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サテを食べよう!

「二人とも無事ですか!?」


 モラルが僕達のところへ駆け寄ってきた。


「ああ、何とかね。モラル、プロテクションありがとう。ほんと助かった」

「し、心配したんですよ。ロープが流れていって中々浮き上がってこないし───」


 両目に大粒の涙を溜めてモラルが涙ぐんでいた。言葉が途切れる。

 参ったな。本当にヤバイとは思ったけどこんなに心配してくれたなんて……。元気をアピールしないと。


「僕がしぶといのはモラルも知ってるだろ。こんなのヘッチャラ、ヘッチャラ」

「……」

「あ、あの、モラルさん……」

「ッ……心配したんだから! うわぁぁん!!!」


 泣きながらモラルが抱きついてきた。

 こっちはビチョビチョでモラルは濡れるのお構いなし。

 上手くいったつもりだけど、そうでもなさそうだ。


「……ごめんなさい」


 僕を心配してくれたモラルに猛烈に申し訳なさが湧いてくる。

 謝罪の気持ちを込めて頭を撫でる。

 傍にいるヤグ少年も冷静さを取り戻し、申し訳なさそうにしている。モラルに何と言葉をかければよいのか分からないからか口をパクパクさせている。ヤグ少年もフォローしたいけど、とりあえずモラルを優先する。

 暫くして大人しくなり、モラルは冷静さを取り戻す。そしてうずめていた頭をバッと上げる。


「……あっ、ヤグ君、ごめんなさい。私が取り乱しちゃ駄目ですね、ハハハ……」


 バツが悪そうにモラルが微笑む。

 ヤグ少年が首をブンブンと横に振る。


「い、いや、俺が落っこちたのがいけないんだ。モラル姉ちゃんは悪くないよ」

「ふふっ、ヤグ君は優しいですね。───二人とも待っていてくださいね。タオルを用意しますから」


 タオルをとりにカバンがあるところまでモラルは戻る。

 すると、ヤグ少年が神妙な顔で深々と僕に頭を下げた。


「ジャスティス兄ちゃん、ごめんなさい」

「次から無茶はするな」


 ポンポンと僕はヤグ少年の頭を撫でる。


「……うん」

「───無事でよかったよ」

「うん」


 ヤグ少年は顔を上げた。

 僕はこれでおしまいと笑う。

 ヤグ少年もぎこちなく笑い返す。


「タオル取ってきましたよ。体を拭いてください」

「「ありがとう」」


 モラルが手渡してくれたタオルでワシャワシャとふく。タオルが温かくて気持ちいい。

 そして一連の出来事を振り返る。

 正直、あの時は駄目かと思った。

 思いつきが上手くいって本当に良かった。あれで解決出来なかったら正直打つ手がなかった。

 改めてモンスターと戦うだけが冒険ではないと痛感する。可能な限り状況を想定して動ける練習をしたい。そのために魔法やスキルの活用方法を模索する必要があるだろう。

 例えばモラルのホーリーライトやプロテクションも使い方はあるはずだ。僕のスマッシュだって足で使えるようになれば高速移動とか出来たりするんじゃないのか?そんな想像をするとワクワクしてくる。


 チラッとヤグ少年を見る。

 いつもの元気さはなりを潜めている。

 責任感の強いヤグ少年はさっきのことを引きずっているのだろう。

 だったらちゃんと仲直りしようではないか。

 ウジウジしててもいいことない。こういう時こそ体を動かそう。


「ヤグ、蓄光石を採った後に剣術、冒険のイロハを教えるうという話だったよな」

「え? う、うん……」

「予定変更だ。冒険のイロハを教えるから一緒に蓄光石を採取しよう」

「え!? で、でも」


 気後れするヤグ少年。

 モラルが穏やかな笑みを浮かべながら僕を援護射撃してくれた。


「いいですね。3人で一緒にやりましょ?」

「う、うん……。やるよ」

  

 神妙にヤグ少年は頷く。

 本人の意思表明を確認してから僕は授業を開始した。


◇ ◇ ◇ ◇


「とりあえず火の起こし方、焚き火仕方からだ」


 そういって森林に落ちている枝を拾い集める。

 まだ乾ききっていない生木をヤグ少年が拾おうとすると僕は注意した。


「その枝は乾いてないから、となりの枝を拾って。乾いているか判断出来ないときは実際に折ってみるといいよ」

「分かった。ジャスティス兄ちゃん」


 実際に枝を折って、ヤグ少年は音を聞き分ける。

 生木は音が重く枯れ枝はパキっと高音がした。


 枝を集めた後に火打ち石の打ち方、火花から種火作り方も教えた。

 やってみせて、実際にやらせる。

 ヤグ少年は種火に息を吹きかけて火を成長させる。


「やった、ついたよ!」

「よくやったね、上手いよ」

「ヤグ君、おめでとう」


 自力で焚き火にをつけると、ヤグ少年は誇らしげに笑みを浮かべている。

 そして、3人で火に当たり体を温める。心身ともに温まったところで僕は本題を切り出した。


「それじゃ、蓄光石をもう一度チャレンジしよう」

「わかった。やるよ」


 そう言うとヤグ少年はスクっと立ち上がり、そのままの格好で慎重に川へ入ろうとする。僕は慌ててとめた。


「ヤグ、待って! 気を緩めずに始めるのも大切だけど準備してから入った方がいいと思うんだ」

「準備って?」

「例えばだけど体にロープを巻いて流されないようにするとかだね」

「なるほど、分かった」


 ヤグ少年がロープが巻かれている大岩の傍までゆく。

 すると、モラルがバンザイしたヤグ少年にぐるぐるとロープを巻く。


「これで安心だね」

「ありがとう。モラル姉ちゃん任せて」


 ヤグ少年は晴れ晴れとした表情でもう一度川へ向かう。もう何も怖くないと言うような自信を漲らせている。

 今度は過信もせず、流されない安心感もあってか、危なげなくヤグ少年は蓄光石を採取し川岸に戻って来た。  


「採ってこれたか?」

「うん!」


 満面の笑みでヤグ少年は蓄光石を見せてきた。

 手の平サイズのものを3つ採取してきた。


「でかした」

「へへへ」


 頭を撫でると、ヤグ少年はくすぐたったそうにする。

 僕は蓄光石を受け取る。エメラルド色のすべすべした石だった。触り心地がいい。川で洗われ続けてきたためか、角張った部分はなく丸っこい形状となっていた。

 蓄光石を一つ、ヤグ少年に渡す。


「初冒険記念にもらっとけ」

「ありがとう!」


 ちょっと誇らしげにするヤグ少年。

 壊れ物を取り扱うように蓄光石を懐に仕舞った。


 ───グゥゥ。

 ヤグ少年のお腹が鳴る。バツが悪そうに笑いながら後頭部をかいている。


「せっかくだから、『サテ』を捕まえて食べてみないか?」

「いいですね。賛成です」


 僕の提案に乗り気なモラル。そりゃそうだよな。元々食べてみたいって言ってたしな。


「じゃあ、俺が捕まえようか?」

「いや、僕がやるよ」


 ヤグ少年が提案し、自分でやる旨を伝えた。


「どうやって捕まるつもりですか?」


 不思議そうにモラルが尋ねる。

 僕達はサテを捕まえるための道具は持ってきていない。網、罠、釣り竿はない。


「スマッシュで捕まえられないかなと思って」

「えっ、どうやって?」


 口で説明するよりやってみせた方が早そうなので、僕はサテの魚群にそろりと近づく。


「スマッシュ<ヘヴィ(強撃)>!!」


 バッシャーン!!

 水面に渾身の力でスマッシュを叩きつけると5m程の水柱が出現する。


「えっ、ええぇぇぇえええッ!?」

「わっ、すごい!!」


 驚きの声を上げるヤグ少年とモラル。

 サテの魚群も持ち上げられ、川岸へと落下する。

 地面の上でサテがビチビチと跳ねている。


 やった。成功だ!

 僕は確かな手応えを感じた。出来ることはスマッシュしかないけど、使い方次第で様々なことが出来るのではないかと思っていた。

 その実験の一つが水面にスマッシュを叩きつけるとどうなるか? 実験は概ね成功だ。


「スマッシュすげぇ」

「スマッシュ万々歳ですね」

「はははっ、役に立てて何よりだよ」


 ホクホク顔でサテを回収する3人。

 全て回収すると12匹あつまった。

 そして素早く捌いて塩焼きにして食す。


「はぁ〜、幸せ……」

「うん、美味いね」

「でしょっ、村の名物だからね」


 うっとりとした表情でモラルはサテを食す。

 僕もモラルに続いて食べてみたが、噛みしめればば噛みしめるほど口の中に淡い甘みが広がる。これだったら何匹でも食べれるぞ。

 誇らしげにヤグ少年は村自慢をする。


 この時ばかりは試験のことを忘れて舌鼓をした。

 採れたてのサテは美味い!

一次試験でここまで引っ張るつもりがなかったのですが、一次試験はこれにて終了です。

色々と拙いですが、より良いものを作れるように精進してみます。

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