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日常

 バスケ部の助っ人として体を動かした次の日、学園に行くと、なぜだかいろんな人に見られているような気がする。いや、見られているのはいつ通りなのだが、なんだかこそこそとしているのだ。まるで動物園の珍獣になった気分である。


 一体なんだろうと思っているとクラスメイトの一人が僕の方に近づいてくる事に気づく。


 「あ、あの・・・大路君ちょっと良いかな?」


 「うん、何かな?」


 モジモジしていて何を言おうか考えているのか口をぱくぱくさせている。


 「あの、その・・・大路君は助っ人部に入ったって聞いたんだけど本当?」


 期待半分諦め半分といった表情でそう訪ねてくる。


 「ああ、まだ仮入部なんだけど助っ人部に入ろうかとは思っているよ」


 「えっ! 本当なの! ただの噂だと思ってたのに・・・」


 そんな噂が流れているのか?

 別にわざわざ、そんな面白くも無い噂を流す必要は無いと思うのだが。


 「じゃ、じゃあ例えばなんだけど! 私が大路君に何か助っ人おお願いしたら来てくれるって事ですか!」


 机に身を乗り出してこちらに迫ってくる。

 か、顔が近い。女性特有の良いにおいがするが、ここは冷静に対処するために自分の足を密かに踏む。

 ・・・痛い。

 そしてなんだか、クラスの皆が目を光らせて聞き耳を立ててるんだが・・・友達と話しているように見せかけてこちらを常に確認しているのが分かる。

 少し向こうの集団なんか全く会話が成立していない。


 『昨日の晩ご飯なに食べたの?』

 『ショタの天ぷらだったよ』

 『とても美味しそう!』


 という具合にかなりぶっ飛んでしまっている。

 もはや病院に直行した方が良いレベルだ。


 「まだ仮入部だからどうなるかは分からないけれど、助っ人を頼まれたら是非行きたいとは思っているよ。」


 「本当に! やったー!」


 彼女の歓喜の声と同時にクラスメイト達が立ち上がり、まるで英雄の凱旋を祝うかのように胴上げを始める。

 ・・・一体僕は何を見せられているのか。


 「尚人君おはよう!」

 「おはようがざいます。」


 「陽葵さんと緒方さんもおはよう」


 少し遠い目をしていると陽葵さんと緒方さんが挨拶してくる。

 そういえば昨日バスケ部にも緒方の性をもつ双子がいたが知り合いだったりするのだろうか?


 「ねえ緒方さん、昨日バスケ部の方に行ったんだけどそこにも緒方さんと同じ性の双子がいて、もしかして知り合いだったりする?」

 「ああ、寧々さんと奈々さんの事ですね。彼女達は私の従姉妹なのですよ。それにしても髪の色も違うのによく分かりましたね?」

 「たまたまだよ、なんとなくそう思ったんだ。」


 そうか彼女達は従姉妹だったんだなあ。

 従姉妹と共にこの学園に入ってこれるなんて非常に優秀な一族なのだろうと感心していると、緒方さんがこちらをじっと見ていることに気づく。


 「・・・あの、緒方が3人もいると、その・・・判断しずらくないですか?」

 「まあ、確かにそういうときもあるかもしれないけどあの双子と会う機会はそんなに無いと思うんだけど」

 「いえ、そういう事では無く・・・」


 彼女は僕にジト目を向けると「察して下さいよ」と小さく呟く。

 見かねた陽葵さんが尚人に近づきそっと声をかける。


 「尚人君、緒方さんは私と同じように下の名前で呼んで欲しんじゃないかなあ」


 そう言われてなるほどと思う。

 女性の下の名前を気軽に呼ぶという発想が無かった・・・

 陽葵さんの時は彼女がぐいぐい来てくれたから流れで呼ぶことになったが。

 緒方さんのような控えめな少女だとそこまで積極的には慣れないのだろう。


 わざわざ勇気を出して言ってくれた緒方さんに心の中で謝罪し、再度彼女に呼びかける。


 「あ~その緒方さんが良かったらでいんだけど、やっぱり3人いると分かりづらいからさ、下の名前で呼ばせて貰ってもいいかな?」

 「・・・ふん! 彼女達とは会わないからいいと先ほどおっしゃっていたではありませんか!」


 緒方さんは拗ねてしまったのか顔をそっぽ向ける。

 しかし、その瞳にはどこか不安と期待の色が見え隠れしていた。


 「そこをなんとかお願いするよ、この通りだからさ!」


 手を合わせて彼女に微笑みかける。

 前世でもこうして誠心誠意謝ると大抵の人は許してくれた。まあ、その中でも「じゃあ、一発殴らせて♡」と言って、お腹を思いっきり殴ってきた幼馴染みがいたのでまだ気は抜けない。


 「わ、分かりました。そこまで言うなら仕方ありませんね、仕方ありませんとも!」


 どうやら前世の二の舞にはならずに済んだようだ。

 無表情な彼女の顔が少し紅潮しているのが分かる。緒方さん、いや白雪さんもこんな表情をするのかと少し得をした気分になった。


 「ああ、それじゃあ白雪さん。これからは僕の事も尚人って読んでくれないか?僕だけ名前で呼ぶのもなんだかおかしいしね」


 「ふぇっ!・・・な、名前で呼んでもよろしいのですか?」

 

 今日は彼女の可愛らしい姿がたくさん見れる日だな!

 白雪さんは一瞬驚いた顔をした後、覚悟を決めたような表情をして口を開く。


 「な、な、尚人きゅん!」


 ・・・ほほう


 そんな呼ばれ方をされたのは初めてだが、これがどうして悪くないかもしれない。

 名前の呼び方は多種多様に存在し、~さん、くん、ちゃん、などが存在すしが、他者とのパーソナルスペースを埋めるために呼び方を少し変えるという事も珍しい事では無い。~きゅん、もまたその一つだ。

 僕は彼女なりにこちらに歩み寄ってくれてることを実感すると胸が温かくなった。


 「やるね~白雪さん! 私も負けてられないよ!」

 「ち、違います! 今のはただ噛んでしまっただけで!」

 「・・・いや、『きゅん』よりも『たん』の方が魅力的かも知れない。ふむ、興味深いな・・・緒方さん、一度「たん」で読んでみてくれないか?」

 「なぜですか! それになんで少し気に入っちゃってるんですか! 絶対に言いませんよ!」


 僕たちは授業担当の先生が来るまで三人で喋り合っていた。


 そして今日も僕以外の男子生徒は登校してこなかった。


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