概念死一致 ~同類同士で死を語る~
死について語り合う。
それは、普通に生活するにおいて、あり得ないと私は思っていた。
私――鳴神椎名は、人々の死について語り合いたいと思っていた。
女子でそんな考えをするのは――というか、男子でさえ、死について語り合いたいと思う人なんていない――そう言ってもいいだろう。
私はおかしな人だと揶揄されてきた。
人間、誰しもおかしな人間だとは思うのだけれど、私は飛び切りの異常者だったらしい。
現在――高校生では、そのおかしな人間と呼ばれない行動を取ってきたつもりだ。だから、普通に友達もできた。
だけれど、何かが物足りなかった。
ある日。
転校生が来た。
この高校は、偏差値が高いため、転校試験はかなりの難易度のものだけれど、その人は満点を取ってこの高校にやってきたと、噂で聞いている。
そしてその転校生は、私のクラスにやってきた。
「神無生瑠奈と言います」
中々に、ヘンテコな名前だった。
でも。
どこか私に似ていた。
髪型は、私は黒髪ロングで、彼女は地毛で白髪――そして髪の長さはショート。
私の瞼は二重で彼女は一重。
私の背は高くて、彼女の背は小さい。
私の瞳は当然黒で、彼女の瞳は黒ではなく、赤。
何から何まで違う容姿で形――それでも、私と同類だと言えるほど彼女と私は似ていた。
*****
「ねえ。お昼ご飯一緒に食べよう、椎名ちゃん」
転校生――生瑠奈は、いきなり私を誘った。
しかも、私は他の女子三人と一緒に食べていたのに、私だけを誘った。
この状況――普通ならば他の女子と一緒に食べようというのが、普通の状況だった。
いつもどおり、友達との生活も送れ、さらには転校生――生瑠奈とも話せる。
だから私は友達三人のことを考えて、「ここで一緒に食べませんか、生瑠奈さん?」とでも言えば、何も問題はなかった。
だけれど私は、
「いいよ」
そう言った。
別にもともとなんとなく、適当に集まった女子同士だったし、仲良くはしてたけれど、でも、仲良くしてただけだ。別に好きでも嫌いでもなかった。
三人は友達ではあったけれど、表面上も仲良くしてはいたけれど、好き嫌いで言えば、どちらでもない。
私は席を移動して生瑠奈と二人で昼食をとった。
対面状態に席に座り、いきなり生瑠奈が話しかけてきた。
「ねえ、椎名。放課後私と遊んでもらえるかな?」
「……いきなり遊ぼうとする転校生って珍しいわね」
「貴方のこと、とても気になってるの。あまりにも、貴方があたしと似すぎているから――あまりにも"同類"だから。まあ、同類ってことを確かめたいから、遊ぶというよりも、話し合いたいんだけど……ダメかな?」
生瑠奈も私と同じ感覚を持っていた。
同類。
異常な人同士の異常なオーラ。そしてそれを感じ取っている私と生瑠奈。
間違いなく、間違いようのない同類――ほとんど確信を持ってそう言える。
「いいわよ、遊んでも。ただ、貴方の家か、私の家でしか遊ばないわ」
「そう。ありがとう。じゃあ、私の家でいいかな?」
「ええ、いいわよ」
*****
生瑠奈の家――その中にある生瑠奈の部屋。
その部屋はミニマリストと言ってもいいほど、家具がほとんどなかった。
「何もないけど、何もない方が多分、話しやすいよね」
「ええ、そうね」
何もないほうが、誰もいないほうが、今からの話題を楽に話しやすい――それは間違いない。
さっそく、生瑠奈は話を切り出す。
「もう分かってると思うけど、あたしたちって同類だよね?」
「……あまり肯定はしたくないけれど、一目で会ったときから――私も貴方のことを同類と感じたわ」
「そう、良かったー。それじゃあさっそく、死、について話し合わない? きっと貴方も話し合いたいでしょ?」
思う――やっぱり、容姿はほとんど違っても、中身の考えが似すぎていた。
死について語り合いたいと、高校時代――特に女子高生なんかにその話題を振ろうものならば、適当に話が流れる。たとえ女子高生同士だったとしても。
だけれど、私と生瑠奈は別だと、もうすでに分かり切っていた。
女子高生にもかかわらず、互いに死のことを語り合いたかった。
「そうね。話し合ってみたいわ」
「良かった。本気で話し合ってくれる人がいて」
「同類って言い始めたのは誰かしらね、まったく……」
「でも、肯定したよね」
「ええ」
当たり前だ。第六感が存在すると初めて実感できるほど、目の前の人間は同類だと、感覚が告げていた――それほど、彼女が同類だと半ば理解していた。
おかしな人間――他者からおかしいと言われる人間は欠陥。だけれど、だからこそ、特殊な感覚もある。
その特殊な感覚は、今のところは死のことを語り合いたい、ただその一点のみ。二人はその一点のみを共有している。一点から、一直線に、一面に、立体になるかは定かではないけれど、とにかく今は、死について語り合いたかった。
生瑠奈は問う。「どうして誰も、死について深く知りたいとは思わないんだろうね?」
「貴方も分かっているでしょう? 死が怖くなってしまうから。死という概念は、背けたくなるほどに悍ましいと思えるから。特に、自分が死んでしまう――そのことを考えたくないから、死について深く語り合いたい人間なんていない――貴方もそう思ってるんでしょう?」
「もちろん!」
初めて、彼女は笑う。
無理もない。
私だって、初めて笑っているんだから。
初めて、嬉しい感覚を得た気がする。
客観的に見たらおかしいに違いない。でも、私たち二人はきっと嬉しい。
この時間をもっと長く、速く共有したい。そう思い、私は会話を進める。
「死、なんていう考えに正解はないわよね。例えば、死に方として一番楽なのは痛みを伴わず、或いは死が襲ってきたと知らずに死ぬ死に方――これがもっとも楽よね?」
「うん、そうだね。犯罪的な殺し方じゃなければ、海外に行って安楽死って方法が、一番楽な死に方だね」
「ええ。そして、一番苦しい死は、精神的な苦痛を凄まじいほど体験しながら物理的な苦痛をもすさまじいほど体験して死ぬ死に方。例えば処刑道具とか用いた殺しかた――そのような死に方が人間として最悪の殺され方で、死に方。これが、もっとも恐ろしい」
「苦しい中で死んでいくのは、誰でも嫌だよね。でも――」
「――私たちは、そんなことを共有したかった」
「やっぱり、同類がいるといいね。楽しい!」
「こんなことが楽しいなんて、異常者と思われるけれどね」
異常者、なのだろう。私――椎名と、生瑠奈は、間違いなく異常者。
それは分かってはいるけれど、しかしながら、今回の思い出はそんな異常者同士にとって最高の日になるんだと思う。
私がそう思った。きっと彼女もそう思っている。
そのようなことを、ここ一カ月話し続けた。
学校から帰ったあと、生瑠奈の家を訪ね、死について語り合った。
何が死に方として最適なのか。
死後の世界の考え。
生まれる前から、人間は死んだことがあるか。
死より怖いことがあるか。
死者が生き返ることは本当にあるのか。
とても多くの死について、語り合った。
さらに一カ月が経ったある日。
私はいつも通り、一人で登校し、クラス教室に入ると、生瑠奈が他の女子に絡まれていた。
生瑠奈は、私以外の女子と話すことはほとんどない。
大抵私か、或いはクラスの男子を使うことで学校生活が送れている。
生瑠奈を囲っている女子は三人ほど。
そしてよくよく考えてみれば、ああ、そう言えばだけれど、この三人の女子には共通点があった。
私が生瑠奈と会う前に、仲良くしてた女子三人だった。
この三人には、よくよく、改めて、しっかりと考えてみれば、そういう共通点があるのだった。
その女子三人組が、生瑠奈から離れ、私は生瑠奈にどういうことを話していたのか聞いた。
「どうやら、椎名とかかわらないでほしいってことみたいね」
「どうして?」
「さあ、理由なんて分からないよ――椎名と同類のあたしだからね」
「それもそうね」
しかし。
どうしてだろう。
久しぶりに、心に靄がかかった。
今までは、生瑠奈に会う前はずっと心に靄がかかっていたけれど。今回はそのときぶりの出来事。
だけれど。
そのときの靄模様とは、だいぶ違う。強いていうなら、感情が違う気がした。
今までの感情は、死を語り合うことができず、靄がずっとかかり、だからそれは退屈ゆえの靄だったのだけれど、今回のは、あからさまに違う。
何かが、私を怒らせようとしている。そう言えば、正鵠を射ていると言えるのだろうか。
或いは焦り。無理やり、彼女三人の中に生瑠奈が引き込まれる可能性があるかもしれない――そして生瑠奈と死について話せなくなるかもしれない焦り。その焦りは、或いは感情の変換として恐怖とも言えるはずだ。
よくわからないけれど、どうにかしなくてはいけないと思った。
*****
どうにかしなくてはいけない――そうは思っていたけれど、別に行動に移したことは無かった。
いつも通りに、死について語り合った。
いつも通りに、嬉しくてそのときを永遠と過ごしたいと思った。
それが再び一カ月経ったとき。
学校で、神無生瑠奈は虐められた。
虐めた相手は、私とかつて友達だった彼女ら三人。
いつも通り――生瑠奈の家で死について話し合っているときに聞いた。
「どうして、虐められたのかしら。大丈夫?」
「大丈夫だよ。まだ、日光にさらされ続けるよりかはマシ」
「そう言えばアルビノ……だったね」
透き通っていると錯覚してしまうほどの白い髪。人を魅惑する真紅の瞳。
まるで日本人ではないようだ、と私は思っていた。
彼女は体育で欠席が多い。それが気になり質問すると、先天性白皮症――アルビノ、だと生瑠奈は答えた。
どの程度の症状かと問えば、日常ではそこまで問題ないとは言っていたけれど、例えばお風呂に入るとき、皮膚が痛いとは言っていた。だから皮膚のケアをしてても、日差しの強い日は日傘を差して登校することが多いらしい……私は生瑠奈とは家の方向が真逆だからよく知らないけれど。
また。
生瑠奈は私と違い、外見さえも特異にみられることから、物珍しがられ、そして、虐められてきた。
小学生時代も。中学生時代も。そして、高校生時代も。
だから、虐めから逃れるにはどうすればいいか考え、そして頭の良い高校に入れば、虐められる可能性はないと思っていたらしい。
結果、現在虐められている最悪な現状。
生瑠奈は女子三人に殴られ、蹴られ、いたる部分にアザができていた。
透き通った白い肌に怪我が見え、とても痛々しい。
これだけ酷いと、心配する人がいてもいいだろうけれど、誰も心配していない。否、あの女子三人は、クラスの男子、及び女子を黙らせるほどのカースト上位者。だから、心配していても、もはや誰も話しかけないだろう。
さらに担任の先生は、アザが生瑠奈にできていても、何もアザについて問うことは無かった。でも、担任の先生は代わりに「面倒事は起こすなよ」と言ったそうだ。
ゴミのような先生だ。
まあ、知っていたことだったけれど。
「私がどうにかしようか? あの人たち、ただ私を取られたと思って攻撃したのか、或いはそれをベースとして――つまり腹いせということにして、可愛い生瑠奈を虐めたかっただけだろうから。私があの三人と話せば虐められる可能性はなくなるかもしれない――」
「――私って可愛い? 可愛い生瑠奈って言ったよね?」
? どうして、そのようなことを聞くのだろう。
「ええ、言ったわよ。多分、学校内なら貴方が一番可愛いと思うわ」
客観的に意見を述べたつもりなのだけれど、どうしてか、生瑠奈の顔は真っ赤に染まっていた。他の男子とかにも、言われているでしょうに。
「で、でも。学校内で一番可愛いのは、椎名ちゃんだよ」
「そう?」
「そうだよ。一番可愛い。そして一番かっこいい女子高生だとあたしは思うよ」
死について語り合っていた関係から、どうしてこのような関係になっていたのか。よくわからない。
そう言えば最近、死のこと以外についてもよく話していた。
さっき言ったアルビノのことを筆頭に様々な話をした。
ファッションについて話し、実際に二人で試着しながら好きな服を買うこと。
食べ物を一緒に食べに行ったこと。
中々に、女子高生らしいことをしたと思う。
本性をさらけ出し、女子高生ではないような考えをもつ二人が、今では普通の女子高生と同じような生活も送れている。
もちろん、今でも死について話していることは多い。
死の話から、どうしてかファッションの話になったり、食べ物の話になったり、その他にも様々に話が派生していくことが、最近は多くなった。
「まるで普通の女子高生だね、今の私たちは」
「ん? そうだね。最近はあたしたち、少し性格変わってきてるかもね。でも――」
「――同類であることに変わりないわね」
それは間違いないはずだ。
*****
次の日。
私は、朝早く学校に登校した。
私と生瑠奈の家は、学校からみれば真反対なので、一緒に登校しないで、学校で直接会ってから、適当な会話をする時が多い。
いつも通りに、朝早くに登校した私は、いつも席に座っている生瑠奈がいないことに気づく。
風邪……なのかしらね。
と、一時は思ったけれど。
心臓が、ざわついた。
明らかに、異常な警鐘を感覚が訴えていた。
動悸が異常に早いのが、ギリギリ理解できる程度に、分かった。つまり、私は発狂とか、何かする前兆なのかもしれない。それほど、自身の状態を理解しにくかった。
とにかく、同類に何かが起こっている――その感覚だけは分かった。
警鐘が色が強くなっている方向に走る。
無様に不格好に私は学校内を全力疾走した。
学校中を駆け巡る。
そして。
屋上の手前にたどり着く。
屋上が開いていた。
今は真夏。
朝とは言っても、外に長時間いるのは危険。
普通の人間でも危険なのに。
まして、
アルビノ体質の彼女――生瑠奈が、日傘もせず、直接に日光を浴びていたら――そう思うと自然と走るスピードはトップスピードになっていた。
そして屋上にたどり着く。
かつて私の友達だった三人に、生瑠奈が蹴られている現場を、目撃した。
この前の比ではないほどの怪我。
判断は遅れる。
理解が追い付かない。
アルビノの彼女がどれだけ日光に弱いかも知らず。
人を傷つける材料と思ったのか、三人の女子はすでに生瑠奈の衣服をひん剥いて。ほぼ半裸状態にして。
身体を屋上のコンクリート部分に焼き付けて。
顔面をコンクリートに焼き、服のない胴体もコンクリートに押し付けて。足も押し付けて、生瑠奈を抑えつけ、さらには蹴り続けていて。
三人は笑っている。
かつて友達だった三人――いや、友達じゃない。
冗談じゃない。
こんな悪魔たち、友達だったはずもない。
「おい、お前ら……」
悪魔が笑ってこっちを向く。
「あーきたんだー裏切者――」
「手を離せテメエら!!」
無意識に、相手をぶん殴った。
殴り、
殴り、
三人をぶん殴った。
「椎名ちゃん……?」
どんなに大切だと思う人が何を言おうとも、聞くことはない。振り向かず、先ほどまで笑っていた悪魔の方を向く。
「生瑠奈の体質で遊ぼうとするな!!
生瑠奈を虐めようとするな!!
私ならどうなってもいいけれど、生瑠奈を傷つけたなら、許さない。
でも、もうお前ら三人、生瑠奈を傷つけたんだ。だから私はお前らを殺――」
「椎名ちゃん!!」
声。
振り向く。
焼け焦がれた後。
悲惨な状態。
衣服がズタズタに裂けていて。
顔面がぐちゃぐちゃになっていて。
それでも。
それは、私の好きな、生瑠奈だ。
「あたし……大丈夫だから……!」
「……」
少し、正気に戻った。
無意識に辺りを見る。
生瑠奈ほどではないが、顔面が少しばかり変わってしまったと見える人。
泣き出してしまっている人。
気絶してしまっている人。
この事象――すべてが私のやったことで、すべてがかつて私の友達だった人間。悪魔じゃ、なかった。
関節がぐちゃぐちゃに折れている――一目見ただけで複雑骨折以上の怪我をしていると分かる――これは私の怪我だ……。
「何を……」
私は、何をしてしまったんだろう。
どうして、生瑠奈が顔面をさらに台無しにしながら泣いているのだろう。
どうして、かつて友達だった彼女らが、倒れていたりしているのだろう。
少しずつ、思い出す。
先ほどの自分の行動が、後追いして記憶の中に入る。
……。
…………。
すべて、思い出す。
思い出して、しまった。
どうして、これほど最悪なことをしてしまったんだろう。
振り返ると、自分の愚かさに、嫌気――死にたくなる気になるほどの、嫌悪を感じる。
嫌悪を感じれば、ネガティブに。
ネガティブになれば気が堕ちる。
沈んで沈んで。
――死にたくなる。死に沈む。
生瑠奈をこんなにも悲しませてしまった。
私は死ぬしかない。
きっと死ぬべき存在なんだ。
いくら悪魔のように見えたからと言って、簡単に彼女ら三人を殴ってしまった私。
やはり死ぬべきだ。
私は死ぬべきだ。
今ここで。
死ぬしか、私は報われない。
「『死ぬしか、私は報われない』とか、思ってるでしょ。椎名ちゃん」
「……どう……して?」
「分かるよ。同類だよ、あたしたち。容姿言葉遣い違えど、死の概念は同じ。それなら、いつ死にたいだとか、いつ死について考えてるか、お見通しなんだから」
ぐちゃぐちゃの顔ながらも、笑顔でそう答える生瑠奈。
「あたしね、初めてなの。友達を作ったことも、同級生と一緒に何かを共有したことも。だってアルビノで――皆と外見が違うって言われて、しかも内面も普通の人とは全然違ったからね。回りから可愛いとか言われても、対等な人――まして同類と会ったことなんてなかった。でも、貴方と出会えたから、あたしは今、物凄く幸せなんだよ。だから、今、死にたいって思わないで。あたしのエゴかもしれないけど、一緒に生きて、まだまだ楽しいこと、しようよ! 生きて楽しいことしようよ!!」
「……うん!」
私はこの日、生瑠奈を最高の同類だと思った。
*****
生瑠奈とは同類……つまり、性質は同じ。
振り返ってみれば、あまりに同類だと思う――同類にもほどがある。
死の考え方が同じ。
それ以外にも。同じ服を買ったり、同じ食べ物を食べたり、部屋も生瑠奈と似ているミニマリストっぽい部屋だったことに気づいた。
同類というのは死の概念だけじゃなくて、ほかの部分も同じようね……。
戯言めいたことを脳内で考えていると、目的地に着く。
病院。
三階。三〇二号室。ここに、生瑠奈がいる。
目の前にある扉を開くと、ベッドに座っている生瑠奈がいた。
「やっほ。元気してるー、しぃちゃん?」
「ええ、元気よ。というか、こっちが言いたい台詞なのだけれどね」
顔は完全には元通りにはならないと、医者から言われたと生瑠奈は話していた。続いて、多量のやけどによって、顔以外のパーツも、もとには戻らない部分があるそうだ。
私の拳は、思ったより酷い怪我ではなく、単純骨折だった。
「あたしは元気。ばりばり元気ー!」
「貴方……そんなに元気な性格していたかしら?」
「まあ、あたし今まで人に本性見せたことないけど、だいたいこんなんよ?」
「それは、私のことを本当の同類だと認めたから?」
「そそ。十全百全千全万全完全に、あたしとしぃちゃんが同類って、あの一件で思い知っちゃったから」
いつの間に、私をしぃちゃんと呼ぶようになったのだろう。
まあ、それは置いて。
生瑠奈の「あたしとしぃちゃんが同類って、あの一件で思い知っちゃったから」という部分を反芻する。
……つまり、生瑠奈は私が女子三人を殴るまでの約三カ月はまだ、私と同類だったかどうかは半信半疑だったということだ。まあ私も、転校生がいきなり同類だと思えず、半信半疑だった。いきなり、第六感が同類だとどれほど騒ごうとも、こんなにも身近に同類がいるとは思えなかったから。
だからやっぱり、そこも含めて同類なんだろう。
なら。
「顔が変形するくらい、どうってことないわよね」
「うん、あたしは全然大丈夫。強いていうなら、しぃちゃんが可愛いって言ってくれた顔じゃなくなっちゃったのが、残念かな」
「貴方はその顔でも十分可愛いわ」
「本心だってのは分かるし嬉しいけどさー。それって前の顔と比べるとどっちなわけー?」
「訊くまでもないでしょう?」
「うん、同類だから訊くまでもない。でもねー、貴方の口から聞きたいの」
「……前のほうが、いい」
「……だよねー」
分かっていたくせに。
今でも可愛いけれど。前の、やけどする前のほうが可愛い。
「じゃあ、この世で一番可愛いのは、あたしとしぃちゃんの世界ではしぃちゃんになったわけだね。しぃちゃん可愛いよ、ああ可愛いーー!」
にへらー、となりそうに、顔がふやけていくように頬を緩め、私の方を見る生瑠奈。
かと、思えばその顔は急に表情が変わり、
「ねえ? しぃちゃん触ってもいい!? 触ってもいいかな!?」
急に興奮状態になる。
「一応、まだケガ人だからあまり暴れると、怪我が悪化するわよ貴方?」
「いいの! あたしが今この瞬間しぃちゃんの容姿を見ることができる限り、しぃちゃんを愛し尽くすよー撫でまわすよー!」
「……私の容姿はいつでも見てもいいから、落ち着いて。これ以上貴方の顔が悲惨になったら、貴方のこと嫌いになるわよ?」
「嘘でしょー? 分かるよ分かる、同類だから、それが嘘ってのも分かるよー。もう、あたしの容姿とかよりも関係なしに、姿形関係なしに――たとえ外見がどう変化したところで、あたしはしぃちゃんが好きで、しぃちゃんは私が好き。もう分かっちゃったんだからね!」
「……まあ、そうね」
そう言った途端、生瑠奈はいきなり抱きついてきた。
「ああー! 好き! いい匂い! 全部好き!」
本当の事しか言ってないのが分かってしまうから、とても恥ずかしくなってしまう。
きっと鏡を見れば、私は今顔を赤らめているんだろうと思うと、さらに恥ずかしくなってしまう。
数十分後。
私を堪能し終わった生瑠奈は、「いつでも好きだよ、しぃちゃん!」という。
私も、
「いつでも好きよ、生瑠奈」
と言った。
いつの間にか、相思相愛の関係になってしまった。
同類だからと言って、相思相愛の関係になるなどと、互いに思いもしなかっただろうけれど。
でも。
この関係は、本物だ。
二人で共有しているから。
二人で理解し合っているから。
だから今日も話すのだ。
死について語り、他の事も語り、そして生きる事を語り始める。
死の語りから結ばれた私と生瑠奈は、互いを永遠と好きでい続ける――それはもう、二人で共有したことだ。




