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受験

 それからあっという間に一年が過ぎ受験の日が来た。

  僕は受験会場に一人で行こうとするが、初めて外に出るからと母さんが無理矢理車に詰め込んで受験会場まで送られた。


  移動中に町の様子を眺めるが、男が全くいない事に驚き前世の記憶を知っている僕としては違和感が半端ない。


 車での移動をすること数分、ようやく目的の場所に着く。


 車から降りると、目の前には立派な校舎が目に入る。

  僕が今回受験する事になる場所――才桜学園、偏差値は全国でも上位に位置し、財閥の令嬢や大手会社の娘などの上流階級の生徒が多く入学するらしい。

 そして他の学校と比べ比較的男子生徒が多いのが特徴だ。

  それは、この学園の入学方法におおきな要因がある。この学院に入学しようと考えている男子は特別に軽い面接を受けるだけで問題が無ければそれだけで入学出来るのだ。ちなみに今までその面接で落ちた者は存在しないらしい。


 僕はざっと辺りを見回すが男子は一人も見当たらない。つまり僕以外の男子は全員面接で入学しようとしているのだろう。

 うん? じゃあ僕はって? 勿論僕は一般入試で入学するつもりだ。男子だからと特別扱いされるのはどうにも歯がゆくて性に合わないのだ。前世でも友人によく損のする性格だなあと言われていた。


 昔の記憶を懐かしく思いながら受験会場に向かおうとすると、母さんに呼び止められる。


 「尚人君、頑張ってね! き、緊張しないようにね。もしもの時はヒッヒーフーで落ち着くんだよ!」


 明らかに母さんの方が緊張しているし、その呼吸法を受験会場でやったら爆笑待ったなしだ。

 受験会場内でラマーズ法を実践する男子受験生! でSNSに拡散されたらどうしてくれるんだ。


 「落ち着いて母さん。僕より母さんの方が緊張しちゃってるよ。」


 「そ、そうね。とにかく最後まで諦めちゃダメよ!尚人君はやれば出来るんだから!」


 母の全肯定に少し恥ずかしくなるがそれ以上に有難いと思う。


 「うん!」


 自信に満ちた返事をし、母さんが笑顔になってくれたのを確認すると会場へと足を向ける。


 途中何人もの受験生であろう女の子に二度見三度見をして男が一般入試に来ていることに驚いた表情を浮かべる。どの女の子もどこか育ちの良さがその立ち振る舞いに現れており普通の家庭しか知らない僕は多少の緊張を覚える。


 会場の中に入ると自分に与えられた番号の席に移動し単語帳を開く。

 

 しかし、俺の周りの席の女の子が全く集中出来ていないことに気づく。頑張って教材を読もうとしているようだが途中で僕の方へ視線が来てしまうのだ。


 (これはいかん・・・)


 やはり男子が一般入試をするのはそれ程に異常なことだったのだろうか?

 僕のせいで彼女たちがこの学院に落ちてしまったら目も当てられない。


 僕は彼女達に目を向けると拳を握ってガッツポーズをし、


 「一緒に頑張って入学しようね!」


 と最大限のエールをする。

 すると彼女達は赤べこも賞賛を送ってしまう程の超高速で首を何度も縦に振り、教材に集中し出す。


 ふむ、ここまで集中できるんだったら先ほどのは単に休憩していただけかもしれないな。

 もしかしたら余計な事をしてしまっただろうか?


 僕も居住まいを正すと彼女達に習い単語帳を見始めた。



 試験時間になり、配られた答案用紙に問題の解を綴っていく。


 (やはり偏差値上位だけはあるな・・・もう既に高校で習うような問題が幾つも見られる)


 しかし、僕には今まで努力してきた前世の記憶があるので解けない問題ではない。

 しいて上げるならば社会がやはり前世とは変わっているようで自信の無い解答があるが、それ込みで考えてもおそらく入学は可能だろうと思える。

 しっかりと名前と受験番号が間違っていないかの確認をし、試験管の終わりの合図と共に僕はゆっくりと息を吐いた。



**************************



 帰り道、会場から出ると少し先の方で母さんが笑顔で手を振っているのが分かる。

 手を振るだけじゃなくてぴょんぴょん跳び始めた・・・は、恥ずかしい。


 少し早足で母さんの元へと向かう。

 母さんは僕を両手で抱きしめると頭を愛でるようになでる。


 「尚人君なら絶対合格できてるからね! ふふ、よく頑張ったね~」


 褒めて貰うのは大変嬉しいのだがしかしここは家の中ではない。

 周りの視線が痛い。

 

 優しく母さんを離すと疲れたから帰ろうと提案する。

 本当は疲れていないがこの場から一歩でも早く逃げ出したかった。


 「うん! 合格したら盛大にお祝いしようね!」


 「そうだね」


 どんなお祝いになるのかと少し怖くもあるが、前世ではそこまでお祝いされた覚えが無かったので素直に嬉しかった。


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