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ごくつぶしの記者  作者: 大代和史
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第6幕

窪田の記事を書いた吉井は記事にする前に巨漢に問いただされる。果たして吉井の選択は。

吉井はデスクの前で脅迫されていた。

いや、脅迫というのは言い過ぎなのかも知れない。しかし、この相手を見れば誰しもが納得する。

この男は福島という。大学ではラグビーをやっていて今は100kg以上の巨体である。その目は温和には見えるが体格は大きく、それは職業的なものというか、生活部で精神に支障をきたした者達を静止するためであり、彼にかかれば、暴れる者が3人ほどなら一喝または人間精神注入と称して一撃で静止できる。

 そんな福島であるのだから、福島本人がピエロのような喋り方でもないぎり、福島の喋り方は威厳に満ちたものであった。

吉井と福島そんなに仲が悪いというわけでもなく、どちらかといえば良かった。記事を書く能力にかけては福島の期待を損なうことはなかった。

そのため、福島は当初からおちついた様子でこう言った。

「記事の控えの署名は間違いなく窪田の署名なのか?」

「そうです。今日これも送られてきた。」

 吉井は未開封の封筒を差し出した。そこにははっきりと窪田の名が書いてあり、署名の筆跡と一致した。福島はその袋から書類を取り出した。確かにその中には窪田のサイン入りの署名が入っていた。

福島は言った。

「製品の質は良かったの?」

 これを聞いて吉井は福島がこの記事をだすのをためらっていると思った。このような言い方は迷うときの言い方だ。

「まあまあですかね。価格も良かったので、この記事がなければ、売れると思います。」

「じゃあやめておくんだな。その後のうちからの取材しにくくなる。もちろん、この窪田という男ではない。他の商品を作る会社に対してだ。」

吉井はこれに応答しようとした。何年か前に失った気持ちを取り戻しつつあった感情をこめて言おうとしたが、その前に福島は言った。

「この記事がでれば、確かに君は英雄になるだろう。だが、この記事が出たときから君はその場から一線に放り出される。過去に君が潰れた場所に戻るのだよ。うちは職業柄、君たちを使い捨てをリサイクルしてまたスクラップにするんだよ。ここはいいだろ?ぬるま湯だが、待遇はいい。君はまだ、リサイクルされるには早いんじゃないのかね。」

 福島は笑顔で言っていたが、その雰囲気からは記事を出さないと言っているようなものだった。

 吉井は少し考え、黙ってそこにある記事をデスクにしまった。福島はそれを見て、今日の他の担当原稿を受け取っていった。

 吉井はその時そして、自分の中にある何かが潰されたように感じた。しかしそれは福島のせいではなく、自らの自愛精神からではないかと考えていた。


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