大人の色気に惑わされて2
『何でもしてあげる』という言葉に、承諾してしまった。
こんなキレイな人に話しかけられる事すら、レアなのに、何でもしてくれるんだぞ。いや、まだ、決まったわけではないが。
とはいえ、少し不安にもなってきた。
もし、俺が負けたら。何をされるんだ?
キレイな顔をして、猟奇的な事を楽しむ人だったらどうする?
いや、実は恐い人とつるんでいて金をまきあげられるとか…高校生が大金なんて持っていないから、代わりにとんでもない事をしなければならないとか…
しかも、その後、タクシーに乗せられた。
いや、乗らなければ良かったのだが、美人の笑顔につられ、密室で2人 ¦(運転手がいるから正確には違う) という状況に目がくらみ、ほのかに届いた甘い香りに背中を押されてしまったのだ。
『何でもしてあげる』という言葉に目がくらんだばかりに……
「運転手さん、近くの駅までお願い。どの位かかる?」
「15分ぐらいです」
「じゃあ、間に合いそうね」
彼女の言葉はまるで俺がいない状態での、ビジネスしている人の会話だった。
スーツ知識がない高校生でも彼女が着ているのは高そうなブランド物な気がする。まあ『サラ・マロン』のネックレスを身につけられるのだから、それなりに稼いでいる人なんだろう。
こうしてバスで30分近く ¦(バスとタクシーに時間差がでるのは、バスが何カ所か停車するから) 揺られた時間とバス代がリセットされた。
ヘアピン買ってから、彼女に会いたかったな。いや、ヤバい人だったら、あの時、立ち止まらず即刻、店に入っていれば良かったものを。
「………」
いやいやいや、まだ、彼女が猟奇を好む人で、ゲームに負けたら『すぷらったー』状態になると決まったわけではない。
そうだ、何よりも『サラ・マロン』を身につける人に悪人はいないのだ。
『マスター、思い悩んで考いる所、悪いんですが…そろそろバトル設定してください』
マロンの声が頭に届いた。
え? タクシーの中で?
こんな狭い所でバトルができるのか?と思ったが、隣で美人OLがスマホを操作しているので、俺もとりあえずスマホ外バトルの設定を進めた。
バトルが可能キャラクター 一覧に『カヴィーリア/hodaka』と出ていた。
『この前のアップグレードで、キャラクターの他にゲーム主が出てくるようになったのです』
更新情報を見ない俺にマロンが教えてくれた。
『バトル申請があります』とメッセージがあるので受諾すると、二頭身マロンが肩から脚の上に飛び降りた。
相手キャラクターも同時に、美人OLことhodakaさんのスカート上にいた。自然と膝辺りの白い生足に視線が進むのは仕方ないというもの。
hodakaさんの相棒カヴィーリアは、これまた大人の女性キャラクターだった。
肩を露出し、ボディラインがくっきりと見える赤いドレス。しかも左側だけスリット、切れ目が入り太ももを拝むことができた。金色の髪はゲーム主と同じように盛り上げていた。
カヴィーリアの右手には短銃が握られていて、スリットが入った方の太ももにも赤いベルトともう一丁の銃が予備としてあった。
一方、マロンの武器は、おもちゃの短銃っと言ったところだろうか。ドライヤーサイズの大きさで白色の鉄にヘアピンをくっつけたような装飾が見える。
マロンの太ももにも白いベルトがあるが、そこには銃弾が3つあった。どの銃弾にも飾りがついていて、明らかにヘアピンの形から無理矢理銃弾に変形した、といった方が早い。
こちらも現実には存在しないレベルの大きさ。
『装飾付きの武器もあるのね』
スマホ画面に文字が現れた。
今まではバトル申請をした後は『バトルを開始します』という文字が中央に現れるだけだったが、今はラインのように右上にhodakaさんだと思う文章が出ていた。
これもアップグレードによるものらしい。
『こういうタクシーの中とかだとチャット機能は便利ね』
マロンの装飾銃についての返答を打ち込んでいる間に、もう次の会話が出てきたので、とりあえず返答しようとhodakaさんに視線を向けたら、微笑み返すhodakaさんの目と合う。
慌てて視線をそらしたが、彼女の顔から離れる前に口角をゆっくりと上げる唇に視線が引き込まれていた。
『バトル、スタート』
キャラクターたちの声でようやく、視線を戻すことができたのだが。
「あれ?」
マロンもカヴィーリアも二頭身のまま、走りだした。
『二頭身のバトルは初めて?』
hodakaさんがスマホから聞いてくれた。
『はい。狭いタクシーの中で、どうするんだろうと、思っていましたが、こういうのもありなんですね』
文字を送信してバトルの様子をみると、2人とも相手を伺いながら高くジャンプしていた。
マロンは助手席のヘッドレスト¦ (頭をささえる部分) の歩道側に身を隠し、太ももから銃弾を取り出すと装填した。
『ポポタムルズ』
マロンから放たれた、それは緑色をした球状の光だった。
運転席のヘッドレストから運転手の頭上に移動したカヴィーリアに向かう。
カヴィーリアは、よけた。
運転手の車道側の肩に移動。
マロンの攻撃は音をたてて運転手の頭を直撃、帽子が破損していた。
ゲーム主たちしか見えない光景だとしても、ハラハラしてしまう。
銃弾を避けたりできるのも、ゲームならでは。そもそもマロンの光銃自体ありえない。
マロンの技名だが、買いに行く予定だった大型ショッピングモールにある、アクセサリー屋の名前である。良い一品を手に入れるためにはあらかじめ調べておくから。
『ワーカビリティ』
カヴィーリアは謎の言葉を言い放ち、自動装填式銃を二発、打ち出した。
カヴィーリアの動きは映画とかで見るような、軍や特殊なレベルな人達の動きで無駄がなかった。
『いたたたたたっ』
それに対しマロンの動きや攻撃をくらったらしい反応はコミカルすぎた。
本来、まともにくらったら『いたたたたたっ』で済まされるものではないのだが、そこはゲーム。
攻撃をくらったマロンは、助手席に転がり落ちたようだ。
このゲームに『地の利』があるならば、高い位置に運転手という身を隠す場所の割合が多いカヴィーリアが優先のように思える。
そう考えている間にカヴィーリア2回目の攻撃を始めた。
『古堅建設の渋田主任』
……。hmwの技名は、ゲーム主が打ち込んだ文字が出てくる。検索サイトやショッピングサイト。はてはメールまで。他人には知られたくない単語なんて、このゲームではおかまいなしなのだ。
hodakaさん、涼しい顔をしているけれども、目が泳いでいる気がする。
俺からすれば、仕事関係が技名になるのは、さすが社会人だなぁと思っていると、hodakaさんからメッセージが届いた。
『インテリアコーディネーターをやっているんだけれども。色々とあってね……』
最後の『……』からして、何かトラブったのかなと、想像してしまうのは名前のせいだろうか。
最初の攻撃『ワーカビリティ』も専門用語のようだ。後日、調べてみたら『コンクリート打ち込み作業の難易度を表す言葉』らしい。らしいと言った所で専門すぎてまったくわからない。
複雑な言葉らしいが、カヴィーリアは声高らかに言い、銃口をマロンではなく、上、バックミラーに放った。
後部座席ではマロンが転がり落ちてどういう状態かはわからなかったが、カヴィーリアが銃を打ちはなった後、マロンは運転席側に移動していると考えられた。
でなければカヴィーリアがバックミラーを取り付けている部分を打ち砕き、落下させる必要がないからである。
『あれ? あ……』
間の抜けたマロンの声がして数秒後。スマホ画面からゲーム終了のメッセージがでた。
もちろん『LOSE』
「…………」
差が開りすぎたというべきだろうか。まともに戦闘できなかった。
『hodakaさん、強いですね』
まだ、メッセージが送信できたので、素直に送った。
『シカマ ¦(梨央のゲーム登録名) 君の攻撃は夢があって見てて楽しかったわ』
キャラクターの姿や武器、技の名前。全てに子供脳と大人脳の違いを感じていたが、そう言ってくれると、嬉しかった。
『とはいえ、私が勝ったから。従ってもらうわよ。良いわね』
『え、ええ』
hodakaさんはメッセージを送る前に意味ありげな視線を俺に向けた。
『じゃあ……脱いでね』
「え……」
タクシーが駅前で止まり。hodakaさんが向かった先は、一軒のカラオケボックスだった。
「…………」
店員がドリンクを置き退出すると、hodakaさんに言われるがままに脱いで対戦相手にさらけ出す。
「これで良いですか? 」
「ええ」
対戦相手は近づき、それをじっと見つめる。向けられた視線に熱を感じる。
「85点。やっぱり私の目に狂いはなかったわ。
きれいな丸み、色も黒ずんでない。触っても良いかしら」
「…どうぞ」
hodakaさんの細くて長い指の感触。温もりが優しくそれに触れるた。くるぶしに。
踝 足首にある、でっぱった所。
hodakaさんは踝フェチだった。
脱いだと言ったが、もちろん靴下だけである。
「きゅっとしまった足首とアキレス腱。その2つが良い形だからこそ、ぽこっと出た踝が輝いてみえるのよ」
hodakaさん。よさげなくるぶし候補を見つけては、タクシー内でバトルし、カラオケで対戦相手の踝を堪能するとのこと。
「hodakaさん。負けたらどうするんですか?」
「今のところ全戦全勝。私の踝愛に勝てる人なんて誰もいないわ」
「………」
それにしても85点の踝。喜んで良いものなのか……
踝を堪能したところで、hodakaさんは名刺を渡した。
「インテリアコーディネーター 穂高 華恵さん」
「家族や親戚でコーディネートが必要になったら、いつでも呼んでね」
さすがは社会人、ビジネスも忘れない。
「シカマ君には、裏のプライベート用のアドレスを書いたから。踝を見せてくるるなら、いつでも連絡して。
シカマ君なら、遊びに来てもいいわよ」
きっと彼女の部屋は、床暖房とかになっていて、真冬でも素足でいられる¦ (一年中くるぶしが見られる) ように尽くしているんだろうな。
「…………」
『サラ・マロン』の雪の結晶形のネックレスがhodakaさんの胸元でキラリと光を反射した。
『サラ・マロン』を身につける美人、その中は俺以上に秘密の『好きなもの』を持っている人だった。




