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参戦

「え?! いやいやダメだよ!怪我したらどうするの!」


あなたは母さんか!

いや、うちの母さんならもっと大げさに心配するかもしれないな・・・


「大丈夫ですよ、そこまで激しく動くつもりじゃないですし」


 全くの嘘である。

 激しく動く気まんまんであるが、今ここではあえて本当の事は話さない。


 「う~ん、せめて顧問の先生が来てからでも・・・」


 「まあまあ、取り敢えず軽くワンプレーしてみて危ないかどうか判断して下さいよ」


 交渉において重要なのは多少の強引さである。自分の意見をしっかりともちそれを貫きとおす強さがいる。

 そして、より確実にするために相手気持ちを汲み取る必要がある。部長さんは、とにかく僕に怪我をして欲しくないという意見であり、それに対してこちらは激しく動かないという譲歩をした。

 あとは下準備である。“軽くワンプレーしてみて危ないかどうか判断して下さいよ”という発言は彼女にはワンプレーだけなら・・・という印象を与える。人は自分の都合の良いように言葉を変換して聞いてしまうのだ。しかし、この発言は、ワンプレーして危なくなかったら最後までやらせて下さいね、と言うものである。


 「じゃ、じゃあ一回やってみようか」


 「ありがとうございます!」


 彼女はその重大な罠に見事に引っかかった。

 後はまあ、ただ暴れるだけだ。


 僕は新入部員の少女達の元に行く。


 彼女達は今円を作って作戦会議をしているようで、お互いの意見を出し合っている。

 僕はその真剣さに感動する。出来れば邪魔したくないが、横から失礼する。


 「すいません、次の試合から皆さんと一緒に試合に出させていただける事になりました。大路 尚人です。宜しくお願いします」


 「おいおいまじかい!」

 「あ、あああ危ないよ!」

 「「あわわわわわわわ」」

 「え、うそ!」


 皆さん面白い反応をしてくれる。


 「それで皆さんの名前をお伺いしたいのですがいいですか?」


 「あ、ああ。あたいは黒井(くろい) 千早(ちはや)だ。」

 「私は江島(えとう) 奈央(なお)です!」

 「私は緒方(おがた) 寧々(ねね)!」

 「私は緒方(おがた) 奈々(なな)!」

 「羽島(はねじま) 東子(とうこ)と言います。」


 黒井さんはポニーテールに人で、江島さんはショートカットにした快活そうな人だ。

 寧々さんと奈々さんは双子のようで、顔がよく似ている。羽島さんは背が小さくて可愛らしい人だ。


 お互いの自己紹介が終わったところで号令がかかる。


 僕はゴール下で皆の邪魔にならないようにする。

 ホイッスルの音が響き試合が開始される。


 第一クオーターとは違い、皆の動きが格段に良くなっているのがわかる。

 先ほど彼女達が話していたのはお互いに何が出来るのかの確認であった。各々が何が出来るのかを把握できたところで、自分たちが何をすべきかがはっきりしたのだろう。


 しかし・・・


 やはり部長さんと五十嵐さんは怪物である。

 動きが明らかに変った5人を嘲笑うかのように翻弄している。


 部長さんがボールを手にこちらに迫ってくる。


 「大路君、これで終わりだよ!」


 部長はそのまま流れるようにシュートの体勢に入りゴールめがけてシュートする。


 「っえ?!」


 しかし、その手には持っていたはずのボールがない。


 「それは悲しいのでもう少し粘らせて貰いますね。」


 僕は彼女がシュートの姿勢に移行する瞬間、彼女の筋肉の動きから行動を予知しボールをスティールしたのだ。


 部長さんの呆けた声を残し、僕は相手の懐に入っていく。


 前方には五十嵐さんと川崎さんが見える。驚いた表情をしながらもしっかりとディフェンスをしているのは流石である。


 ただ、まだどこか戸惑いが見える。僕を怪我させないようにとでも思っているのだろうか? 残念だ、そんなことでは・・・


 (僕を一生止められないですよ)


 僕は二人の間を針を縫うようにドリブルしながら抜けると、そのまま加速する。

 後ろからは僕を追うように足音が聞こえるが、ここまで来たらもう遅い。


 フリースローラインまで来ると足を大きく踏み込む。

 足は肩幅で、胸を張ってゴールを見据える。そして、飛んだ。


 「うそ! そこから届くはずが!」


 そんな声を耳に僕はボールをゴールに叩き込む。


 ゆっくりと地面に降りると誰に聞こえるでもなく呟く。


 「あと、41点」


 今から逆転だ。


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