛さの方が強調されてるような気がする。指摘するとモラルが怒るから黙ってるけどさ。
「そうだね。手は抜かないさ。毎回それで痛い目に見てるからね」
「ジャスティスも懲りないですよねぇ。毎回そんなこと言って失敗してるんだから」
「だから今回こそは気をつけるよ。カタリナさんが用意してくれた地図出してくれる?」
「ちょっと待っててください」
モラルがゴソゴソと懐から地図を取り出す。
配達先であるレオン子爵のまでのルートを記載されている。これ通りに行けばいいわけだ。
「それじゃ行こっか」
「出発です!」
◇ ◇ ◇ ◇
配達がてらに王都を散策しているわけだが見ていて飽きない。
入った直後の整然した町並みから、奥に進んでゆくと徐々に生活の匂いが感じられる。町並みは段々ごちゃごちゃしてきた。僕はこういうのも好きだ。……ある一点を除いてだが。
「モラル、地図通りに進めてるかな?」
「違うような気がします……」
モラルが眉をヘの字にしながら地図と道を見比べる。
僕も地図を覗き込むが、地図上では二手に分かれている道が三叉に分かれている。地図が古いのかも知れない。
「こりゃ駄目だね。大通りまで引き返した方が良いかも知れない」
「折角半分進んだのに? このまま直進して大通りの道を探してみるのはどうですか?」
僕とモラルで意見が対立した。
初見の場所で横着するのは良くないと思うのだが。
モラルは街に危険がないと判断して横着しているのだろうか?
進むか戻るか判断に迷った所で路地裏から口論の声が聞こえてきた。
「あ、あんた達何なのよ! ち、近づくんじゃないわ。パパに言いつけるわよ!」
「へへっ、お嬢ちゃんよぉ。そんなこと言わずおじさんと仲良くしようぜぇ」
「マリアには指一本触れさせないぞ!」
「「「ギャハハハ!!!」」」
少女と少年、成人の男性と思われる男達の声。
路地裏で牧歌的な交流は全く想像出来ない。ゴブリンが人間をいたぶる時に上げる時に発するものと同じだ。
僕はモラルの顔を見る。
「モラル、行こう!」
「勿論!」
僕とモラルが駆け出す。
裏路地に向かうと予想通りの光景が広がっていた。
袋小路で、少年と少女が背を壁に向けている。
そんな二人を3人の男がショートソード片手に囲んでいる。
「お前達、何をやっているんだ!」
僕はなるべく声を大きく出した。
するとギョッとしたように全員の視線が僕に集まる。
僕は男達の様子を確認する。
3人とも30後半から40台前半だろうか。
髪の毛はボサボサで口には無精髭を生えている。装備している革鎧もショートソードも手入れがされている様子はない。紛うことのない、ならず者だ。
そんな男達は僕とモラルを確認すると拍子抜けしたような表情をした後に、侮りへと変化する。
「あっ? 坊主、おめえは関係ねえだろ。痛い目みたくなかったらどっかいってろ」
チラリと、少年と少女を見る。
少年は男達に剣を突きつけ、少女は助けを求めるようにこちらを凝視している。
「断る。あの子達を見逃せ!」
「調子に乗んじゃねえぞ小僧!」
僕と押し問答をしていた中央の男が僕に向かって駆け出し、切りかかってくる。……しかし、遅い。手を抜いているのか?
剣を余裕を持って避ける。ついで足を引っ掛けると男は勢いよく転んだ。転びすぎじゃないか?
転んだ男はヨロヨロと立ち上がる。
「気をつけろ、このガキ強えぞ!」
「ノローマの振りかぶりを躱すなんて何者なんだ」
「3人で襲いかかれば俺達は無敵だぜ!」
男達3人が僕に襲いかかってくる。
残りの二人も強さはノローマと呼ばれた男と大差ない。
攻撃を躱し、拳でスマッシュ<クイック(刺突)>する。
パアァアンッッッ!!
鋭い一撃が男達のアゴや手首、腹を叩く。
アゴを叩いたノローマは切れた操り人形の糸が切れたように地面に倒れる。
手首を叩いた男は剣を落とし、腹叩いた男は両手で腹を抑え、顔を青くさせている。
「くっ、くそ。覚えてろよ!」
「今日は本気出してないだけだからな!」
失神したノローマを回収して撤退する二人。
「ジャスティス、捕まえなくていいの?」
モラルが呆れ混じりの表情で僕に確認する。神聖魔法で追撃をかけるのかの確認だろう。
「いいよ。あんなのより、あの子達の方が重要でしょ」
「それもそうですね」
彼女にしては珍しく肩をすくめて同意した。
僕は少年、少女に目を向けた。少年は困惑しながら剣を構え、少女も恐る恐るこちらを覗き混むような感じだった。
少年は13歳位か。僕よりも体格が小さく、衣服はあまり上等ではない。薄茶の服に継ぎ当てが多く見た目がちょっとカラフルだ。でも清潔感はちゃんとあった。
少女は10歳位か。少年とは対照的に薄ピンク色のフリルがついた上等な衣服に身を包んでいる。
「二人とも大丈夫だったかい? 怪我はなかったかい」
努めて明るく、僕は声をかけた。
するとワンテンポ遅れて少年が返事を返した
「うん、俺は大丈夫だよお兄ちゃん。助けてくれてありがとう」
少年は剣を仕舞い、頭を軽く下げた。
年の割にしっかりした子だと思う。
「剣士様、神官様、助かりました」
少年の前に出て、少女はスカートの裾を上げて挨拶した。
この子はこの子でしっかりしている。金髪碧眼。意志力が強そうだ。
「当たり前のことをしただけだよ。とりあえずさっきの男達が戻ってきたら面倒だからこの場を離れようか。大通りに出よう」
僕が提案すると、チラリと少女は少年を見た。少年はコクリと頷く。
「分かりましたわ」
少女の返事を確認して僕は踵を返した。
男達と争ったあたりの場所で黒い金バッチが落ちていた。
手首だけが描かれており、しっかり握手している。
男の手がかりになるかと思い、僕は近バッチを懐にしまった。
<スキル爆速強化によりスキルポイントを1取得しました>




