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ろば耳  作者: 楠木あいら
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3つの指輪

「落ち着いた所で説明しとくね、残念耳君」


 浮遊していた衣聖羅さんは、ふわりと俺の横に着地した。


「残念耳君はこれからアクセサリー専門店『タエニア』にたどり着けたら勝ち。

 制限時間はアルモニー滞在時間まで。

 途中でぶつかってHPがゼロになったら負け」

「HP?」

「右手の平を見てごらん」


 言われるまま、右手の平に視線を向けると『38』とデジタル数字が浮き上がった。


「さっき子供の魔法生物に飛ばされたからね。因みにHPは50スタートだから」

「あのぐらいの衝撃で12のダメージか」

「それから捕まってもアウトだから。残念耳君、左を見てごらん」


 魔法生物よりでかい生物、人間の足が目の前をあっという間に通り過ぎていった。


「あの靴とジーパン……隼兎だ」

「残念耳君以外のプレイヤーは、君を捕まえたら勝ちになるルールだから」

「ルール?」

「いやぁ、魔法使いを当てろイベントがさ、殆どのプレイヤーが正解して面白くなくなちゃってね。

 急きょ、別イベント『魔法使いからの挑戦状』的なイベントを考えたんだ」

「挑戦状って……衣聖羅さん、何もしてないじゃないですか」

「……。考えて設定したから、挑戦状になるよ」

「……」


 とはいえ、正解できなかった自分が悲しい。


「まあ、突然のイベント変更だから。勝利報酬は魔法の杖、二振りにしたよ」

「そもそも杖を振ったら、どうなるんですか?」

「それは、振られた人のお楽しみ」

「………。

 それにしてもでかいな……人間って……あんなサイズの生物に見つかったらひとたまりもない」

「ちょっと不利になると思って、残念耳君にアイテムを付けたよ。左手を見てごらん」


 左の人差し指、中指、薬指に青、緑、赤色の石がついたシルバーリングが装備されていた。


「いつの間に……」

「たった今。

 そのアイテムは魔法を発動するよ。呪文は残念耳君の『好きなもの』で威力はその言葉を唱えた時の『好き』っていう感情」

「……。普段のバトルでマロンが唱える技名が呪文で。スマホに打ち込んだ時の感情が、強さになるのと同じですね」

「解説ありがとう」

「解説って誰の、ですか?」

「さぁさ、そろそろ移動しないとプレイヤーに見つかっちゃうよ」


 回避されたが、衣聖羅さんの言う通り、いつ、誰が通ってもおかしくはなかった。

 俺は左右と上を確認して、イベントをスタートした。



 店沿いをひたすら進む。バルバニアファミリーサイズなので、進んでも進んでも、人間サイズから見れば殆ど進めていない。

 それなら全力疾走したい所だが、痛感システムと共に体力消耗システム、息切れシステムもあるので歯がゆい思いで進むしかないのだ。

 それでも魔法生物にぶつからないように進めるから、まだマシかもしれない。


「タエニアは3階。ここは1階。どの辺だろう?」


 1日近くいたとしても正確な場所を把握するのは難しい。


「先に言っておくけれども。ただの視聴者だから、タエニアまでの場所は自力で頑張ってね」


 浮遊する魔法使いは相棒役ではないので、ナビはしてくれないようだ。

 それから気になる単語が1つ。


「視聴者……気になってたんですが。

 プレイヤー敷地内を捕まらないように逃げるテレビ番組ってありましたね……」

「うん、ハナが教えてくれた。面白そうだったし、急いで考えなければならなかったから、使わせて貰った」


 その番組を見てて、気になっていた俺は、衣聖羅さんにも聞いてみた。


「あと、俺は隠れているけれども、浮遊する衣聖羅さんでプレイヤーに居場所がバレません?」

「逃走者を撮るカメラマンのせいで、バレるんじゃないかってやつ? 心配はないよ。私の姿と声はプレイヤーや相棒、魔法生物たちにもにも見えず、ぶつかったとしても通り抜けるから」

「相棒……相棒も放されているんですか?」

「君のマロン以外は、プレイヤーの指示に従って動くよ。ただし、残念耳君を見つけても捕まえられない。プレイヤーに居場所を報告するぐらいで」

「じゃあ、6人のプレイヤーに6人の相棒……12人から隠れなければならないんですか?」

「まあ、アルモニーという巨大施設で、君はスモールサイズ。タエニアに向かっている事は知らないから、皆、敷地内に広まっている。さらに3回だけ魔法が使えるんだから。フェアじゃないかな。

 それにハナは、このゲームに参加してないから10人になるよ」

「………」


 hodakaさんの事について聞きたかったが、身の危険を感じ慌てて近く店内に猛ダッシュして逃げ込んだ。

 逃げ込んだ店は有名コーヒー専門店。誰もいないテーブルの脚に身を潜ませて、安全を確認。

 できなかった。巨大な足が店内に入ってきたのだから。

 ヤバイ、こっちに来る。

 ズカズカと向かってくる足に、恐怖心が全身を凍りつかせようとするが、それを払いのけ移動を始める。

 『逃げるといっても、どこに逃げるの?』と自問してくるが、自答はできず、巨大な足から離れたい一心で、テーブルや椅子の脚をとにかく走るしかなかった。


「足は?」


 ある程度してから巨大な足を確認しようと、後方を振り替えってみると、もっと巨大なものが目の前にあった。

 足以外の物体を目の当たりにして、最初、それが何なのか理解できなかった。

 人間の上半身、しゃがんでいるとわかったが、巨大な人間はそこから両膝と左手を床につける。こっちとの距離が一気に縮まった。


「あんなに走ったのに……」


 バルバニアファミリーサイズの移動距離にショックが大きかったが、そんな事よりも危機が差し迫っている。捕まったらゲームオーバーなのだ。


「………」


 巨大な人間の目は俺を捉え、腕を伸ばす。

 俺は人差し指から青色の石がついた指輪を外し思いっきり投げ、とにかく叫んだ。


「サラ・マロン」


 目の前にあった小さな指輪から、小さな氷が無数に発生し、伸ばした手にぶつかる。

 そのサイズで大丈夫かと不安になったが、小さな氷の力は凄まじく、巨大な人間はあっという間に氷付けになった。


「さすがはろば耳ファイター。魔法使いもびっくりな威力だね」


 終息を確認してから、衣聖羅さんがふわりと舞い降りてきた。


「魔法にかかった時点で彼はゲームオーバー。氷も数分で溶けるから安心してね」


 捕まらないと聞いて、氷の塊に近づき、冷たい感触を楽しんだ。


「悪いな、吹田」


 罪悪感0で、凍りついた吹田を見上げた。

 しかし、開始してすぐ使ってしまった。使える魔法は後2回なのに、アルモニー内をうろつくプレイヤーと相棒は9人。吹田がゲームオーバーになったから8人か。

 果たして、たどり着けるのだろうか……。


「はぁ……」


 不安を長いため息で体から吐き出した。そうやったところで、不安はすぐに体に貯まっていくが、それでもやらないよりはマシで。

 払拭したければ、目的地に向かうしかない。例えバルバニアファミリーサイズの小さすぎる足でも。


「進むか」


 俺は少しだけ気持ちが軽くなった体で、再び歩き始めた。


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