プロローグ或いは幕間
ーーパシッ。
清廉な和室に石音が響く。
乾いた葦草が香る十畳ほどの空間。調度品はほとんど何も置かれていない。
あるのは正面の壁に設しつらえられた床の間と、そ
こに飾られた白紙の掛け軸。
そして、部屋の中央に置かれた碁盤だけ。
ーーパシッ。
盤上へと滑らかに指が運ばれ、真っ直ぐに黒石が打ち付けられる。
その手の持ち主は、床の間を背にして浅葱色の座椅子に腰掛ける和装の男だ。
彼はゆっくりと、一手々々の具合を確かめるように、一人で碁石を盤面へと並べてゆく。
「……ふむ」
ふと、彼の手が止まる。
それを見計らったかのように竹の音が響く。部屋の左手にある障子、その先からだ。
カコン。
障子の外に広がるのは波打つような砂利と苔生した大岩。
枯山水である。
造り込まれた園庭を囲うように立派な竹林が生い茂り、その先を見通すことはできない。
畏れすら抱かせる静謐な庭。
隠り世、そんな言葉がぴたりと嵌まる。
そんな霞たなびく枯山水の片隅には鹿威しが設置されていた。
枯山水には当然ながら水など無い。
しかし不思議なことに、竹筒は独りでに傾いてゆく。
やがて、傾きが限度を超えて勢いよく揺れ戻され、
カコン。
乾いた音が響いた。
和装の男が面を上げる。
柔和な表情である。そう見えるがしかし、その相貌は焦点が合わずにぼやけている。
「お客さんかな?」
妖怪変化か。あるいは神か。
和装を纏った無貌の棋士は、並べた碁石を片付け始めた。
いそいそと、嬉しそうに。楽しそうに。




