ジョブ診断と追放
「これよりジョブ診断の儀を始める」
「「はい、父上」」
春先の日中。
男爵家である僕の家でジョブ鑑定士を招いてジョブ診断が行われようとしていた。
ジョブ診断は15歳の成人の儀に合わせて行われる大切な行事だ。なぜなら人生の進路がここで決まるといっても過言ではないのだから……。
「なぁに、心配することはない。ジャスティス、お前は訓練を怠ることはなかった。きっと良いジョブを授かるだろさ。ハッハッハ」
父上───カットナルは僕───ジャスティスに笑いかけてくる。その笑みに一片の曇りもない。
「そう願いたいものです」
父上に当たり障りない返事をする。この日のために厳しい修行を積んできた。だからといってレアジョブが約束されているわけではない。結果が出るまでは気を抜くことは出来ない。
家柄に恥じぬために伝説の剣聖とは言わないが、せめて剣闘士や戦士といった前衛型のジョブを授かる必要がある。
「と、父さん。ぼ、僕も頑張るよ!」
腹違いの妹───エイルが父上に意気込みを伝える。
「ん? ああ、お前も頑張るんだな」
父上がエイルに言葉とは裏腹にぞんざいに返事し、そのまま別室にいるジョブ診断士の所に行ってしまった。
父上が部屋から退出するとエイルの肩が丸まりうなだれ、僕は肩を叩いて励ました。すると、弱々しくエイルが微笑む。
「ジャスティス兄さん、優良ジョブを授かれるかなぁ。これ以上父さんを失望させたくないよ」
「安心しろ。神様はちゃんとエイルのことを見ている。きっといいジョブを授かれるさ」
剣の稽古を頑張ってはいるが体格に恵まれず運動があまり得意ではないエイルは父上から煙たがられている。
剣一つで成り上がった新興貴族の家系だからか強さこそが全てとされている。優良ジョブを授かって父上から認めてもらいたいのだろう。
暫くすると父上がジョブ診断士を連れて入ってきた。
「では、よろしく頼む」
「ええ、おまかせ下さい。───ジャスティス君、前へ」
「はい!」
若干緊張しながらジョブ診断士の前へと出る。
ジョブ診断士は水晶に手をかざしながら診断を進める。
僕はかたずを飲んで結果を待つ。どんなに今まで頑張った所で先天的な資質が確定するジョブ診断でポカしたら何も取り返しがつかなくなる。
「診断結果が出ました! ───ん?」
ジョブ診断士の表情が曇り、僕は嫌な予感がする。
「ジャスティス君が授かったジョブは『ヒーロー』です」
「おお、それは随分と頼もしそうなジョブではないか。で、何が出来るのかな?」
「はぁ・・・、私も初めて鑑定したジョブですのでわかりません」
ジョブ診断士の回答に思案顔になる父上。
「まぁいい。後で模擬戦を行えば分かるからな。ジャスティスが授かったジョブならば間違えあるまい。では、エイルのジョブ診断もついでに行ってくれ」
診断結果が分からず仕舞いで悶々とした気持ちになりながら脇にどく。
ジョブ診断士の前に立ち、直立不動でカチカチに固まってエイルが診断を受ける。
ジョブ診断士はクワッと目を見開き診断結果を告げる。
「エイル君のジョブは『剣聖』です!」
「えっ!?」
「なんだとっ! でかしたぞ!!!」
興奮するジョブ診断士と父上。エイルは困惑し、その後に状況を理解して喜ぶ。
「ぼ、僕が剣聖だなんて……」
「なんて素晴らしい日なんだ。流石は儂の血を引くだけはある。いやぁめでたい」
父上がエイルの頭を撫でると、エイルは顔を綻ばせる。
よかったなエイル。そして正直エイルが羨ましい。剣聖と言えば全剣技を使用できるレアジョブだ。つまりあらゆる技を使いこなしどんな局面でも活躍する事ができ、相手の弱点を突くことが出来る。その対応力こそが最強ジョブとされる。
ついでに自分のスキルも確認してみる。果たして『ヒーロー』とはどんなジョブなんだろうか?
───
菴墓腐縺薙l縺瑚ェュ繧√k?
スマッシュ (LV.1/10)
───
……これは何だ?
僕の出来る事ってこれだけなのか?
剣技の基本スキル───最弱スキルスマッシュとよく分からないスキルのみ。ひょっとして『ヒーロー』は外れジョブなのか?
「よしお前達、模擬戦を行うぞ。ついてこい」
父上は機嫌良さそうに部屋を出る。
エイルも晴れ晴れとした表情で部屋を出る。
僕は不安を抱えながらノロノロと部屋を出た。
庭先で僕はエイルと対峙する。審判は父上だ。
「ではお前達の実力を示してくれ。───始め!」
父上の掛け声をもとにこちらから仕掛ける。
勿論、僕が使える唯一のスキル。スマッシュを繰り出す。
───ブンッ!!
力の入れ具合、フォーム共に完璧。力強い一撃を繰り出すが、エイルに軽々と上段から受け止められる。
返す刀で僕は弾き飛ばされる。
「えっ?」
弾き飛ばした当人、エイルが戸惑いの声を上げる。
「ジャスティス、何を遊んでいるんだ。遠慮はいらんのだぞ?」
父上は、当惑したように僕に声をかけてきた。
「ハハハ……」
……僕は笑うしかない。
本気でやってこれなのだ。どうやら『ヒーロー』は攻撃系の職業ではないのかも知れない。
エイルよりも僕の方が体格は大きい。なのに小柄なエイルに僕は吹き飛ばされている。……ジョブ補正のせいだ。
ジョブを備わると、能力値が底上げされる。例えば筋力向上や体力向上といったパッシブスキルを自動的に備わるわけだ。剣聖は全剣技以外にもパッシブスキルも沢山取得出来る。人間の価値は授かったジョブによって決まる事実をまざまざと見せつけられる。
立ち上がり、文字化けしていたスキルに一縷の望みを託して愚直に剣を振るう。
「<ソニックムーブ>!」
「グアっ!」
エイルが仕掛けた衝撃波を飛ばす剣技をモロに受け、3回転程しながら止まる。
立ち上がろうとするが体に力が入らない。木剣にもたれかかるようにヨロヨロと立ち上がる。
「・・・おい、ジャスティス。お前の出来るスキルを言ってみろ」
「・・・スマッシュとよく分からないスキルのみです。よく分からないスキルは使い方がわかりません」
父上の顔が茹でダコのように真っ赤になってゆく。
「貴様ぁっ! 俺の息子でありながら外れジョブを引くとは何事か!! 無能な人間はこのダンピエール家に不要だ。即刻出ていけ!!!!」
───こうして僕は実家を追放された。
ちゃんと完結させるのでお付き合いいただけたら幸いです。
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