1次試験 採取依頼
冒険者ギルドの建物前で僕とモラルは立ち往生している。
「蓄光石とはどこで入手することが出来るんでしょうね……」
モラルは眉をハの字にして僕に微笑んできた。
蓄光石とは、受付嬢エレーナさんが指定された採取対象のアイテムだ。昇格試験に合格するためには蓄光石を採ってくる必要がある。
名前から推察すると光を蓄える石なんだろうけど……。
「僕も心当たりがないかな……。まぁ、分からないのを探すの込みで試験なんじゃないのかな?」
「そうですよね……。分かってくるものを採ってきてなんて、簡単すぎですよね」
「そう思うよ。分からないなら調べればいいだけだよ」
「ですよね! でも、どうやって調べたら……」
モラルの問いに僕は腕組みしながら考える。
多分だけど冒険者ギルド内にあるモンスター図鑑なり、冒険者チュートリアルといった文献に目を通せば採取方法などが載っていると思う。但し、それでいいのだろうか? 1次試験はアイテム採取、依頼を達するための思考力・判断力が問われる試験だ。冒険者ギルドの力を借りずに探すことに意味があるのではないだろうか。
とするならば、間接的であれ冒険者ギルドの力は借りない方がいいだろう。
自分が知らない以上、人に聞くなり書物を読む必要がある。
冒険者ギルド以外で蓄光石について心当たりがある人は誰だろうか? 真っ先に浮かぶのはあの人だ。
「ポラドック爺さんに聞いてみるのはどうかな?」
「グッドアイディアです! 鍛冶屋のポラドックお爺さまならご存知かもしれませんね」
モラルが得心いったように両手をパンッ叩く。先程まで曇っていた表情が晴れ晴れとしたものになった。
ポラドック爺さんは、僕の武具の面倒を見てくれる鍛冶師のドワーフだ。
スマッシュを多用する関係で、大剣の損耗が激しい。
職人一筋で気難しい人だけど、安心して大剣を振るえるのはポラドック爺さんのお陰だ。
「うん。だから途中で酒屋に立ち寄って火酒を買ってくよ」
「名案です。ポドラックお爺さまは火酒に目がないですしね」
ポドラック爺さんの飲みっぷりを思い出しているのか、モラルは朗らかに笑う。
ついでにソーセージも買ってくか。酒に肴があれば門前払いはされないだろう。
火酒とソーセージを調達した後にポドラック爺さんの工房を目指す。工房はメインストリートから離れた鍛冶ギルドの一角にはある。
辺りからはカンカンと鉄を叩く音が絶えず、石炭の煙がモクモクと天に昇っている。
そんな一角の最奥にポドラック爺さんの工房がこじんまりとある。
建物は年季が入っていて───ボロい。しかし、掃除は行き届いており清潔感がある。
工房の中からカンカンと鉄を叩く音がする。
僕は大きく息を吸い───
「ごめんくださーい!」
金属音に負けないように挨拶するが───いつもどおり反応なし。鉄を叩く音だけが聞こえてくる。
「取り込み中ですかね……」
モラルがちょっと困ったように首を傾げる。
「ここで待ってても仕方がないから、いつも通りお邪魔だけさせてもらおう」
「ですよねぇ……」
「お邪魔します」
ペコリと頭を下げて工房にお邪魔する。
こじんまりした工房の最奥にある炉の前で、小柄だけどずんぐりとしたドワーフのポドラック爺さんがいる。
台座に乗せた剣をポドラック爺さんは一心不乱に叩き続けている。その後に炉に剣を突っ込む。暫くしたら剣を炉から抜き取り台座で叩く。
そんな姿を僕とモラルは邪魔にならないように、5m程離れた場所からじっと見ている。
モラルは女の子だけど、鉄を叩く際に生じる火花を見るのが好きだ。興味津々にいつも眺めている。意外とお転婆なのかも知れない。
───暫くして叩いていた剣を水に浸ける。するとと『ジュッ!』という音を立てて朱色が鋼色へと変わる。
その後に剣を自身の眼前にかざし出来栄えを確認した後に、ボドラック爺さんはギョロリとした目を僕達に向けた。
「坊主と城ちゃんか。また大剣の修繕依頼か? この馬鹿力め」
「ポドラック爺さん、こんにちわ。今日は修繕依頼じゃないです。───後、大通りでこれ買ってきました。よかったらどうぞ」
カバンの中に入れておいた火酒とソーセージを僕はポドラック爺さんに差し出した。すると、不機嫌そうな顔が和らぐ。話に聞く耳持ってくれたようだ。
「準備いいじゃねえか。ワシの作業を邪魔せず待ったり、手土産持参するところは冒険者にしちゃ出来てると思うぞ」
「いつもお世話になってますからね」
「で、今日は何のようだ?」
「蓄光石って知ってますか?」
「知ってるぞ。日中に浴びた陽の光を夜になると薄ぼんやりと放つ鉱石だ。加工して夜間用の照明だったり工芸品に使われたりするが、どうしたんだ?」
ラッキー! ドンピシャだ。僕はモラルに顔を向けると、モラルも嬉しそうにこちらに頷く。
「実はですね冒険者ギルドの試験で、蓄光石を採取してくるように言われたんですよ。どこで採取できるか心当たりありませんか?」
「蓄光石の採取出来る場所か。幾つかあるんだが……」
思案するようにポドラック爺さんは自身のヒゲを撫でる。そして続ける。
「近場で採取できる所となるとソトヘム村だな」
「ソトヘム村……」
「ヤグ少年がいる村ですね!」
「あそこか!」
モラルの補足で、場所と名前が一致する。
ヤグ少年は僕達が初めての薬草採取をした時にゴブリンから助けた少年だ。その後も交流は続いていて、薬草採取の際に立ち寄って薬草をおすそ分けしている。
「ツテがあるなら良かったじゃねえか。ソトヘム村の近くに川があってな、川底に蓄光石が転がっている。川の利権はソトヘム村で管理しているから蓄光石を採取するなら村長に許可をもらった方がいいぞ」
「ポドラック爺さんありがとう。早速行ってきます」
「おう、気をつけてな。武具の修繕にアイテム制作まで出来ることはやってやる。必要なときにくるんだな」
話はお終いだと言うように、ポドラック爺さんは僕達に背中を向け、剣と向き合った。
僕とモラルはポドラック爺さんにペコリとお辞儀して工房を退出した。
次に目指す場所はソトヘム村だ。
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