醜く美しい子
どーも、Tkayuki 冬至です。
もうひとつの作品の投稿が出来ませんでしたので、変わりに前々から作成していた物語を投稿します。
『~他の異世界に召喚されたけど自由気ままに旅しよう~』をお楽しみの読者の皆様方、申し訳ありません。
ーーーここは、どこ?
『それ』は目覚める。
そこが何処であるかはわからない。
周りに見えるのは、夜空へと聳え立つ木々達。
その木々は、どんな困難でも倒れぬ不屈の精神を持ち合わせている様であった。
『それ』は辺りを確認すると、今いる場所は草木が生い茂る森だということを理解する。
何故、自分がこの場にいるのか。
この森は何なのか。
今まで自分はこの場所で眠っていたのだろうか。
そして。
ーーー自分は、誰?
そもそも『それ』は自分自身の事が全くといってよいほど、分からなかった。
親が誰なのか。
仲間もわからない。
何もかもが、わからない。
『それ』は、自分の身体へと目を向ける。
ーーー……これが、私の……身体?
何となくだが、それが自分の身体の一部だと理解した。
『それ』は、人間でいうと両手を自身の目で見るのだが。
『それ』の手は、ドロドロとした、『それ』自身も顔をひきつってしまう程嫌悪感を抱く触手だ。臭いは無いのが幸いだったが、それでも『それ』は自分の身体だと思うと拒絶感を抱いてしまう。
これが私、なのか、と。
近くに泉があったので鏡の様にして自分の全体像を見ようとするのだが、余程『それ』の容姿は酷いのだろう。先客で泉の水を飲んでいた小型のスライムやら獣のモンスター達は『それ』を目にした瞬間、『うわぁ……』といった感じに二度見しながらそそくさと逃げてしまう。スライムもアメーバの様に人間から嫌われそうなグロティスクな筈だが、そんな存在でも『それ』の容姿は酷いのだろう。
『それ』は自分が嫌われた存在だと思い、悲しく感じてしまう。だが、そんなに自分の容姿が酷いのかと少しだけ、若干気になりながら泉へと覗き込んだ。
ーーー……うっ。
その水の鏡に写っていたのは、泥の塊であった。それも生き物であれば、誰もが拒絶してしまう容姿。あの小型モンスター達があんな表情をするのも仕方がないと納得する程のだ。その自身の姿に『それ』も何故こんな容姿なのかと自問自答してしまう程に嫌な声を漏らしてしまう。そもそも、臭いは無いと思ったが鼻、嗅覚はあるのだろうか。何故見えているのかはわからないが、目らしい部分しかない。目の働きをしているかわからないが、目の様なものは二つあった。
ーーーグルルゥ……。
唸り声が聞こえたので、目線を上げると、そこには一匹の狼のモンスターが『それ』に敵意を露にしていた。いや、一匹だけでない。その狼のモンスターの後ろに隠れる様に怯える子供の狼のモンスターが数匹いたのだ。
その親である狼のモンスターは、いきなり現れた『それ』に得たいの知れない存在だと判断し、子供達を守る為に唸っていたのだろう。それは親としては当然なのかもしれない。
しかし、『それ』は、自分が仲間外れ、嫌われた存在だと勝手に判断するとそのまま泉から離れ、後ろへと逃げるように去っていった。
ーーー私……私、は……。
どれだけあのモンスターに訴えてもその心が伝わる訳ではない。あのままでは自分はあのモンスターに襲われ、殺されてしまうだろう。なら逃げるしかない。本来はそういう命のやり取りは自然界では普通なのだろうが、『それ』は見えていた。あの狼のモンスター達は『それ』を気味が悪い、気持ち悪いものを見たような目を。
その目は、拒絶だ。
恐らくただ、醜いと思っていたのだろう。
『それ』は逃げながら思う。
気が付けば何処かわからない場所に、自分自身の事もわからない。そんな所で、自分は生きていけるのだろうか。
自分の親はいるのだろうか。
仲間なんで出来るのか、こんな醜く気持ち悪い自分に。
何となく、誰しもが『それ』を拒絶し、離れていくのが見に見えてしまう。
ならば、誰もが近付かない森の奥でひっそりと暮らそうと、『それ』は醜く気持ち悪い泥の身体を引摺りながら森の奥にある暗闇へと向かうのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから『それ』は森深くへ住まう様になった。
森の奥では数々のモンスターが存在しており、中には強力な個体も存在している。
『それ』はそんなモンスター達に怯えながらひっそりと身を隠して生活していた。
食事は主に木の実や果実のみ。
しかし、食事を毎日取れる訳ではない。
他のモンスター達によって食べられていたり、中には人間が採取して無くなっていたりするのだ。
約一週間、何も食べられない時もあった。
そんなひもじい思いをしていたが、誰かから奪うという選択肢は無かったのだ。
そもそも『それ』にそんな勇気はない。
ある時、運悪く木の実を取ろうとして複数の人間達に遭遇した時があった。
その人間達は『それ』を酷く嫌悪感を露にし、この世にこれほど醜い存在がいるのかと目を疑ってしまう。
人間達の中には誰にでも優しき人間もいたのだが、『それ』には他同様嫌悪感を抱いた。
『……っ!?』
『おいおい、あの方があんな表情をするなんて……』
『あのキモい奴でも優しいのによぉ』
『うぇぇーーー、下には下がいるんだなぁ』
『本当に、なんというか……物凄く、キモい、わ』
そんな会話は『それ』にはわからない。
しかし、自分は醜い・気持ち悪いという事はその様子で理解する。
『……はぁっ!』
『それ』はまた嫌われたとショックを受けてしまうが、誰にでも優しそうな人間が光の球を手から放ってきたのだ。
その人物は勇敢な聖女の様な人物。
光の球は、『それ』の咄嗟の反応で避けようとするのだが、身体に掠めてしまった。もし、この光の球を避けなければ身体の中心を貫通させていただろう。
ーーーっ!?!?
『それ』は戦慄する。
もし、あの光の球を避けなければ、死んでいた、と。
"死"というのは『それ』は見たことがあった。
ある時に一匹の小型モンスターが、何匹もの狼達によって襲われ、食われていたのを目撃したことがある。
夥しい血に牙によって抉り出され、露になった肉や臓器。そしてその小型モンスターの瞳には何も写し出されず只のされるがままの人形の様で……。
ーーーっ!?
その者は嫌悪感を抱きながら何度も光の球を放ってくる。
ああ、このままでは、殺される。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
『それ』の頭には恐怖で埋め尽くされる。
もう、必死だった。
殺しにくる人間共から『それ』は逃げた。
何か人間共は言っているがそもそも何を言っているか分からないし、逃げなければ殺される。
『それ』は逃げながら人間共から姿を隠しながら森の奥へと逃げていく。
人間共は逃がさないらしく、『それ』を追い掛けるのだが道中にモンスター達と遭遇し、その命を奪っていく。
それを逃げながら隠れ見ていた『それ』は、人間に対して恐怖心を抱いていたのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
辺りが暗黒に包まれ、静寂さが広がっている頃には人間達は追ってくる事はなかった。恐らく諦めたのだろう。
どれだけの距離を逃げてきたのだろうか。
道中にモンスターと鉢合わせになりそうであったが、それを上手く隠れてその場を凌いでいた。
ーーー誰か、誰か……。
『それ』は助けを求める。
殺される。
人間に。
だから、助けて。
しかし、『それ』はふと逃げようと動かす身体を止めてしまう。
気づきたのだ。
ーーー助けて、くれない。
そう。
こんな醜く気持ち悪い自分を助けてくれる存在などいないのだ、と。
その事を気付いてしまうと『それ』は悲しんでしまう。
助けてくれる存在もいない。
只でさえこの森に住まうモンスター達から嫌われている存在を救うものはいない。
例え、正義の味方であっても。
例え、慈悲深い聖女であっても。
『それ』を助けようと思う者は一人もいないのだ。
もう、死んだ方がマシではないかと思ってしまう程に『それ』の心はドン底へと落ちていく。
それと同時に"死"という選択の方がいいと身体を動かそうとする、その時であった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ーーーあ、れ?
ここは何処だ、と『それ』は辺りを見回す。
先程までは森の奥だった筈だったのに……。
目の前には草原が広がっていたのだ。
しかも夜だった筈なのに空は明るい。
「泣いているのか?」
そう声を掛けられた方へ顔を向けると、そこにはーーー。
そこには右が碧眼、左が新橋色のオッドアイの美しい金髪の人であった。
ーーー……誰?
「ああ、俺か?俺はーーー」
『それ』は驚いた。
相手は人間な筈なのに、何も恐怖を感じない自分。
そして、今まで誰一人意志疎通が出来なかったのに初めてこの人物に理解してもらえたのだ。
加えてーーー。
「……俺は……俺は、誰だっけ?」
ーーー……。
まさか、自分自身を知らない同じ相手に出会えた事であった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その自分の名を知らぬ者は『ルナ』と名乗ったのだが、本人は本当に自身の名前を知らないらしくとりあえず適当に作ったらしい。しかも自身の名前だけでなく、自分自身のこと殆ど分からない様だ。
そしてルナから『それ』に名前をつけてくれたのだ。
名前は『レイ』。
レイとルナはその緑広がる場所で共に過ごす事になった。
共に過ごしてみて、レイが驚いた事といえばルナはレイの酷く嫌悪感を抱くのが必然な容姿であっても全く表情や行動には現さなかった。もしかすると心の中ではそう思っているかもしれない。
だが、ルナはレイを軽々と抱き上げて「軽いな」と微笑みながら言う様子は本当に嫌われていないと思ってしまう。
レイはルナから様々な事を教えてもらった。
『かくれんぼ』や『だるまさんがころんだ』という遊びや、一緒にお昼寝をしたり、食事をしたり……。
何より驚いたのが、ルナの手から火の球を出した事だ。
一瞬、あの光の球を思い出して怖がってしまうレイではあったがルナはそんなレイを抱き寄せながら言う。
これは『魔法』というもの。
それだけならまだただ驚いていただけだった。
更に驚くべき事を告げるルナにレイは驚いてしまう。
『その姿なのは、魔力……魔法の源がコントロール出来ていないからなんだろうね。レイがいた場所は魔力が濃かったから余計なんだろう』
そう。
レイが酷く気持ち悪い容姿なのは魔力の、自身の魔力をコントロール出来ていないから元の身体が溶けている様なものらしい。
魔力をコントロール出来る様になれば本来の姿になる、というわけである。
ーーー私の本当の、姿……。
「……魔力のコントロール練習、しよっか」
ーーーうんっ!
そうして、レイは本来の姿になる為に厳しいルナの魔力コントロールの特訓が行われるのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ーーーこれが……私……?
「ああ、そうみたいだね」
近くの透き通る水が湧く泉に覗き込む様にレイは見る。
その水の鏡に写し出されていたのは、腰まで伸びた毛先が白い金髪にチャーミングなアホ毛を持つ庇護欲をかきたてしまいそうな幼く華奢で愛らしい人の子供であった。
本来の姿が信じられないレイは自分の顔を両手で触ったり、摘まんだりしている。
するとルナはレイに言う。
「レイ、これを着なさい」
ーーーうんっ。
そうルナから差し出されたのはゆったりとした灰色のローブ。
今のレイは生まれたばかりの姿。
その灰色のローブをレイが着てみると身体全体を隠してしまう程で丁度良かった。
肌触りと香りが良いのか着ているローブを鼻まで隠して堪能していた。
ルナが「どうした?」というとレイは『きもちよくて、ルナのいいにおいがする』という返答に「そうか」と頭を撫でる。
人の姿となったレイはルナから言葉や歩き方、そして魔法と体術の基礎基本を教えていった。
ルナから教えられた事を少しずつ吸収していくレイ。
数多くのルナから教えてもらっていく中、レイは薄々と気付いていた。
別れの時が、近づいている、と。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「やだっ!!!」
そうソプラノの様な声でレイはルナの身体を抱き締めて離さない。レイの碧眼銀眼のオッドアイからポロポロと涙を溢していた。
ルナはというと困った表情である。
「レイ、よく聞きなさい。お前はこれから元の世界に戻るんだ。その世界には俺はいけない。」
「いやだよ、るな!わたしは……わたしは、るなといっしょにいたい!るなといっしょじゃなきゃ、やだよ……」
「レイ……」
レイは拒絶する。
あんな怖いものがいっぱいいる世界になんて戻りたくはない。
あそこには、恐ろしい人間がいる。
ルナがいれば……ルナさえいればいい。
しかし、それを許さないかの様に今いる世界……そしてルナも光となって消えていく。
ルナと別れ。
それは避けられない。
「るなぁ、いやだ、きえないで……いっしょに、いてよ……」
「また会えるさ。それまで、少しのお別れだ」
「……るなぁ」
どれだけ泣こうが嫌がってもルナと別れてしまう。
それを理解したレイは渋々その別れを受け入れるしかない。
いや、レイは信じたのだ。また会えることを。
「ほらレイ。これを」
「……え?」
ルナは自分がしていた黒のマフラーをレイの首に優しく巻いていく。そのマフラーはマフラーとしてだけでなくバンダナとしても活用できるものであった。
「何時もレイを見守ってるから」
そうルナが言った瞬間、レイの世界は眩い光によって埋め尽くされるのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ーーーここは?
気が付くとそこは元の場所に戻っていた。
身体は酷く気持ち悪い容姿。
ああ、あれは夢だったのかと思ってしまうレイであったが、ルナから教えてもらった魔力のコントロールを実行する。
すると。
「できた……」
人の姿になれたのだ。
ルナからもらった灰色のローブと黒のマフラーもある。
あれは夢ではない。
そう実感するレイは嬉しくて首にまかれたマフラーに顔を埋めながら涙を溢してしまう。
魔法も使える。
身体も動かせて、ルナから教えてもらった体術も出来る。
声も出せるし、歌も出来て、話せる。
レイは涙を拭いて歩み始める。
「ルナ、わたしがんばるよ。」
そして、レイの人生がここで始まるのであった。
もし、この物語の評価等々が良ければ連載する、かも?です。