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奇怪な依頼2

 部活が終わり、家に帰る途中で、お弁当の練習のためにスーパーで食材を買った。


 あの屋敷のことを忘れた訳ではないが、今は隅に置いておく。

 いくら考えたとしても、それは只の仮説であり、何の根拠もないからだ。


 「ただいま~」

 「お帰りなさい!」

 「お帰りなさい」


 家に帰ると、彩華と母さんの返事が聞こえてくる。


 「母さん、ちょっと料理の練習をしたいから、台所借りてもいいかな?」

 「・・・」

 「・・・」


 ん? どうしたのだろうか?

 母さんからの返事が返ってこない。

 もしかしたら声が聞こえなかったのかもしれない。


 「母さん、あの――」

 「いやあああああ!! 早速尚人君に悪い虫がついちゃったわ! どうしたらいいの!」

 「おおおおお母さん落ち着いて! ま、まだそうと決まったわけじゃないよ! もしかしたら私達にかも知れないし!」


 二人はそう言うとグリンと顔を回して、こちらに目を向ける。

 ・・・・あの、瞳孔が開いちゃってるんですが。


 「あ、ああえっと、実はね二人にはいつもお世話になってるから、何かお礼が出来たらと思ったんだけど・・・」

 「「本当!」」

 「息子の手料理が食べられる日が来るなんて」

 「神様ありがとう!」


 二人とも料理ぐらいで大袈裟である。

 母さんは涙を流し、彩華は神に祈りを捧げている始末だ。

 二人が望むならいつでも作れるというのに。


 「じゃあ台所借りても大丈夫?」

 「ええ、大丈夫よ! 今日の晩ご飯はもうそれにしちゃいましょう!」

 「いや、そこまでたいそうなものは作れないよ?」

 「ふふ、別にいいのよたいそうなものでなくても。私と彩華ちゃんは尚人君の愛情の籠もった料理であればお腹いっぱいだから!」

 「うん!」


 なんとも嬉しいことを言ってくれる。

 これはちょいと本腰を入れよう。


 「じゃあ、ちょっとだけ待っててね」


 そう言い残し、僕は台所に入る。

 綺麗に整頓されていて、探さずとも調理器具の場所がすぐに分かる、流石母さんだ。

 スーパーで買った荷物を置いて準備を始める。

 今回僕が作るのはパエリアだ。

 比較的簡単に作れる上に、味も美味しい。女性にも人気の料理だろう。


 まず、フライパンにオリーブオイルを入れみじん切りにした玉葱を入れる。ここでニンニクを入れてもいいが、それは今日の二人の感想から判断しようと思う。

 次に、玉葱が透明になってきたら生米を入れて炒める。そして、ムール貝と白ワインを入れてまた炒める。最後に、パプリカと塩こしょうを入れ、水を米が隠れるまで投入。あとは蓋をして加熱するだけだ。


 およそ20分ほど加熱して蓋を開ける。


 「うん、大丈夫かな」


 パエリアをお皿に盛って、レモンを添えたら完成だ。

 出来上がった料理をリビングへと持って行く。


 「わあ~! とっても美味しそう!」

 「あらまあ本当ねえ、尚人君、もしかしてお母さんに隠れてお料理の練習をしていたの?」

 「いや、これが初めてだよ。そこまで難しいものでもないから、僕でも作れたんだ。」


 母さんはなんだか納得いかないような表情だが、考えても仕方ないと思ったのか目線を料理に戻す。


 「それじゃあ食べましょうか」

 「うん」


 二人はパエリアを口に運ぶと、カッ!と目を見開く。


 「「美味しい!」」


 どうやら満足してもらえたようだ。

 この世界での料理は初めてだったので、何か違うことがあるのかもと思ったが、どうやら杞憂だったらしい。


 「本当に美味しいわ~ 家族のことを思って作ってるのが分かる味ね・・・だけど」

 「うん、美味しいのは美味しいんだけど・・・」


 あれ? なにやら不穏な空気が二人を取り巻いている。

 何か失敗してしまっただろうか?

 僕も料理を食べてみるがどこもおかしいところないように思う。


 「尚人君・・・これは本当に私達だけを考えて作った料理なのかしら?」

 「・・・お兄ちゃん、どうにも他の女の影が見えちゃうんだけど、勘違いだよねえ?」


 二人はゆらりと立ち上がり、こちらに目も向ける。

 母さんの後ろには雪女が彩華の後ろには大蛇がそれぞれ見える。

 ばかなっ! まさか僕の家族がスタ○ド使いだったなんて!


 「さあ、吐きなさい! 一体誰に料理を作るつもりなの!」

 「言うまで逃がさないよ!」


 長時間にわたる二人の尋問に遂にゲロッた僕は、いつかその人物を家に招く事を条件にようやく解放された。その時の二人の表情はまるでおとぎ話に出てくる魔女のようで少し怖かった。




 ◇




 お風呂から上がったところで、自室のパソコンを起動する。


 調べるのは先輩から聞いた事件についてだ。


 「・・・」


 どうやら先輩から聞いた話以上の情報はあまり無いようだ。

 いくら情報を漁っても、異様な事件だと言うことしか書かれていない。


 「・・・これは」


 ページをスクロールしていくと一つの写真が目に入り、思わず手を止め凝視する。

 その写真には殺された奥さんが写っていた。

 そして、その顔は僕が昼間に見た透明の女性と同じものだった。




 深夜2時頃、母さんと彩華が寝静まったのを確認すると、ノートパソコンとケーブルを片手にあの屋敷へと向かう。

 僕は気になったことは、満足するまで足を突っ込むタイプだ。

 こんなもやもやした状態では眠ろうにも眠れない。


 屋敷に到着すると、屋敷の門のそばにある電柱を登り、そこに取り付けられている監視カメラにコードを差し込んでハッキングを開始する。


 調べるのは事件のあった日より前の情報である。

 調べること数分、事件一週間前に屋敷の中に夫婦以外の人物が入っているのが分かった。

 しかし、不思議なことに、その後屋敷から出た映像がない。裏門から出た可能性もあるが、なぜわざわざ裏門から出る必要があったのかが問題である。


 ある程度調べ終わると、監視カメラにダミー情報を送る。

 これから屋敷の中に入るので、ばれると後々厄介だからだ。


 そのまま電柱から飛び降りると、屋敷に近づき針金を2本取り出すと鍵を解錠する。

 これはピッキングといって、工具を用いて鍵を開ける住居侵入の犯罪である。良い子は絶対にまねしないで欲しい。


 罪悪感に苛まれながらも屋敷の奥へと入っていく。

 そして、昼に来た本棚のある部屋へと到着した。


 「じゃあ、始めますか」


 事件の謎を解明しよう。


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