奇怪な依頼3
昨日調べる事の出来なかった本棚に近づく。
その下には、わずかだが何かを轢きずったような跡があったのだ。不思議に思うのも当然だろう。
棚には多くの蔵書が並べられている。
少し押してみるがびくともしない。
「金具で止められているのか?」
体を下げ、棚の下を覗いてみるがそれらしき物は見つからない。
ただ、そこには一つの鍵が落ちていた。
「どこの鍵だ?」
形状はかなり特殊で、一般的な物ではないのが分かる。
どちらかというと鍵と言うよりもフックに近い。
どこの鍵か皆目見当も付かないので、取り敢えず部屋の中に何か手がかりがないかを隈無く探す。
天井、机の引き出し、タンスの中身、棚の上に置いてあるライト。
「ん?」
ライトを調べようとすると、本棚と同じように全く動かすことが出来ないことに気づく。
しかし、目に見える所には、ライトを固定している物が見当たらない。
それならばライトの下かと思い、棚を調べようとかがむと、ライトの支柱に不自然な穴が見えた。
手に持っている鍵と見比べ、もしかしてと思い、その穴に差し込んでみる。
するとその穴に綺麗に鍵がはまり、カチッという音を立てた。
それに呼応するように本棚からギギギっ! と軋むような音が響くと共に、全面に移動しその後ろが露わとなる。
「なるほどな・・・手の凝ったことだ」
そこにはおそらく地下に続いているであろう階段が存在していたのだ。
階段を下ると、そこには無機質な一室があった。
壁には一面に遮音シートが貼られており、全く音が響かない。
まあ、一番気になるのはその点ではない。
部屋中が所々黒く変色し、また、地面に同じように変色した一本の鉈があることだ。
・・・これで確定だろう。
奥さんはこの部屋で殺されたことで、声が漏れず誰にも気づかれることなく殺されたのだ。
そして、夫を切り刻んだ凶器が見つからなかったのはこの地下に隠されていたからだ。
つまり、夫を殺したのは呪い等ではなく人の手で殺されたのだろう。
こうなってくると、奥さんを殺したのがその夫だというのも怪しく思える。
奥さんが殺された現場を見た近所の人は、その時夫が妻の死を見て唖然としていたと聞く。
それは、妻を深く思っていたからではないだろうか? だとしたら、そのような人物が愛する妻を殺すとは思えない。
・・・だとするならば。
その夫婦が引っ越してくる前からこの家について詳しく知っており、尚且つ比較的簡単に出入りできる人物。
思い当たる人物は・・・いない訳ではない。
しかし、思いつきで言っていいものではない。
僕は地下の写真を撮ると、パソコンへと送り、次いで警察宛に匿名で情報を提供する。
ここから先は僕の出る幕ではない。あとは警察に任せよう。せめて、真実が明るみに出ることを祈るだけだ。
◇
何事もない風を装い、家へと帰り学校へと向かう。
授業が終わり放課後になると、足はやに部室に移動した。
「それじゃあ今日も行くっすよ!」
今日も薊先輩は元気なようで、大きな声で呼びかける。
「う~ 今日もですか~」
対して陽葵さんの表情は暗い。
行かなくていいと言うのだが、頑固なのか頑なに行くと言って譲らないのだ。
「陽葵さん大丈夫?」
「・・・手、握ってもいい?」
「ああ、勿論」
手を握って落ち着くというのならいくらでも貸そう。
陽葵さんは、手を握って表情を緩めると僕の腕に体重をかけてくる。
「・・・あの、当たってるんですが」
「いや・・・かな?」
どうやら故意のようだ。
陽葵さんは上目遣いでそう返すと、先ほど以上に体重をかけてくる。
今、僕の腕は幸せに包まれている。
・・・邪な感情を抱かないようにして努力しているのを褒めて欲しい。
「・・・イヤ、ダイジョウブダヨ」
「よかったあ」
引きつる笑みでそう答え、もう既に出発している先輩を追いかける。
◇
屋敷に到着するも僕たちは中に入ることが出来そうになかった。
なぜなら屋敷の周りには無数のパトカーが存在し、バリケードテープで囲っていたからだ。
「何かあったんすかねえ」
「事故でもあったのかもしれないですね」
十中八九、深夜に僕が送信した情報が原因だろう。
まさか、ここまで大きく動くとは思わなかったが、思ったよりはやく事件が解決するかも知れないな。
「これは無理っすねえ、今日は帰りましょう」
「はい!」
陽葵さんは帰ることになって嬉しそうだ。
しかし、最後まで騒音の原因は分からなかったな・・・
ネズミでもいたのだろうか?
先輩達と学校に戻ろうと足を踏み出そうとしたとき、
『『ありがとう』』
と言う声がした。
振り返って声の主を探すと、屋敷の前で仲良く両手を握った笑顔の夫婦がいた。
その姿は透けており、後ろの風景が視認出来る。
夫婦は、こちらに数度手を振ると、幻であったかのようにかき消えた。
「尚人君、どうしたの?」
僕の様子に気づいた陽葵さんが心配するように尋ねる。
「・・・いや、なんでもないよ」
そう答える僕の顔には隠しきれない笑みが漏れていた。
そして、この日から夜の騒音は完全になくなったらしい。
その後の事件の真相について少し話そうと思う。
捜査の結果、犯人はその屋敷の管理人であることが判明した。
殺害動機は仲の良さそうにしていた妻への嫉妬だという、妻を殺した後に夫に自分を愛するよう強要したそうだが、それに夫は拒否。そして激高した管理人が夫を鉈で斬り殺したらしい。
全くもって恐ろしいことだ。
女性関係には気をつけようと強く胸に刻んだ。
明日から引っ越し作業があるので、次の投稿まで少しばかり時間が空きます。
落ち着いたらすぐにでも再開しますので、また後ほど宜しくお願いします(*^_^*)