初めての友人
その新入生は周りを見てハッとすると口に手を当てて先ほどの失態をごまかそうとする。
「お、おホホホ。すみません皆様、少々驚いてしまったものですから。」
そう言うや否や僕の手をガシッと掴むとどこかに連れて行こうとする。
「ちょっちょっと! 僕自分がどのクラスかまだ分かってないんだけど!」
「それは大丈夫! 私がスマホに撮っといたからそれ見せてあげるよ!」
かなり押しの強い少女のようだ。しかし、前世の友人も同じような感じだったのでなんだか悪くないような気もする。
掲示板から少し離れた大木の近くまで行くと少女はようやく掴んでいた手を離す。
「君、一般入試受けてた人だよね! 試験受かったの!」
「あ、ああそうだよ、僕のことを知ってるって事は君も一般入試を受けてたのかな?」
「うん! 頑張って勉強したかいがあったよ! 私の名前は川崎 陽葵っていうの。これからよろしくね!」
「ああ、僕の名前は大路 尚人だ。これからよろしく川崎さん」
名前通りの明るい人だ。
一つ一つの仕草が大きく可愛らしい。
「もっとお淑やかな人たちばかりかと思っていたが川崎さんみたいな人もいるんだな。」
「むう~ それは私がとんでもないお転婆娘って言いたいのかなあ?」
思ったことを素直に声に出すと、彼女は頬を膨らませて怒ったような表情になる。
まあ、ちっとも怖くないし逆に可愛い・・・頬を触ったら怒られるだろうか?
「いやいや違うよ、陽葵さんは積極性が合って可愛らしい人でなと思っただけなんだ。誤解を招くような発言をしてすまない」
「かっ可愛い?!」
陽葵さんは照れるように手を頬の元に持っていきくねくねと腰を振って表情を緩める。
褒められ慣れていないのだろうか?
「っは! そういえば大路君のクラスをまだ確認していなかったね。ちょっと待ってね。」
そう言うとスマホの写真を拡大して僕のクラスを探しだす。
「あっあったよ! 私と同じ一組だよ!」
「おお! それじゃあこれからよろしくね川崎さん」
「あ、あの・・・できれば陽葵って呼んでくれると嬉しいなあなんて・・・」
上目遣いで少しもじもじしながら彼女は下の名前呼びを要求してくる。
(本当に社交性が高いなあ前世だったら確実にクラスのマドンナ的存在だったろうがここではどうなのだろうか)
「別に構わないよ、陽葵さんも僕のことを尚人ってよんでくれるかい?」
「えっいいの!」
「ああ、僕の方から頼んでる訳だしね」
「えへへ~。じゃっじゃあ・・・な、尚人・・・君」
少し遠慮がちに僕の名前を呼ぶ。
どうなっているのか彼女のサイドテールが嬉しそうにぴょんぴょん跳ね回っているのを見ると嬉しいらしいことが伺える。
「うん、じゃあそろそろ教室に向かおうか」
「わかった!」
太陽のような笑顔で返事をする彼女を見るとこちらも思わず笑顔になってしまう。
「・・・これでみんなより一歩リードかなあ」
「何か言った?」
「何でもないよ! それよりもクラスの皆はどんな人がいるんだろうね!」
彼女が何を言ったのかは聞こえなかったが、教室までの道中彼女とたわいない話をしながら移動し二人して笑い合っていた。
やはりいろんな人と交流出来る学校に来て良かったと改めて実感した。
教室に着くと黒板に名前とそれぞれの座席が書かれている事が分かる。
「尚人君、私たち座席隣だよ!」
確かに黒板をよく見ると僕と陽葵さんが隣同士の席だと言うことが分かる。
僕の席は教室の左側、中庭であろう場所がよく見える窓の近くで後ろから2番目の席である。陽葵さんは左から二つ目の僕の隣に位置する。
こんな偶然があるのかと驚きながら自分の席へと移動する。
既にその後ろの最後列には一人の女生徒が座っており、静かに本を読んでいる。
家系にロシア人の血が入っているのか、白い雪のような長髪を風に靡かせ碧眼の瞳は全てを見透かしていかのような美しさを秘めていた。
「読書中に申し訳ありません。目の前の席になった大路です、これからよろしくお願いします。」
「・・・あら?あなたは・・・一般入試を通過されたのですね。こちらこそよろしくお願いします。」
その声は非常に澄んでいてよく通る。
所作の一つ一つが美しく、その容姿からまるでビスクドールのようだと思ってしまう。
表情が全く変らないところを見るにあまり感情表現が得意ではないのかもしれない。
「私もよろしくね! 川崎 陽葵って言います陽葵って呼んで!」
「・・・ふふっ元気な方ですね。私は緒方 白雪と言います。白雪で結構ですよ。」
自分たちの自己紹介をしながら先生が来るまでの時間を過ごしていく。
入学初日でもう既に二人喋る相手ができたのは行幸だが、男子生徒とも話しをしてみたい。
それがこの学園に来た理由の一つでもある。この世界の男子がどういう存在なのか知るには男子本人に聞けば良いのである。
僕はいつ男子が入ってくるのかそわそわしながら時間を過ごした。