一人前の冒険者
「私の試験は厳しいわよ。ゴレムス君、ゴー!」
僕達に向かってカタリナさんはビシリと人差し指を指す。何かノリノリである。
ズシン、ズシンとゴレムス君が歩きだす。地面を踏む度に大地がわずかに揺れる。
ニコニコ顔をした4mのゴーレム(土人形)が近づいてくる。威圧感が半端ない。
「ゴレムス君と戦うなんてやだよぉ」
ここにきてモラルは何か泣きそうになっている。いつもより言動が幼い。
ゴレムス君はこちらにおかまいなしで、ヌッとぼくに向かって両手を伸ばして掴みかかってきた。
ブオンッ! バックステップで回避する。
「モラル、危険だから後ろに下がって!」
「は、はいっ」
間近に迫るゴレムス君を見てモラルは正気に戻り後ろへ下がる。
ゴレムス君は手近にいる僕へ狙いを定め、前かがみになりながら掴みかかってくる!
……しかしその巨体ゆえに動きは緩慢だ。ゴブリンよりも遅い。躱せない道理はない。反撃に転じる。
「スマッシュ<クイック(刺突)>!」
ゴレムス君の樽より大きな右手から指を削ぎ落とす。
ゴレムス君は平然とはしているが、ダメージを与えられることに安堵する。骨は折れるが無力化することは可能だ。四肢を切り落とすことが出来れば勝利扱いになるんじゃないのか。
───取らぬ狸の皮算用をしていたところで想定外の事態が発生する。
周囲の大地が10cmほど陥没する。異変を察知して慌てて後方に下がる。スキルの前触れか!?
ゴレムス君の様子を注意深く観察する。右手から削ぎ落としたはずの指がニョキニョキと生えてくる。
「えっ?」
僕は思考が一瞬停止する。目を瞬きする。
時間にして10秒。ゴレムス君の指は完全に復元した。
「何で!?」
「うん。復元の具合はまずまずね。───ジャスティス君、無理だと思ったらギブアップしてね。ゴレムス君はキミを捕まえるまで止まらないからぁ。」
「ズルイ!」
思わず本音が漏れる。
攻撃が効かないのだったら諦めがつく。攻撃は効くけど無力化される事態は想定外だ。どうやってゴレムス君を倒すのか?
まずはホウレンソウだね。
「モラル! 何か分かったことはあるか?」
「大地が形が窪んでいるから、魔法の力で再生したものだと思います。具体的な仕掛けは分かりません!」
「じゃあ、僕が攻撃を仕掛け続けるから見極めてくれ!」
「分かりました!」
モラルは、ゴレムス君を捉えて見据えている。
僕は一人でゴレムス君と戦っているわけではない。二人で戦っているんだ。
今までの冒険がそうであったように、モラルの洞察力や着想で事なきを得たことがたくさんある。
例えばゴブリンの巣穴で、ホーリーライト(破邪の光)を叩き込んでゴブリンを一網打尽にしてしまうなどだ。
すぐに答えが見つからなかったしても、戦っているうちに答えが見つかるはずだ。僕は僕の役割に徹しよう。
「はぁっ!!」
ゴレムス君が繰り出す拳を躱しつつ手・足・胴体を斬りつける。
どこを切りつけても同じ速度で再生し、その度に少し大地がえぐれる。
そしてゴレムス君は意にかえさずに襲いかかってくる。
再生に限度回数があることを期待したがそれも期待しない方がよさそうだ。
「ジャスティス君よく動くわねぇ。それに慌てた様子もないし」
「ッ、冒険者ですから!」
「男の子っていいわねぇ〜」
のほほんとしているカタリナさんに虚勢をはる。
今はゴレムス君の攻撃を躱し続けてはいるが、向こうは疲れ知らずだ。打開策が見つからないのであればこちらが疲労困憊になり捕まってしまうだろう。
───現状を打開する選択の一つとして、カタリナさんに襲い掛かるというのもある。
ゴレムス君のマスターであるカタリナさんを無力化出来れば、ゴレムス君も停止するかもしれない。
カタリナさん自身は戦いの心得もなさそうだ。制圧すること自体はそれ程難しくないだろう。
もちろん、そんなことをするつもりはない。
カタリナさんは確かに模擬戦の相手はゴレムス君と言ったのだから。ギャラリーに手を出すのは明確なルール違反だ。なのでゴレムス君に専念する。
「モラル、何か分かったか!」
「頭部を吹き飛ばしてください! 自己再生しようとした際に頭部に魔力が集中しています!」
「分かった!」
僕はゴレムス君の頭部に狙いを定める───。ゴレムス君の身長は4mもある。このまま剣を振り回したところで首を吹き飛ばすことは出来ない。
転倒させるか、足を切断出来ればいいのだが案外それも難しい。こちらが攻撃をしかけている間にゴレムス君に捕まる恐れがある。足を止めると流石に捕まる。捕まった後に脱出できる保障はない。
───ちょっと試してみるか。
ゴレムス君の足回りに斬撃をお見舞いして撹乱する。その後に距離を多めにとるためにバックステップ。
ゴレムス君を真正面から見据えて、大剣を両手に構える。
妹のエイルが放ったソニックムーブを思い浮かべる。
「スマッシュ<ジェットストリーム(真空砲)>!!」
上段から大剣を振り抜く。
轟!と大気が軋みをあげながら斬撃がゴレムス君の頭部に着弾し吹き飛ばす。
吹き飛ばされた頭部は空中で更に粉々になる。粉々になる過程で元のサイズのゴレムス君がカタリナさんの足元にポテっと落ちて体をジタバタさせて藻掻いている。
遅れて、僕の目の前にある巨大ゴレムス君の首から下はドシャァッッ!!!という音を立てて土砂に姿を変えた。僕の背丈よりも大きな小山が出来上がる。
「ス、スゴイ……」
モラルが半ば呆れ混じりに呟いている。
「うん、すごい量の土砂だよね」
「凄いのはジャスティスの剣技です! 何ですかあの技は。いつの間に覚えたんですか」
「日々の稽古でちょっとずつ練習してたからね。実際に放てるようになったのはつい最近だよ。───それはそうと」
視線をカタリナさんとゴレムス君の方に移す。
「ゴレムス君、頑張ったわねぇ。イイコイイコ」
カタリナさんはゴレムス君拾い上げて優しく撫でていた。
ゴレムス君は手の中で駄々っ子のようにジタバタとしている。何となくだが悔しっがってるような気がする。
ゴレムス君が無事でホッとする。ああいう状況だとこちらも手加減して攻撃することも出来なかったから。後、ゴレムス君を労るカタリナさんが何だか微笑ましい。
「えーと、試験は合格ということで良いのでしょうか?」
「うん、合格。花丸合格あげちゃうわぁ」
「やった!」
「やりましたね!」
カタリナさんの合格判定に僕とモラルは思わず破顔する。
僕は両手の平をモラルに向けると意図を察してくれて、少し恥ずかしそうにしながらもハイタッチしてくれた。
その後にモラルは興にのったのか、それはもうバシバシと僕の手の平に向けて叩きつけてくれた。ちょっと痛い。そんだけモラルも嬉しかったんだと解釈する。
「二人ともすごいわねぇ。まさか負けるとは思わなかったわぁ」
「いや、僕達も勝てると思っておりませんでした。再生するゴレムス君を見た時はこんなの絶対無理だって悲鳴をあげちゃいそうでした。ははは……」
「うんうん。面を食らっちゃうわよねぇ。私もそれを意図してゴレムス君を魔改造したんだから。でもあなた達は冷静さを失わずにこうして目の前の窮地から脱している。名実ともに一人前の冒険者だわ。すごいわ!」
「「ありがとうございます!!」」
カタリナさんに褒められて体の中で嬉しさが爆発して、口が緩むのが押さえられない。両手を使って頬を引き締めようとすると、モラルも同じことをしていた。
「ははは!!!」
「フフフ!!!」
互いの姿を見て僕達は大笑いしてしまう。
こうして無事に勝利を収めた。
<スキル爆速強化によりスキルポイントを10取得しました>
お陰様で第一部相当の内容が完成しました。
立ち寄っていただきありがとうございました。
第2部からは、いよいよ実家との遭遇が始まるのですが、ノープランです。
なので考えるところからスタートしたいと思います。
今後ともよろしくお願いします。




