第4幕
醜悪な社長の主張と法の抜け穴をみた吉井はある決断をする。
窪田は嬉しそうに言った。
「その分のお金を研究開発に回している。それでこの製品を作った。この製品はいいよ。素晴らしい。普通の大企業に劣らぬスペックで価格を2割減しているからね。間違いなく大ヒットだよ。開発にも力を入れた。女性の意見を入れてね。」
「女性で開発していた人がいてな、その人は退職しているんだけど、まあ、バカだからこの開発に気が向いてなくてね。お前はここ以外では働けないクズだから、開発するか死ぬまで働けっていったらヒィーとかいいながら数ヶ月働いたんだよね。最終的にはブツブツいって蒸発したんだけどね。」
「ブツブツとは?」
「私は殺されるとかいいながら、原材料の発注先にヒステリックに価格交渉していたよ。素晴らしかったよ。あの瞬間だけクズが真人間になった。」
「今は何しているんですか?彼女?」
「退職してニートになったよ。社会に殺されるといってまたクズに逆戻りさ。やはりクズはクズだね。」
「これは労働災害としてその女から役所経由で請求されたんじゃないですか?」
「ああ、されたけど、私は業務に起因はしてないって言っている。あんな社会的なクズを一時的に雇って使える人財にできたのは私のおかげだと思っている。会社とは関係なく役所は判断するだろうけど、良い結果を期待しているよ。こちはもその職員には実際、謝礼も渡したしね。」
「いくらぐらいですか?」
「月給と別に2万かな。売上あがってないし、そのくらいにしないとね。」
「もちろん民事訴訟もされている?」
「されてるけど、支払わないつもりよ。いや少しは払うのよね。正確にはその口座には427円を入れる」
「その意味は?」
「発狂して死になという意味さ。もともとヒステリックになっているから死ぬよ。社会奉仕だね。クズは処分しないと。排水をそのままにすると詰まる原因になるからね。下水は早めに処理しないと」
あまりにも人をコケにする窪田を吉井は怒りを通り越して、二つの意味あきれていた。もちろん一つは窪田に対してだが、同時に社会の汚さにこれで社長となのり、社会にはある程度貢献しているといって巷ではもてはやされるわけだから、社会は醜悪だと感じた。
これは記者当時も感じたことだ。今ももちろん記者なのだが、吉井の記者としての人生はすでに死んでいた。しかし、この気持ちが表れたということは、また記者として生きているかもしれないと感じた。相手のそれこそ醜悪極まりない思想にふれて記者として再復活するとは、なかなかにひどい話だが、それも良いかもしれない。吉井はそう思った。
そして、記者としての矜持や就職した時に周りから期待された時の気持ちを思い返した。
書こう。この記事を。
だからこそ、ここで一般人としての怒りを抑え、聞き取りをしあの様な非道の社長でも話を聞くべきだと思った。
その後も社長から、製品の開発をした話を聞いた。
「社長さん、ありがとうございました。私は苦労話もつけて記事を付けて話します。」
吉井はオフィスに戻り、記事をしたためた。その後他の原稿を仕上げ今日の分を確認した。その後一応本人に確認を取る。記事内容について了解を撮るためだ。了解を取らなくてもいいのだが、今後の信頼関係や裁判沙汰になった時のものだ。私は聞いた内容もそのままに了解が来た。今は署名をファクスで求めている。後日、原稿にサインしたものが送られてくる。
原稿はこの記事の内容の一部ではあるが、その醜悪な窪田の主張を十分にくみ取れるものであった。
そういうような記事のため、一応本人の了解をもらってきてから、編集者に渡そうと思ってその数日はそのままにしておいた。
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