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奇怪な依頼1

「それじゃあ、取り敢えず今日は二人には私の活動を見学して貰うっす!」


  今部室には僕と陽葵さんを含め、薊先輩と相変わらず気持ちよさそうに熟睡している天音先輩しかいない。 西蓮寺先輩は演劇部の助っ人へ五十嵐先輩はバレーボール部への助っ人へ水瀬先輩は不明だがおそらく先輩も何処かの助っ人に行っているのだろう。

 これからどうしようかと陽葵さんと顔を合わせると、薊先輩が突然そう切り出してきた。


「そういえば先輩は薊先輩は何が得意なんですか?」


陽葵さんが疑問を問いかける。

確かに、この前は、薊先輩と天音先輩だけ何が得意であるのかをまだ聞けていない。

薊先輩は待っていましたとばかりに手を顔の方に持って行き決めポーズをする。


「ふふふ、よくぞ聞いてくれたッすね! 実は自分は他の部員とは少し毛色が違うんすよ。自分の得意分野は他人のお悩み解決! よって私の活動は学校外から寄せられる依頼に出向いて解決する事っす!」


意気揚々と語る先輩。

僕が思っていたのとは少し違うが、他人のためになるような素晴らしい特技で思わず拍手する。

先輩のお悩み相談はかなり有名のようで、学園からかなり離れた場所からも依頼をされることもあるらしい。一体どれ だけ凄いのか俄然興味が出る。

こほんと先輩が一つ咳払いすると、また口を開く。


「そして今回来た依頼はこの学園から少し離れた場所にある、地域から寄せられてきたっす」

「地域ですか?」

「そうっす、個人の依頼ではなく複数人からの依頼で、なんでも、そこに昔からある空き家から夜な夜な変な音が聞こえてくるらしくて、それの解決をお願いされたっす」

「騒音ですか・・・」


・・・今考えるだけでもかなりの問題が浮かび上がる。

騒音には多種多様のものがあり、ウォーターハンマーや低周波騒音はその一例だ。

しかし、どのような場合でも夜に限定されるものではない、よって原因は別の物であり、意図的に起こされているものだと推測する。


次に、なぜそんな昔から存在している空き家を撤去しないのかという点だ。

なぜわざわざ損をしてまでその家を残そうとするのか、はたまた撤去出来ない何かがるのかは分からないが、どうにも引っかかる。


「・・・実はその家は訳ありの物件らしいんすよ」


思考に耽っていると、先輩は不意にそう語り出す。


「訳ありですか?」

「昔、と言っても数十年ほど前の話らしいんすけど、その家には若い夫婦がいたらしいんす。

男性にしては珍しく社交的で、例えるなら今の大路君のような人で周りの人には仲睦まじい誰もが羨む夫婦に見えたらしいっす--見えてしまったらしいっす」


・・・ゴクリと喉を鳴らす。

自分に似ている男性と聞くと嫌でも身近に感じてしまう。陽葵さんも緊張しているのか顔がこわばっている。


「だから気づくのが遅れてしまった・・・実はその男性は無類の拷問好きでその奥さんに暴行していたらしいんす。奥様が家を出たのが引っ越してきて数日間だけだったのも、誰も気付なかった理由らしいっす。」

「そんな!」

「じゃあ、その奥さんは・・・」

「流石に奥さんが全く出てこない物だから不思議に思った住人が家の方を見に行くと、何故か家の鍵が開いていたらしく、何度読んでも出てこないので仕方なく家に入ると奥の方で悲惨な姿で殺された奥さんがいたらしいっす。そして、その近くには唖然とした姿の旦那さんがいたらしいっす。」


・・・なんとも胸くその悪い話だ。

それでは奥さんが報われない。

もやもやした感情が湧き出るが、先輩の話はそれで終わりではなかった。


「当然その光景を見た住人は家を飛び出し、警察に通報したらしいっす。数分で警察も到着し、男性を捕まえるために中に入ると、そこには――体を刃物でズタズタに切り裂かれた男性の遺体があったらしいっす」

「・・・ふむ」

「えっなんでですか?」

「それが、その場所には凶器も見つからず、いくら捜査しても犯人らしい犯人がいなかったので、迷宮入りしたっす。噂では奥さんの霊に殺されたと言われているっす。」


陽葵さんは相当怖いのか、ガクガクと震えながら僕の腕に抱きつく。


「それで、今からどうするんですか?」

「勿論今からそこに行くに決まってるっす!」

「ええ! そ、そんな~」

「陽葵さんはここに残っててもいいんだよ?」

「そうっすよ? 別にわざわざ来なくても」

「尚人君は行くんでしょ? じゃあ私も行く!」


う~ん、別に無理しなくてもいいのに。

とりあえず、先輩の後に続き件の物件へと向かった。




 ◇




「・・・でっか」


目の前には、途轍もなく大きい屋敷があり、思わず感想がもれてしまった。


「え? そうっすかね?」

「別に普通じゃ?」


どうやら二人は想像以上のお嬢様のようだ。


「じゃあ私は管理人さんにかぎ借りてくるっす! 二人はちょっとここで待っててください」


先輩はそう言うや否や脱兎のごとく駆ける。


「な、尚人君、怖かったりしない? も、もし良かったら手でも繋いであげようか?」


 明らかに怖がってるのは陽葵さんの方なのだが・・・陽葵さんの潤んでいる瞳がこちらに訴えかけてくる。

 僕は無造作に彼女の手を掴むと、出来るだけ恐怖心が薄れるように強く握った。


「っ!・・・ありがとう・・・」


 消え入るようなか細い声で陽葵さんは感謝を伝える。

 丁度先輩も戻ってきて、僕たちは手を繋いだまま屋敷の中に入っていった。




  ◇




「う~ん、どこも怪しいとこないんすけどねえ?」


 先輩は訝しむように首を傾げる。


 僕が今思い出すのは、部室で先輩が語っていた事件についてだ。

  あの話を聞いていくつか疑問が出た。

 どうにも引っかかることが多すぎる話だ。

 奥さんの叫び声がなぜ近所に聞こえなかったのか。

 男性がなぜ唖然とした状態になっていたのか。

 思考を続けながら、僕は事件のあったであろう奥の部屋へと進む。

 部屋を開け、その中を見回す。


「・・・」


 事件の跡はすっかりと綺麗に消えており、何処にもその残留物はない・・・

 しかし、僕はしゃがみ込んで本棚の近くの床に触れるとそっと呟く。


「やっぱり・・・」


 そこには何かが擦れたような跡があった。


 本棚に手を伸ばそうとしたところで先輩から声がかかる。


「皆~ 今日はもう帰るっすよ~ また後日にしましょう」


 僕は伸びていた手を戻し、先輩の元へと向かう。


 屋敷から出たところで何やら視線を感じ、顔を横に向けると、そこには儚げの美人が佇んでいた。その姿に僕は目を見開く。彼女がとんでもなく美しかったからではない、どこか悲しげでその瞳が僕に何かを求めていたからでもない。


  ――彼女の体が薄く透けていたからだ。


「・・・あの、先輩、あそこ」

「うん、なんすか?・・・何もないっすけど?」

「え?」


 先輩の声にもう一度目を向けると、そこには先ほどの女性はもういなかった。



流石にこの展開は誰も予想できなかった・・・はず・・・

大丈夫です。ちょいホラーですけど怖いのは今回だけです。恐らく・・・

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