入学
今日は待ちに待った入学式である。
真新しい制服に身を包み姿見の前に立って着崩れが無いかの確認をする。
「よしっ!」
見た目というものは極めて重要なファクターである。
人が他人を見て決める第一印象はほんの数秒で決まってしまうと言われている。
その印象は後々までしつこく心にとどまり後の人間関係を大きく左右するのだ。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい、道中はくれぐれも気をつけてね?」
「うん!」
母さんはぎりぎりまで僕を車で送ろうとしてくれたが、流石にそこまで迷惑はかけられないと思い自分の足で行くから大丈夫と言ったのだ。その時母さんは「そういうことじゃ無いんだけどな~」と少し困った風に苦笑いしていたがどういう意味だったのだろうか?
一人で家を出るのは初めてだ。
ようやくこの世界を知っていくことが出来ると思うと胸の高鳴りが止まらない。
とりあえずスマホを片手に駅まで向かう。
道中に面白そうな店や子供の元気な笑い声が聞こえる。
通行人が皆一様に僕に視線を向け驚いたような表情を浮かべる。
おそらく僕の着ているこの制服が原因であろう、それ程までに才桜学園とはこの辺りの地域では有名な学校ということだ。
気恥ずかしくなった僕は少し早足で駅に足をすすめる。
駅に着くと切符を買ってホームへと向かう。
機械が変わっていたらどうしようかと思ったがそこら辺は前世と変わりが無いようだ。
ホームに着くと電車が来るのを待つ、後数分で来るようなのでそこまで待つことはないだろう。
待つこと数分。
(いや、おかしいだろう・・・)
現状に困惑する。
今僕の後ろには現在女性の長蛇の列が出来ている。
別に他の場所が混んでいたからという理由では決して無い。
それどころか他の場所はすっかすかで誰もいない。
明らかにおかしい現象に不思議に思うが、考えるよりも先に電車がホームに着いた。
電車に乗り込むと乗車していた人は一度僕を見た後頭を数度振り、己を嘲笑するように悲しい笑みをするとまた僕を見て目を見開く。なんでシンクロしてるんだ・・・すげえ
そして当然僕の後ろで作られていた長蛇の列は一つの号車に入りきれるものでは無く、他の号車へと分かれた。他の号車に移動した女性達の悲壮な表情が非常に印象的であった。例えるなら、まるで戦場で恋人を無くしてしまったかのようだった。
通路に立ちつり革を握って発進に備えていると、目の前に座っていた女性が急いで席を立って僕に座るように促す。
「どうぞ座って下しゃい!」
焦り過ぎてかんでしまったようだ。
顔を赤くして恥ずかしがっている姿が可愛らしい。出勤中のOLだろうかビジネススーツを着ている。
「いえいえ、大丈夫ですよ。女性をわざわざ立たせる訳にはいきません。」
「え、でも・・・」
笑みを浮かべ、努めて冷静に返答する。
女性は顔を赤くしながら再度座り直すが。目が合うと焦ったように目をそらす。
今の僕の感情は晴れやかとは正反対の絶望で染められていた。
(まだ、僕は頼りなく見えるのか・・・)
女性がわざわざ席を譲りたくなるほど弱く見える男。
僕は心の中で筋トレの量を増やすことを決意する。
尚人は自分の頼りなさで女性に気をつかわせてしまったと思っていたのだが実際の所はその考えとは異なる。
この世界の男性は基本的に電車の中では立たない。
というかそもそも男性専用の車両があるのでそちらに乗るのだ。
この女性に極端に比率が偏った世界では男性に会えることが既に貴重な体験であり、もし男性を見つけたら思わず触ってしまうような女性が少なからず存在するのだ。座っていた女性はそのことを気にかけ尚人に席を譲ろうとしたのだがそのことを知らない尚人は当然断り、自分の不甲斐なさが原因だと勝手に勘違いしたのである。
(なんかやけに人にぶつかるなあ・・・まあ、男に囲まれるよりは断然ましだからいっか)
学園のある場所は2駅隣なので数分で到着する。
短い楽園だったがその間から抜けて改札口に向かう。
駅から出ると少し先の方にもう既に学園が見える。
心を表すようにすこし弾んだ足取りで学園を目指す。
学園に到着すると満開の桜が入学を祝うようにその花びらを散らす。
まずは自分のクラス確認だ、生徒が集まっている塊があるのでおそらくあそこにクラス分けの表が貼ってるんだろう。その塊の後方に近づき内容が見えないかと目を細めるがよく見えない。
もう少し近づこうとすると近くにいた新入生にぶつかってしまう。
「あっ、すいません!」
「いえいえ、全然気にしなくて・・・って受験の時のイケメン!」
薄い綺麗な茶髪で髪をサイドテールにしている少女は僕を視界に入れるなり突然そう叫ぶ。
彼女のバックには笑顔のてるてる坊主が揺れていた。
次回、19時予定
面白かったら高評価とブクマしていただけるとやる気が出ます!