報酬?
アルモニー空間内滞在中は現実世界の時間が止まっていたので、長い日曜日だった。
その翌朝
『マスター。グランドマスターからメッセージが届いています』
いつもより早く目が覚めた俺にマロンが告げる。
『魔法の杖を振るから、今すぐ最寄り駅に来てね。
琴子ちゃんも呼んでいるから身だしなみはしっかり。あと、大サービスで朝食を奢ってあげる』
「………」
相変わらずの人だ。
琴子さん……顔から火が出るほど恥ずかしい告白をしてから、まだ会っていない。それなのに……
会って、どんな顔で、何を話せばいいんだ?
「理央くーん」
俺の不安をよそに、琴子さんは駆けつけてくれた。
と言うよりも、後ろから走ってくる黒ローブ女に脅え、俺の後ろに隠れる。
「まって琴子ちゃん。おや、残念耳君、来てたんだ」
「衣聖羅さん、現実世界でその衣装はマズイでしょ」
慌てて辺りを見回したが、通勤、通学の通行人の視線は駅に向いていた。
「見えないから大丈夫。
さて、さっさと魔法の杖を振って朝ごはんを食べようよ。琴子ちゃん、何食べたい?」
やっぱり、そっちが目的か。
「しばらく海外を転々とするから、琴子ちゃんの耳を見てエネルギー充電したくてね」
「海外って『hmw』を海外に進出するんですか?」
琴子さんは脅えながら、『hmw』の将来を聞いた。
「これから視察して、どうするかは、その後かな。何人か会わないとならないから、憂鬱でね」
「海外って衣聖羅さん、パスポートとか持っているんですか?言葉とか大丈夫なんですか?」
「……。そこら辺は気にしなくても、何とかなるよ」
この人、魔法の力で言葉の壁やら法律をねじ曲げる気だ……。まあ、異世界から来たんだから、外国語の前に日本語問題をクリアしているか。
「さて、まずは魔法の杖。現実世界で魔法を使うには必需品でね」
衣聖羅さんは右手の親指、人差し指、中指だけを伸ばし左手の平に当てて離すと、そこから白銀色の長い杖を引っ張り出していた。
白銀色の杖に装飾はないが、見たことのない文字がびっしりと刻まれている。
「それが魔法の杖なんですね」
「そう。持ち主の強い意思にしか従わない。王国時代からの相棒、オレイユ」
ゲーム相棒の名前もそこからきているようだ。
あれ、この前『オレイユ』ってフランス語で耳って言ってたな。衣聖羅さんにそれを聞いたら『偶然。こっちの世界で知って嬉しかった』と目をキラキラして答えてくれた。
「叶えられない願いもあるから。『魔法で願いを叶える』ではなく『魔法の杖を振る』にしたの」
なるほど。琴子さんが別の耳にしてくれと言われたら不可能ということか。
「じゃあ、ちゃっちゃっと済ませるよ。琴子ちゃん、ちょっと残念耳君から離れて」
衣聖羅さんは俺に向かって白銀の杖、オレイユを2回振った。
「……?」
何か体が軽くなったとか、エネルギーを感じたとか、そういう変化はなかった。
「次は琴子ちゃん」
琴子さんは脅えてつつも、ピンと背筋を伸ばす。
魔法使い探しゲームで見事、当てたらしい。
「……………」
衣聖羅さん、目を閉じて小声だがこの世界では通用しない言葉を唱える……って、明らかに俺の時とは違うだろ。
しかも、オレイユを振り回した時、白い粒子みたいなものが琴子さんに降りかかっている。
「さて、魔法の杖振りイベントはこれにて終了。朝ごはんを食べに行こう」
衣聖羅さんが向きを変えた瞬間、黒ローブもオレイユも姿を消した。そして現実世界にどこでもいるスーツ姿の美人キャリアウーマンに代わると、何事もなかったかのように車輪付きのキャリーバッグをゴロゴロ言わせて歩き出していた。
「……」
衣聖羅さんの視線が離れてから、改めて自分を見回し変化はないか確かめたが、今あるとすれば空腹を訴える胃ぐらいだった。
急いで制服を着て身支度を整えたので、腹が鳴りそうになる。
琴子さんに聞かれたくないので衣聖羅さんの後を追おうとしたら、袖口を引っ張られた。
「理央君、あのね……」
琴子さんの唇が耳に近づく。
「理央君の耳が変わってる気がするから、後で確認した方が良いよ」
「!」
魔法の杖、1回分は明らかに耳にかかっている!
「早くおいで、可愛い耳姫と王子君」
そして、その耳は異世界に暮らしている第1王子の耳と瓜二つなのは間違いないだろう。
「はぁ……やってくれたな」
あれでも魔法はかかっているようだ。
なら、もう一つの効果が知りたい所。
朝メシを食べながら聞き出すとしよう。残念耳からお気に入りの耳になった以上、教えてくれる可能性は高い。
「……」
そう考えてた俺の頬に柔らかい何かが触れる。それが琴子さんの唇だと分かった時、全身が熱くなり鏡を見なくても赤くなっていると判断できた。
「こここ、琴子さん」
「へへっ。衣聖羅さんの魔法は、ストレートに言えなかった私に、勇気と背中を押してくれるものだったよ」
それだけ言うと琴子さんは駆けだした。
頬に手を当て、琴子さんの後ろ姿を見つつ『俺の二回り目の魔法も、これだったら良いな』と思った。
おわり
『ろば耳』を書く、きっかけは、ドラッグストアの駐車場で、某アイドルアニメのキャラクターをどんと塗装|(貼った?)した痛車を目撃した時でした。
都会ならともかく、こんな田舎で目立つなぁと……見ていたら持ち主さんがその車に乗ったのですが……作業着姿。と言うことは、毎日、この車で出勤しているらしい。
自分の『好きなもの』をここまで出せる人は凄いと思い、羨ましくもありました。
楠木が『hmw』をやったらどうなるんだろう……( ̄∇ ̄)
相棒は獣人だろうな……人間に興味がもてないから|(え?)全身もふもふボディ、そんなキャラクターなら絶対アプリ削除はできないだろうし。
技名の方は健康法……自律神経が少し宜しくないので、サプリメントやら食べ物やら……(´`:)リアル過ぎてやだな、知らない人じゃないとバトルできないなぁ。




