昇格祝い
模擬戦を終えて僕達は訓練場のグラウンド整備を行っていた。
「いやぁ3人でやるとすぐに終わって助かるわぁ」
「カタリナさんが土魔法使えてよかったです。穴を埋めるのは大変ですからね」
「ジャスティス君のスマッシュも凄いわねぇ。木槌で踏み固めるなんて驚きだったわ」
カタリナさんが土魔法で大穴を埋め、僕が『スマッシュ<クイック(刺突)>』で叩き固める。そしてモラルがブラシで見た目を整えた。
「それにしても、あなた達は本当に強かったわぁ。しかも礼儀正しいと可愛いし。ふふ、またお姉さんの実験につき合ってくれないかしら?」
僕が何と答えような逡巡したところで、モラルが割って入る。
「実験はつき合ってもいいですよ。但しジャスティスにベタベタくっつかないでください! 彼は殿方なんです。ご婦人が不用意に触るものではありません」
モラルの強めの語気にカタリナさんは面食らったように目をパチパチさせている。その後に穏やかに微笑む。
「モラルちゃん、ごめんなさいね。二人が可愛かったからナデナデしたかったの。私はあなたとも仲良くしたいの。友達になってくださらないかしら?」
「ジャ、ジャスティスにベタベタしないなら別に構いませんが……」
「まぁっ! 嬉しいわ!」
「わぷっ!?」
カタリナさんがギュッとモラルを抱きしめる。ギュッと。そしてモラルの頭をナデナデしている。
モラルの頭はカタリナさんの豊満な胸の中に埋もれてジタバタしている。
暫くして脱出するモラル。顔が赤い。
「と、突然抱きつかないでください! そういうのが良くないんです!」
「ごめんごめん。モラルちゃんが可愛いから許して? じゃあ、頭ナデナデならいいかしら?」
「ま、まぁ、その位ならいいですが……」
「ほんと? お姉さんとっても嬉しいわ!」
ご機嫌なカタリナさんと、やや納得いっていないモラル。
行きの時のような険悪な感覚はない。
僕も突然抱きつかれることがなくなったので、ドキドキしないで済みそうだ。
「それではグラウンドの整備も終わりましたし、冒険者ギルドに戻りますか」
「分かりました」
「分かったわぁ」
提案すると、モラルもカタリナさんも了承してくれた。
◇ ◇ ◇ ◇
「エレーナさん、只今戻りました」
「おかえりなさい。……結果はどうでしたか?」
「試験クリアしました!」
「それはよかったですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
エレーナさんが穏やかに微笑する。
ちょっと子供っぽいと思いつつもエレーナさんに褒めてもらえて嬉しくなってしまった。
「エレーナちゃん、この子達すごいわねぇ。まさかゴレムス君がやられちゃうとは思わなかったわぁ」
「えっ、倒せたの!?」
「そうよぉ。流石エレーナちゃんのお気に入りねぇ」
「そう……」
何かを思案するように黙り込むエレーナさん。
「あ、あのエレーナさんの。もしかして、ゴレムス君、倒しちゃいけない感じでしたか……?」
何か悪いことをしたのかと思い、恐る恐る尋ねた。
模擬戦だから勝たなきゃいけないと思っていたのだが。
「ふふふ、倒してよかったんですよ。ただ、倒せると思ってなかったから驚いただけです」
「えっ、それってどういうことですか?」
「最初から倒せない前提でゴレムス君と戦ってもらいました」
「それって、私達にいじわるしたんですか?」
ちょっと拗ねたようにモラルがエレーナさんに文句を言う。
「そうじゃないですよ。昇格すればお二人も遺跡やダンジョンに潜る機会もあるでしょう。その際に単純な物理攻撃が効かない相手が出現したらどうしますか?」
「うっ」
モラルが苦い表情をする。
「事前の知識、洞察力がものを言いますね」
僕は横から口を挟んだ。
エレーナさんはコクリと頷く。そして言い含めるように続ける。
「そうです。そういうモンスターと遭遇するかも知れません。その予行練習と思ってゴレムス君と対峙してもらったのですが……」
「エレーナはねぇ、ゴレムス君の再生の仕組みに検討がつけば合格させるつもりだったのよ」
「なるほど……」
胸中で僕も同意する。
僕一人じゃどうやって倒せばよいのか見当はつかなかった。僕は魔力の流れを関知することが出来ないのだから。
モラル一人でもゴレムス君に捕まっていたことだろう。僕とモラル、二人だったから倒せたんだと思う。
「エレーナさん、カタリナさん、貴重な体験ありがとうございました。より一層精進します」
二人にペコリと頭を下げる。
「微力ながら応援しますよ」
「実験つき合ってもらえて大助かりだったわぁ」
「ジャスティス、一緒に頑張ろうね。一緒に邪悪をやっつけましょう!」
温かい言葉を投げかけてくれる3人。心がじんわりと暖かくなる。
「……あ、ありがとう」
照れ隠しで僕は微笑んだ。
「ふふ、二人とも一人前の冒険者になりましたね。───識別票を受け取ってください。活躍を期待しています」
エレーナさんが机の引き出しから取り出した識別票を差し出してくれた。
「精一杯やらせてもらいます」
「いっぱいモンスターを皆殺しにします!」
僕とモラルは意思表明をしながら識別票を受け取る。
モラル、ほんとブレないな。エレーナさんも苦笑を浮かべている。
Eランクの識別票は銅で出来ていた。ややくすんだ金色のような色。見た目が美しい。
識別票の裏には僕の名前が彫られていた。誇らしい気持ちになる。
「この調子で魔王も邪神もやっつけちゃいましょう!」
「ははっ、モラルは大きく出たね」
モラルもやる気に満ちている。そして珍しく冗談を言っている。……冗談だよな?
こうして僕達はEランク冒険者に昇格を果たした。
◇ ◇ ◇ ◇
昇格の手続きを終えて皆と別れた。
やりたいことがあり、ポドラック爺さんの工房に向かった。
相変わらず建物の中から鉄を叩く音が聞こえてくる。
午前中と同じ作法で中に入り待つ。そして鉄を叩く音が止む。
「ポドラック爺さん、お陰様で試験に合格しました」
「ふん、そうかい。だったら何しにきたんだ?」
「採取した蓄光石の加工をお願いできませんか」
僕はカバンから蓄光石を取り出し、ポドラック爺さんに手渡す。
すると、ポドラック爺さんは、しげしげと蓄光石を確認する。
「小ぶりだが状態は悪くないな。これで何を作りたいいんだ?」
「首飾りとかをお願いできませんか。女性が喜びそうなやつを。神官がつけても問題なさそうなやつですと尚よいです」
何かを察したのか、ポドラック爺さんがニンマリと笑う。
「そうか、そうか。だったら儂も一肌脱がんとな。坊主も色付きおったか」
「いや、これはですね。日頃の感謝を込めて彼女にプレゼントしたいなと」
「ガハハッ! 一週間後にまた来い。腕を奮ってやるから安心しろ」
「よ、よろしくお願いします」
一抹の不安もあるが、やるべきことはした。
明日も冒険を頑張ろう。
事後処理が思ったより嵩張ったので、次話から第2部スタートで。
色々とあれこれ考えてみます。この子達、自発的には遺跡やダンジョンに潜らない気がする。
 




