第3幕
島津と吉井は会社に精神をつぶされた記者である。現在はリハビリ部署で脛をかじってなんとか生きている。そんな彼らに、とある会社の商品を紹介する記事を書くのだが…ひょんなところから、法律の穴をかいくぐり黒く生きる者たちを取材する彼らの行き先には何があるのだろうか。
窪田は得意げに言った。
「裁判には負けたけど、ほぼ払ってないね。払わなくていいのだもの。」
「残業代は支払わなくて良かったのですか?」
「判決は支払えとなったけど、支払っていない。」
「すごいですね。そういうマジックがあるんですか?でも、どうやって?支払わないんですか?」
「知りたい?でもな…」
「ここまで話して、ここは社長一つ後学の為に教えてくださいな。製品の案内もちゃんとしますからね?」
「その言い方は悪くないね、社長をしていての楽しみはこれだよ。社長であれば、いや、社長でなくても組織の実力者は人々が媚びる。だからやめられない。こういうことをちゃんという奴は好きだよ。」
そこについて真っ当に聞いたところで、教えてくれないのは見えていた。
この社長の少しの虚栄心を刺激し、少し相手に理解をして共感したほうがいいだろう。そうすると気を良くした相手は話してくれるものだ。
これは警察回りをしていた時の刑事のやり取りから教えてもらった。検事もそうしているらしいからおそらくそうなんだろう。
「社長さん、差し押さえはどうしたんですか?」
「差し押さえは大したことはない。仕事に関係する物品は取れないし、もちろん私物なんかは取れるのだけどね。だから事務所のものはほとんど取れない。これだけでも法律は奴らのいうほどに守ってくれないだろ?だからあれほど行ったのにね、愚かな奴らだよ。」
「でも、銀行の差し押さえはどうなったんですか?普通なら社長さんの会社の口座をさし終えられるんじゃあ」
「銀行口座は差し押さえを受けそうな口座をあえて教えておいて、そこの口座にはあんまりお金を入れないのよ。ほかの口座を作ってそこに口座に入れるのよ。」
「海外送金よりもこの方が楽にできる。実際には銀行はたくさんあるわけだし、仮に銀行名がわかったとしても支店名を特定しなきゃいけない。支店をたくさん調べるだけ、その分お金がかかるから大体諦める。ここに罰則はないから法律は無力なんだよなぁ。」
窪田は挑発するかの如く私に言った。おそらく犯罪者が自供をするというのはこういうことなんだろうね。
「なるほど!社長、そうするとお金は取れませんよね。」
「そう、一応差し押さえをされる時のために一時的に現金を引き出すこともあるよ。差し押さえはその瞬間だけ差し押さえるだけだからね。」
「その分のコストは残業代よりはるかに安い。ランニングコストが時効で消えゆく賃金よりもはるかに安いからそうしている。」
「一体どれくらい支払っていないですかね。」
「遅延利息を考えると600万くらいかな。」