第5幕
ライバル社でありながら落ちこぼれ記者同士であった島津は同じく社長の話をそのまま記事にして編集者に渡す。
島津も同じ状況であった。
彼もあの社長を取材していた。その会社の社長の製品の苦労話をする過程で吉井と同じような話を聞いたのである。20万ぐらいで人を雇って恫喝させながら、製品開発をしていた。残業代を削り製品を作ったこと。送検されて罰金は払ったが、別途民事訴訟は支払わない予定を考えているということ。
同じように記事にして窪田に送ると同じようにサインがかえってきた。
島津はサインが帰ってきたので、編集者に渡した。編集は吉田という男である。
この男の社内では、昼行灯と呼ばれていた。昼行灯というのは性格と評価を表すもので、昼に明かりなど無意味であるように性格は明るいのだが明るいだけで仕事をするものではなかった。もちろん暗い時には役に立つのだが、太陽ほどの明るさではないので、日頃は三枚目の喜劇のような振る舞いで相手を惑わせもした。しかし、そういう明るさなのでリハビリ文化生活紙面の編集者をしているのだった。
島津が紙面を渡すと吉田は一読してこう言った。
「島津君は仕事が早いよね。いつも感心するよ。今回のも面白く書いてあってなかなかいいよね。相手からのサインももらっているしいいんじゃない。」
そういうと紙面にするとして記事は通ってしました。
島津は案外あっさり紙面が通ってしまったことに驚きを感じた。
同時に何年かぶりにジャーナリストとしていい記事が書けたかもしれないと思った。
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